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社会への「怒り」エンタメの裏に 宮崎駿の弟子

「生きていて感じる怒りや不満などを、物語の水面下に潜ませられるかを考えている」。こう話すのは、10代でスタジオジブリの宮崎駿氏に師事し演出を学んだ糸曽賢志監督。作品の中に「考えるためのヒント」を散りばめ、「噛めば噛むほど味が出る映像作りを心がけている」と話す。(聞き手・オルタナS編集長=池田 真隆)

インタビューを受ける糸曽監督

――糸曽監督は作品のエピソードを考える際に、作品をつくる意味を見出すまで深堀するそうですね。

糸曽:はい。作品のエピソードを考えるときには、「作って終わり」ではなく、「なぜその作品をつくるのか」と深堀するのですが、その理由は作品を観ていただいた方に、「考える楽しさ」や「必要性」を伝えたいためです。

――どのように深堀していますか。

糸曽:今その作品を制作する意味やその時代が抱える問題、流行っているものなどを中心に自分なりに分析したり、かみ砕いたりして検討しています。例えファンタジーの世界であっても、現実に沿ったかたちでシナリオは考えるべきだと思っているので、自分自身が生きていて感じる不満や納得のいかないことや事件などをまとめ、そういった事柄をどのように物語の水面下に潜ませられるかを考えています。

と言っても、作品を作る際にマイナス面を思いきり全面に出すと作品が暗い印象になるため、私の場合は表向きハートフルなファミリー向け作品、でも掘り下げると結構重いテーマを扱っているのね、みたいな作り方をするのが好みです。

だから作品には色々「考えるためのヒント」を散りばめていて、噛めば噛むほど味が出るというような、観ていただく度に発見がある映像作りを心がけています。

――糸曽監督の作品づくりのスイッチは、「怒り」とのことですね。

糸曽:作品づくりのスイッチは「怒り」や「不満」です。私の場合は作品を作るだけでなく、著作権を全部自分のところに持っておくという座組み作りや、出資者との契約なども自分で行っています。

オリジナル作品を制作する場合、ゼロから組み立てたり、デザインしたりなど、描くこともたくさんあるし、設定など考えることがいっぱいあって大変なのに、権利の問題やお金の問題、宣伝や展開方法考案までのしかかってくると、発狂しそうなくらいやることや学ぶことが積み重なります。

そういった理由から一つの作品を作るためにはすごく時間がかかるので、楽しいとか嬉しいみたいな、すぐに忘れてしまう感情で作品づくりに取り掛かったとしても最後までやり切る熱量が保てないのです。

だから、大げさですが、「これだけは伝えないと人生終われないぞ」くらいの悔しい想いが湧いた時に動いています。

「サンタ・カンパニー ~クリスマスの秘密~」は12月に全国劇場公開

――日本とフィンランドの外交関係樹立100周年を記念して、劇場アニメ作品「サンタ・カンパニー ~クリスマスの秘密~」「コルボッコロ」(2019年12月上映予定)を制作しています。「サンタ・カンパニー」はどのような「怒り」からエピソードを構想しましたか。

糸曽:「サンタ・カンパニー」に関しては、自分が考えて作ったのにお金を出資した人にしか権利がないというのもしっくりこなかったので、そうではない座組みを考えようと思いましたし、上記も含めて資本主義の世の中に対して感じる不満も多少はあるので、サンタクロースが会社を運営しているという皮肉めいた要素も入れました。

実際世の中では、クリスマスをお金儲けの要素として利用している側面もありますが、私自身それはしたくないので、物語内ではそうしなくても成り立つようなサンタクロースのビジネススキームを考えました。

同作品のキャンペーンには、NPO法人チャリティーサンタも協力する。記者会見には同団体の清輔夏輝代表理事も登壇した(右奥)

――作品の細部にも何らかの意味を持たせていますが、それは宮崎駿監督からの教えでしょうか。

糸曽:宮崎さんからは「考えること」の重要性を教わりました。私がジブリの集団面接を受けたとき、丸テーブルにほかの候補者と座っていたら、宮崎さんと鈴木敏夫さんが部屋に入ってきました。

