- 2019年06月28日 23:00
日本短距離が記録を打ち立てる秘訣は スポーツ医学専攻の筑波大学・白木仁教授インタビュー - 吉田哲 (Wedge編集部員)
陸上の日本選手権男子100メートルで、サニブラウン選手が10・02秒の大会新記録を打ち立てた。桐生祥秀選手が2017年9月に日本人初の9秒台をマークしてから、日本人短距離選手が記録を塗り替え続けている。その一つの要因は動作解析を取り入れたトレーニングや筋肉の疲労状況を把握するコンディション管理といった最新技術であると、トレーナーでスポーツ医学を専攻する筑波大学の白木仁教授は指摘する。近年、日本短距離が急成長を遂げた秘訣をインタビューした。
[画像をブログで見る]白木教授はアスレティックトレーナーとして、長野冬季五輪日本選手団本部トレーナーや、シドニー・アテネ五輪でシンクロナイズドスイミング日本代表チームトレーナーを務めてきた。現ソフトバンク監督の工藤公康氏らプロスポーツ選手のサポートも手掛けた。現在は、スポーツ選手の競技力向上やけが防止のためのトレーニングとコンディショニング方法を研究している。
近年の日本人短距離選手の躍進について白木教授は「トレーニングとコンディショニングの内容が変わり、ここ10年で大きく伸びた」と評する。トレーニングに関しては、感覚によるものが大きかったところから、走り方を科学技術を活用して分析し、日本人ならではの最速の走りを求めるようになったという。
外国の選手と比べて足が短い日本人はスタートダッシュが得意なものの、身体能力が劣るため、レース後半で追い越されていた。それに対し、これまでは「追いつくことだけを考えて、がむしゃらに力を入れていた」と白木教授は振り返る。
バイオメカニクスと呼ばれる動作解析でウサイン・ボルト氏ら世界トップレベルの選手の走りを分析すると、地面を蹴るときに力を入れていないことが分かった。「足を振り上げる時に力を入れて、足を下ろして蹴り上げるときに力を抜くと、筋肉が振り子のようになってスピードが上がる」という。
こうした科学的な走り方の解析を陸上短距離のトップ選手だった人が学び、選手時代に自らが持っていた感覚とともに現役選手に伝える。「自らが疑問に思っていたことを科学的に分析し、選手同士で使える共通言語のようなもので走り方のコツも教えられる」と解説する。
自らの筋肉を把握し、試合で最大限の力を
[画像をブログで見る]白木仁教授
コンディション管理も大きく変わった。それまで、技術や戦略を教えるコーチと、選手の体調を管理するトレーナーの仕事ははっきりと分かれていた。「今ではトレーナーとコーチの仕事がクロスオーバーしている」という。コーチが選手の筋肉の動きや身体のバランスを見て、トレーナーに選手の体調を確認。トレーナーは選手と一緒にウオーミングアップをして身体の動きを見た上でマッサージやストレッチを施す。状況によっては、コーチと相談して練習メニューを変更させる。
こうしたコーチとトレーナーの密な連携により、選手の筋肉の疲労傾向などもわかり、大事な試合で力を発揮させることが可能となる。日本選手権に向けても「多くの選手は準決勝から決勝まで空いた1日を休み、決勝当日の午前もストレッチなど軽い運動だけで、エネルギーがたまったまま試合で一気に走る、という管理をしているだろう。試合の1、2時間前に1本か2本ダッシュするだけ」と分析する。
全米大学選手権から立て続けのレースとなっているサニブラウンに関しては「予選を通じてコンディションを整えている。スタートが得意でなく、シミュレーションするタイプでもないので、決勝前でもダッシュしていないだろう」と話す。
現代では、筋生理学の発展によって、どれほどの練習で筋肉の疲労がたまり硬くなるか、どれぐらい休んだら回復するかといったことが分かるようになっている。それは選手の体質やトレーニング方法によって異なる。「自らの筋肉の疲労と回復のリズムを把握したうえで、選手は試合に向けてトレーニングする日と休む日を決めている」と白木教授は解説する。
日本短距離は、最新の科学技術やそれを扱うコーチやトレーナーで飛躍的な成長を遂げた。「サニブラウン選手や桐生選手のように最新のトレーニングとコンディショニングを経験した選手が指導する立場になったら、またレベルは上がる。足の速い日本人が増えれば、日本スポーツ全体のレベルアップにもなる」と期待している。
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