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地ビールが失敗し、クラフトが成功した訳

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クラフトビールの勢いが止まらない。小規模なビールを作れるようになったのは1994年からで、当時は「地ビール」とも呼ばれた。なぜここに来てブームになっているのか。ライターの石田哲大氏は「意欲的な醸造家と若い飲食店店主、さらには流行に敏感な飲み手が共鳴してブームが起きた。その背景にはSNSの台頭があったのではないか」という――。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Anzel)

■「地ビール=おいしくない」という残念な認識

クラフトビール専門店の新規出店が相変わらず続いている。いっときのはやりで終わることなく、外食マーケットにしっかり根付いたようだ。

今では少しでもビールに興味がある人ならば、何げなく使っている「クラフトビール」という言葉だが、10年ほど前まではほとんど見聞きすることがなかったはずだ。クラフトビールとは、小規模ブルワリー(醸造所)でつくられたビールのことを指すが、日本では「地ビール」と呼ばれることが普通だったからだ。

1994年に酒税法が改正され、小規模業者でもビールを醸造・販売できるようになると、観光地を中心に日本全国で地ビールが売り出されたが、地元の特産物を無理に使用したり、醸造技術が伴っていなかったりで、品質は決して高いとはいえなかった。その結果、「地ビール=おいしくない」という認識が広がり、ブームは下火になる。

再び地ビールが注目されはじめたのは、2010年ごろのことだ。それまでも老舗の専門店が地ビールを提供していたが、この頃にオープンした専門店は、イメージがよくない「地ビール」でなく、「クラフトビール」という呼称を使用した。

■「生中」では注文が通じない店作りがウケた

「Ant'n Bee(アントンビー)」(東京・六本木)、「vivo! BEER+DINING BAR(ビーボ!ビア+ダイニングバー)」(同・池袋。開業は03年で、10年4月に国産クラフトビール専門店に業態転換)、「Watering Hole(ウォータリングホール)」(同・代々木)といったこの時期に開店した店は、その後続々と登場するクラフトビール専門店の先駆けといっていいだろう。

これらの専門店は、既存のビール業態とはさまざまな面で一線を画していた。

まずはビールについて。ビールをメイン商材としていたおもな既存業態には、①ビアホール、②パブ、③外国ビール専門店があった。①は大手ビールメーカーの樽生ビール、②は英国系の樽生ビール、③はベルギーやドイツ産の樽生ビールやボトルビールを主力商品として扱っていたのに対し、クラフトビール専門店は日本全国の小規模ブルワリーから仕入れた樽生ビールを主力商品とした。それも常時10銘柄、多い店では20銘柄以上をそろえた。

たいていの店では、産地、生産者、ビールのタイプや特徴などを細かに記したリストを用意し、そこから好みの商品を選んでもらう注文スタイルを採用。これまでビールといえば「生中!」などと注文するのが当たり前だった消費者にとっては、新鮮な体験だったにちがいない。

■女性や若者が「おしゃれ」にビールを楽しめる空間

フードも唐揚げやフィッシュ&チップス、フライドポテトといったビールに合わせた定番つまみにとどまらず、和食、イタリアン、創作料理などを自由に提供し、それぞれの店の個性を際立たせた。

店のつくりもそれまでのビール業態では見られないスタイルだった。ブルワリーから仕入れたビールの樽は、客席から見える場所に設置した冷蔵庫で保管し、そこに取りつけたタップ(注ぎ口)からビールを提供。ずらりと並んだタップは見た目にスタイリッシュであり、これがクラフトビール専門店の「顔」となった。内装はカフェのようなくつろげる雰囲気にしたり、洗練された空間づくりをほどこしたりすることで、女性や若者がビールをおしゃれに楽しめるように工夫した。

こうしてクラフトビール専門店は、軽く扱われがちであったビールという商材に新しい価値を見出したといっていいだろう。

■2010年頃からグッと質が上がった理由

それにしても、なぜこの時期にクラフトビールが注目され、今日にいたるまで専門店の出店ラッシュが続いているのか。

第一に挙げられるのが、2010年頃を境にして国産クラフトビールの質が全体的に向上したことだ。前述のとおり、「地ビール」時代はご当地の土産物といった側面が強く、品質は二の次であった。しかしながら、一部の意識の高い醸造家たちは、この間海外で修業するなどして地道に研鑽を積んできた。こうした動きと比較的若い飲食店店主のチャレンジングなスピリッツが共鳴し、新しい飲食店のかたちとしてクラフトビール専門店が生まれたのだ。

それに呼応したのが、飲み手である。それまでビールといえば、大手メーカーのラガービールが一般的だったが、ペールエール、ヴァイツェン、ポーター、バーレーワイン……といったさまざまなタイプのビールが気軽に飲めるようになり、自分の好みのタイプやブルワリーを探す楽しみを覚えた。なかでもホップをしっかり効かせたIPA(インディアペールエール)の人気は、群を抜いていた。

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