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ペイペイの"100億改悪"は極めて巧妙な策

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ここ数カ月、各社のスマホ決済が100億円単位のキャンペーンを打って、激しく争っている。勝ち残るのはどのサービスなのか。経営コンサルタントの鈴木貴博氏は「有望なのはソフトバンクの『ペイペイ』。昨年12月の100億円還元は利用者が殺到し、その後は条件が『改悪』されたが、すべて計算ずくだろう」という――。

(写真=ZUMA Press/アフロ)

■いまだに財布を持って外出する日本人

日本は長らく電子マネー後進国と言われてきました。たとえばお隣の中国・上海では、外出する際に財布を持たずに出かけるのが主流です。スマホ決済サービスの「アリペイ(支付宝)」や「ウィーチャットペイ(微信支付)」で、大手小売店から街中の屋台まですべて支払いができるからです。それと比べれば、財布を持って外出する日本はやはり遅れていると言わざるをえません。

ところがここ数カ月、日本でも急速にスマホ決済が浸透しつつあります。ソフトバンクが運営する「ペイペイ」、メルカリが運営する「メルペイ」、LINEが運営する「LINEペイ」など、スマホ決済アプリのダウンロード数と利用できる店舗数が飛躍的に増加しているのです。

ユーザー数が増加した理由は大々的なキャンペーンによるもので、読者の皆さんも何らかのかたちですでに体験済みなのではないでしょうか。今回は私自身も俗に言う“ポイント乞食”になり、どのようなメカニズムでスマホ決済が浸透し始めたのか、そしてこれからどうなるのかを経済評論家の視点も交えて解説してみたいと思います。

■ペイペイ「100億円キャンペーン」が反響を呼んだワケ

日本でスマホ決済が一躍有名になったのは、何といっても昨年12月にペイペイが実施した「100億円あげちゃうキャンペーン」でしょう。ペイペイで買い物をすると、利用額の20%が還元されるというキャンペーンです。

還元率に関して言えば、これまでも同様の企画がいくつかありましたが、このキャンペーンはとにかく還元額が大きいのが特徴でした。ほかのサービスでは2000円程度を還元額の上限にしていたのに対して、ペイペイの上限額は5万円。たちまち話題になりキャンペーン開始からわずか10日間で還元額が100億円に達してキャンペーンが終了する結果になりました。

調査会社の推計によると、ペイペイがこのときに獲得した新規ユーザー数は489万人に上ったといいます。これは多くの日本のユーザーにとって、初めてQRコード決済を体験した瞬間だったと言っていいでしょう。

この「ペイペイ騒動」を取材していたところ、もうひとつ、興味深い事実がわかりました。キャンペーンに参加したある大手家電量販店によると、ペイペイの導入を決めたのは、なんとキャンペーンの前日だったというのです。これは、いままでの店舗側の意思決定では考えられないスピード感でした。

■POSレジの改修なしに導入できる

ふつう、小売店が新しい電子マネーを導入する際には、ITの改修作業が必要です。POSレジに新しい決済方法のボタンをひとつ加えるために、数千万円のコストと数週間の作業がかかるのが業界の常識でした。ところがペイペイは、「導入しよう」と決めたら翌日から導入できる仕組み完成させ、従来の常識を覆しました。

この手軽さこそが、中国でアリペイのようなQR決済サービスが急速に広まった理由でもあります。最短の場合、小売店は店頭に専用のQRコードを貼るだけで、スマホ決済に対応できるのです。

また、消費者側の決済も非常に手軽です。支払いの際に店員が示すQRコードをスマホで読み込み、自分で金額を入力します。そして店員に決済完了画面を見せれば取引はおしまい。

お店側では、その完了画面に出てきた数字をレジで備考欄に打ち込むこともあるようですが、こうしてPOSレジの改修なしに導入、即稼働できるのは大きなメリットでしょう。

■フェーズによって変容するキャンペーンの質

さて、日本におけるQRコード決済サービスの、“その後”を見ていきましょう。年が明けて2019年の2月に、ペイペイは「第2弾100億円キャンペーン」を開始しました。ここでペイペイは、新しい仕掛けを導入します。還元率は20%、還元の上限額は5万円に据え置きながら、1回の決済での還元額は1000円までという新しいルールを設定したのです。

実は先の第1弾キャンペーンでは、私の家族が25万円する高級望遠レンズを購入して、一度の購入で上限の5万円を獲得したことがありました。しかし、今回のキャンペーンではそのような大物買いをしても還元額は1000円どまり。上限の5万円まで還元してもらおうと思えば、最低でも50回、ペイペイで買い物しなければならないわけです。

このルールを見て私の周囲でも「改悪だ!」と怒った人もいましたが、キャンペーンマネジメントの定石としてはとても正しい方法です。なぜなら、第1弾のキャンペーンの目的が新規ユーザーの獲得だったのに対し、第2弾では「ユーザーに利用習慣をつけさせること」が狙いだったからです。

コンビニやドラッグストアなど日常的に訪れる店舗で、ユーザーが「こっちで払ったほうが得なんだ」とペイペイを使う習慣を持つことの方が、このフェーズでは重要なのです。

結果的にこのペイペイの第2弾のキャンペーンは、第1弾ほど話題にはなりませんでしたが、期間的には長く継続することになり利用習慣の定着に一役買いました。第1弾はわずか10日で終了しましたが、第2弾のキャンペーンは2月12日から5月13日まで、ほぼ3カ月間かけて100億円還元がゆっくりと進行したのです。

■ペイペイを猛追するメルペイ

私も数えてみたところ、この期間に50回以上、ペイペイで細かな支払いがありました。支払いの際にはスマホで払う。残高が足りなくなったらスマホをタップして銀行口座からチャージする。まさにそのような利用習慣が、私の場合、3カ月かけてゆっくりと身に付いていったわけです。

日本のスマホ決済市場はここからさらに活性化していきます。競合サービスが手をこまねいているわけもなく、ペイペイに対抗するキャンペーンが相次いで実施されたのです。

スマホ決済は小売店や飲食店にもユーザーにも導入が簡単な分、サービスの乗り換えも容易です。特に、まだペイペイが一人勝ちの状態になっていない現在は、力ずくでその状況をひっくり返す戦略が有効になります。

まさにこの点を突いて対抗キャンペーンを発表したのが、メルカリが運営するメルペイでした。メルカリの売上金をチャージしておけるメルペイを使った、大規模な還元プログラムをゴールデンウイークにぶつけてきたのです。

後発のサービスが実施するキャンペーンには、何らかのインパクトが必要です。ここでメルペイが行ったのは、「セブン-イレブンなら還元率70%」というキャンペーンでした。還元額の上限は2500円。コンビニの利用で5000円まで半額というのは確かにおトクです。ただし、セブン-イレブンはQRコード決済に対応せず、非接触型のiDでしか払えなかったため、獲得できた利用者は限定的だったと思われます。

そのためメルペイは6月に再度、範囲を拡大して同様のキャンペーンを行います。QRコード払いができるローソンなどのお店では50%、そしてiD払いができるセブン-イレブンとファミリーマートでは70%ポイント還元という内容です。このような対抗策はこれからも継続的に発動されると思われます。

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