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保育士は哲学者~「誰にでもできる」への反論

■hエモン氏「保育士は誰でもできる」

SNSで、Hエモン氏(宣伝したくないのでフルネームは避ける)が「保育士は誰でもできる仕事」としたツイートが拡散されていたので最近の発言かなと思っていたら、2017年のツイートだった。

炎上商法を常に狙う氏の思惑通り、2年近くたってもそのツイートはネットの海を拡散する。

それほど「保育士は誰でもできる」はインパクトのある発言なのだろう。Hエモン氏に同調する方が実は多いということだ。

それに対して、たくさんの反論が寄せられている。主としてそれは、保育士の長時間労働にスポットが当てられているように僕には思えた。

Hエモン氏はこれに対して、


とツイートし、「たいへん」なのと「誰でもできる」とことを区別している。

園児のために長時間労働することと、その仕事の中身の専門性は別、というのは一見説得力がある。運動会のためにさまざまなグッズを残業してつくる、発表会のために細かい段取りを残業して決めていく、これらの長時間労働は問題ではあるが、その労働内容自体は誰にでもできる。それは医学やプログラミングのような専門知識は必要とされない。

というHエモン氏の意見は、乳幼児のあり方を深く考えることはあまりない一般の方々(これは親も含む)には実は説得力があるのかもしれない。

■メルロ=ポンティと、だいすけおにいさん

だが乳幼児は、大人たちが想像する以上の内的変化を日々行なっている。古くはメルロ=ポンティの「幼児の対人関係」で提起されたように、他者とのコミュニケーションの中で自らの主体性を徐々に獲得するという議論から、「相手の子が笑顔になる瞬間」が突然訪れるその不思議さを語る「だいすけおにいさん」のインタビューまで、乳幼児の世界は多様で深い。

この多様な深さについてどれだけ想像力を働かせるかが、保育士業務のポイントだと僕は思う。

現在は残念ながら、その長時間労働と低賃金という近代的価値に影響されて、Hエモン氏が「誰でもできる」と指摘する論に対して「たいへんなんだよ」と反論するしかない。

そのたいへんさは、当然長時間労働と低賃金を指すのではあるが、もっと深い、乳幼児の日々の成長への想像力を働かせる、という意味でたいへんなのだと思う。

乳児が泣く。その泣き声と表情はもちろん文字通りの悲しみなどではなく、「ことば」そのものなのだ。ツイッターで僕がフォローするnssk氏はこのメカニズムをこう表現する。


■「哲学的な根源的意味」

名言だ。匿名性の高いツイッターを本来引用すべきではないのかもしれないが、事情があって匿名にしつつ社会的に意義のある言葉は引用しても構わないと僕は判断する。

ここで指摘される「泣き止むことは赤ちゃん自身が決めるが、泣き声によるその主張を、愛情をもって受けとめている大人がまわりにいることを示し続けることは必要」は多くの意味を有する。

泣き声には、まず主張がある。親や保育士は、その主張を推測する力を獲得するほうが望ましい。哲学者ドゥルーズや精神分析家ガタリの指摘する「部分対象」理論(メラニー・クラインも)にあるように、自我の確立のそのはるか以前に、乳児は部分的に他者たちとつながる(口と乳房でひとつのシステムが展開される)。

乳児の声や涙も、母の身体や顔との部分的つながりであるともいえる。乳児は乳児である前に、その涙や声で身近な身体(母の身体の一部)とつながっている。母はその部分的つながりはもちろん意識しないものの、「愛情をもってうけとめている」。

この愛と受容が、「乳児が泣き、乳を与える」という一連の行為の背景にある。

乳を乳児が飲むという行ないに関してもこれだけの考察ができる。ここから発展させ、幼児が園庭で走る、幼児が花火を見て驚く、幼児が大人の真似をして爆笑する、あげだしたらきりがないが、これら一連の幼児の仕草には一つひとつ意味がある。

大袈裟に言うと、そこには「哲学的な根源的意味」が隠れている。

その哲学的意味を解読するのが、プロとしての保育士なのだ。プロは、それをわかりやすいことばで親たちに伝えることも求められる。

これは当然誰にでもできることではない。保育士とは究極のプロであり、実践の中での哲学者だ。

※Yahoo!ニュースからの転載

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