記事

シンゾー・ドナルドは本物か?疑念抱かせる大統領の安保廃棄発言 - 樫山幸夫 (元産經新聞論説委員長)

ここ1カ月で2回目となる日米首脳会談を前に、気になるニュースが伝えられた。

トランプ米大統領が私的な席で、日米安全保障条約の破棄に言及したという。日本政府は波紋が広がらないよう〝火消し〟に大わらわだ。しかし、大統領は、安倍首相との〝信頼関係〟にかかわらず、これまでも日本に対するきびしい認識を披歴したことがある。

「大統領のホンネ」(朝日新聞)とみる向きもある。そうだとしたら、日本にとっては深刻に受け止めなければならないだろう。28日に大阪で開かれる首相と大統領の会談は、日米の緊密な連携を再確認する場になるのだろうが、この影響が尾を引き、しっくりしない印象を与える恐れもある。

「あまりに一方的、不公平」

トランプ発言が事実とすれば、日米安保体制の根幹にかかわるというべきだろうが、日本のメディアの報道ぶりには濃淡がみられる。

朝日新聞、東京新聞両紙が大きく報じていたのに対し、産経などは政治面のミニニュースという小さな扱いだった。

最初に報じた米ブルームバーグ通信によると、トランプ大統領の発言は最近、側近に対する個人的な会話の場でなされた。(安保条約は)日本が攻撃されれば、米国が援助することを約束しているが、米国が攻撃された場合、日本の自衛隊が支援することは義務づけられていないとして、「あまりに一方的だ」「米国にとって不公平だ」などと強い不満を漏らしたという。

ブルームバーグ通信は、大統領が条約廃棄に向けて措置を取ったわけではなく、そのような動きはありそうもないーという米政府当局者の言葉も伝えている。大統領発言は「事情に詳しい関係者3人」が明らかにしたという。

6月26日付の朝日新聞は「同盟を軽視するこれまでの姿勢に沿うもの」と分析。「米軍の駐留によって恩恵を受ける同盟国が、米国との貿易で黒字を稼ぐのは許せないという思いがある」と大統領の心中を推し量り、「G20での再来日を前に通商と安保を絡めて、日本に譲歩を迫る思惑」と論じている。あながち、的外れともいえまい。

タンカーの〝自力防衛〟も求める

こうした動きの中、トランプ大統領は24日、ツイッターで、ホルムズ海峡での船舶航行に関して日本、中国などを名指しでやり玉にあげた。これら各国が同海峡を通過するタンカーに多くの石油輸入を依存している事実を指摘、「なぜ米国は他国のために無報酬で航路を守っているのか。これらすべての国は自身で防衛すべきだ」ときびしく注文をつけた。

批判された日本側の反応はどうか。

安保に関する発言について菅官房長官は、「報道のような話はない。米大統領府から『米国の立場と相いれない』と確認した」(25日の記者会見)と説明。河野外相も「ホワイトハウスから、『条約の見直しは全く考えていない』と否定する話が来ている」(同)と述べ、米政府の対応に触れて事態の沈静化を図っていることをにじませた。

タンカーの自己防衛発言について、菅長官は「ホルムズ海峡の航行の安全確保はわが国のエネルギー安全保障上、死活的に重要だ。米国はじめ関係国と連携し、中東の緊張緩和と安定に向けて努力を続ける」と一般論で日本の立場を説明。岩屋毅防衛相は、現段階でホルムズ海峡付近に自衛隊を送り考えはない」と述べるにとどまった。

日本側の一連の反応からは、当惑、不安、警戒感などが入り混じった複雑な思いがうかがえるが、それにしても、トランプ発言が伝えられた直後に米政府に照会するというのはどうだろう。真偽不明の報道は放置してもいいはずだ。あたふたとするあたり、日本政府もトランプ発言を真剣に懸念しているということの証左ではないか。

初めてではない日本批判

実のところ、トランプ大統領が日本に対し、非難めいた強い表現を用いるのは、初めてではない。そのことも日本政府の複雑な思いを強め結果となっているのようだ。

6月25日付の朝日新聞も報じているが、トランプ氏は2016年の大統領選の期間中、米軍駐留経費負担をめぐって日本批判を展開した。同年5月のメディアのインタビューの中で、日本側負担率に関して、具体的数字も知らないにもかかわらず、「なぜ100%ではないのか」「実際にかかっている経費はもっと多い」「日本は少なくとも要している費用は払うべきだ」(2016年、5月4日、CNNのインタビュー)と強い調子で日本批判を展開した。

昨年秋、米紙「ウォールストリート・ジャーナル」は、トランプ大統領が日本との貿易赤字関して同紙コラムニストに対し、「日本がどれだけ(代償を)支払わなければならないかを伝えた瞬間、安倍首相との良好な関係は終わる」と述べ、安倍氏との〝友情〟を犠牲にしても強い態度で臨む姿勢を明らかにして日本側を驚かせた。

理性、根拠に欠ける批判

これら大統領の批判、辛口発言は理性的、正当な根拠に基づいたなものなのか。

在日米軍の駐留経費に関する発言を取ってみても、疑問といわざるを得ない。

少し古いが2017年予算での日本側負担は「思いやり予算」と含めて3836億円。負担率は86%にものぼっている(筆者調べ)。これを知ってか知らずか、100%負担しろというのはいかにも乱暴に過ぎよう。それでは米軍は日本の〝傭兵〟になってしまう。

ホルムズ海峡通過タンカー自力防衛にしても、もっともらしく聞こえるが、本当に正論か。米国が防衛あたっているからこそ、各国とも敬意を払い、北朝鮮の核問題でも米国のリーダーシップを認めるのであって、それをやめれば、各国にとって米国に従う理由はなくなる。

誤解や無知、偏見から良好な同盟関係が損なわれたら、将来に禍根を残す。

個人の友情で同盟は維持できぬ

トランプ大統領と安倍首相との強固な関係は日米両国にとどまらず、各国でもよく知られているところだ。

〝友情〟に水を差すつもりは毛頭ないが、それが本物か、表面的なものか、お互い何らかの欲得づくで〝ふり〟をしているのか。その実態は外からうかがい知ることはできない。両氏の個人的な関係ゆえに、それによって日米の同盟関係まで盤石と考えるのは、大統領の不正確、不十分な対日観、発言を考慮すれば、早計、危険といわざるをえない。過去から永遠に続く同盟関係などなかったことを考えれば、なおさらだ。

来年2020年の大統領選で再選をめざすトランプ氏のスローガンは「Keep America Great」(アメリカを引き続き偉大に)だという。カネの問題ゆえ日米安保条約廃棄に言及し、世界での責任を縮小しようとする方針は、それと明らかに矛盾するというべきだろう。

あわせて読みたい

「日米首脳会談」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    ブラタモリに失望 忘れられた志

    メディアゴン

  2. 2

    新しい生活様式嫌がる日本医師会

    御田寺圭

  3. 3

    宮崎美子の才色兼備ビキニに脱帽

    片岡 英彦

  4. 4

    飲み会の2次会 死語になる可能性

    内藤忍

  5. 5

    官邸前ハンスト 警官と押し問答

    田中龍作

  6. 6

    菅首相が最優先した反対派の黙殺

    内田樹

  7. 7

    官邸がTV監視? スクープに称賛も

    BLOGOS しらべる部

  8. 8

    マイナンバーカードが2ヶ月待ち?

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  9. 9

    立民議員の官僚叩きに批判が殺到

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  10. 10

    任命拒否 学者6名に無礼な菅首相

    メディアゴン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。