あこがれの人物を目の前にして、一気に緊張感が増しましたが、その様子を見かねた宮崎さんは世間話から始めました。一人の候補者の「トトロが好き」という一言で、宮崎さんは何かを感じて、「ぼくはかわいい生き物だとは思っていないんだ」と言い出しました。

「トトロがサツキとメイを食べなかったのは、たまたまお腹がいっぱいだったから」と言うと、一人ずつ「どう思う?」と聞いていきました。

そこで、私に質問が回ってきたのですが、トトロの絵を思い返すと、歯が臼歯だったので、「肉食動物ではないはず、草食動物ですよね?」と返しました。すると、宮崎さんはニヤッと笑い、その面接では私が受かりました。

宮崎さんの側で働かせてもらうことになったのですが、ある時、宮崎さんに「なんであんな意地悪な質問をしたのですか?」と聞きました。すると、宮崎さんは「エンターテインメントに携わる人は、すべてをうのみにしてはいけない。何事も疑って考える姿勢が大切なんだ」とおっしゃってくださいました。

そこから、考えることを意識するようになりました。作品をただつくるのではなく、その作品の意味も考えるようになりました。意味が分かると、作品の細部にまでこだわったシーンを考え付きます。気付く人には気付かれると思います。これはよく宮崎さんがつくる作品でもやっていることです。

――伝えたいことを作品の裏側に隠しているのですね。

糸曽:何年も作品と向き合っていると、自分自身の周りでもいろいろなことが起こります。友情の在り方、親子関係、夢に対する考え方、常識の定義など、言い始めたらきりがないくらい納得いかないことや総括できないことは常に生まれていまして、そういったものの中からできる限り厳選して、自分なりに納得する答えを見つけるために、自問自答しながら物語を綴っている気はしています。

もちろん先述の通り、楽しんでもらうことが第一ではあるので、表向きはエンタテインメントの楽しい作品に見えるよう大きなテーマはわかりやすくなるように構成はしています。「サンタ・カンパニー」の場合だと、作品を通して、まず一番伝えたいのは「サンタクロースはいるんだよ」ってことなので。

実は私自身が親にあまり褒めてもらえずに育ったので、人に認められたい、爪痕残したい、忘れられたくない、みたいな思いはどうしても拭えきれないんです。

だから、自分が生きている今の時代に体験した事柄や感じる問題点を汲み取った作品を作り続けていれば、例えば100年後くらいに歴史を研究する大学教授や学者が、平成や令和の様子を読み解く一つの研究材料として作品を観てくれたりして、私がこの世からいなくなった後も何らかの形で貢献し続けることができるのではないか、結果忘れられないのではないか、といような気持ちも持ち合わせてはいます。

*株式会社KENJI STUDIO(代表・糸曽賢志)は投資型クラウドファンディング「Sony Bank GATE」で、「サンタ・カンパニー」を2次利用してデジタルアニメーション制作手法のノウハウをまとめた教材を世界中の美術系学校でアニメーション技術や声の演技を学ぶ学生たちに届けることを目標にしたプロジェクトを実施している。目標募集金額は4千万円。一口5万円から。受付終了時期は8月24日。

同作品は従来のアニメーション製作の主流である製作委員会(作品を作るうえで必要な資金を出資した団体のこと。各出資者はその作品に対する権利を分配して有する)方式とは異なる手法を用いて製作している。

糸曽監督が著作権を100%所持した状態でオリジナルアニメーションを製作する事例を作ることで業界の活性化に貢献することを目指す。専門学校や芸術大学などの教育現場で求められている活きた教材を作り手自身が開発して展開することで、学生のうちから現場のプロが作った素材を触りながら学べる環境を作り、新人育成・雇用促進に役立てることを考えている。クラウドファンディングはこちら

糸曽賢志:
10代で巨匠・宮崎駿監督に師事し 、「遊戯王」「トランスフォーマー」等多数の作品に参加。近年はSMAPコンサートツアー映像、「進撃の巨人」のオープニング映像等、幅広く手がける。監督作品は「カンヌ国際映画祭」をはじめとした国内外の映画祭で評価されている。2019年度より大阪成蹊大学 芸術学部 教授・学部長。

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