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日銀券ルールの起源

 日銀の国債買入には、行内ルールとして日銀の保有する国債残高を銀行券発行残高の範囲内とする運営ルール、いわゆる日銀券ルールが設けられている。これはいつどのようなかたちで設定されたのかを今回、探ってみたい。

 日銀券ルールが設けられたのは、2001年3月19日の日銀金融政策決定会合の際である。このとき日銀は量的緩和政策を決定したのだが、その際に国債買切りの増額も決めている。このときに新たなルールが提案されたのである。

 すでにそれから10年以上経過しており、このときの議事録が公表されている。この議事録から、そのときの様子を伺ってみたい。

 この議事録における「当面の金融政策運営方針の決定」にそれが記載されている。このときは発言者の順番があらかじめ決められていたことで、最初に発言した藤原副総裁(当時)が、量的緩和策の口火を切った格好であるが、この発言を読む限り、事前にかなり練り込まれていた様子もうかがえる。最初に発言したのがたまたま藤原副総裁で、日銀券ルールを含め、これは藤原副総裁の私案ではなく、事前に準備されていたものと思われるが、とにかくその内容を確認してみたい。

 「第四の政策手段は長期国債の買切りの増額である。しかし、そのもたらす副作用には既に共通の理解が得られているように思う。私は国債価格支持や財政ファイナンスのためのオペ増額には絶対反対するが、先程申し上げたような形で資金供給の量を増やしていくと、どこかで札割れ防止のために長期国債の買い入れを増やしていくことが必要になってくるかと思う。いわば円滑な資金供給の手段として国債オペを増額ことではどうかと思う。その際、これまでの銀行券と長期国債保有をマッチさせるルールは守るべきだと思う。私としてはこれまでの増加額ルールをストックのルールに変え、本行の長期国債保有額の上限を銀行券発行残高とするのが良いのではないかと考える」(2001年3月19日の日銀金融政策決定会合議事録より)。

 これが日銀券ルールが打ち出されたときの最初の発言となる。日銀が戦後、国債の買い入れをスタートさせたのは、1967年(昭和42年)2月で、このとき日銀の買入債券の対象に発行後1年経過の国債を追加したのである。発行後1年以内の国債を除外したのは、国債の市中消化による原則からいって適当でないという考え方が基になっていた。

 その前に戦後初めて国債が発行される際に、日銀による国債直接引受が議論されていたことが、日本銀行百年史に記載されている。この際、当時の佐々木日銀総裁は国債の日銀引受と市中消化では、その後の金融調節の難易に差が生じる点を指摘していた。つまり、前者の場合、オーバーローンの状況下、売りオペが可能であるのかどうか疑問を投げかけていた。これに対し後者の場合、買いオペが問題となるが、日銀が物価・国際収支の動向等を配慮して、適当と認められる額の買入れは主導的に実行することができる、と指摘している(日本銀行百年史より)。

 適当と認められる額の国債の買入れについては、長期国債オペで成長通貨を供給するという目的で、フローベースで増加額ルールを設けていたものを、ストックのルールに変えたことで日銀券ルールが生まれることになったようである。

 2001年3月19日の日銀金融政策決定会合議事録によると、山口副総裁(当時)も、銀行券発行残高ルールのような一定の歯止めは、最初から明確にビルトインしておいた方がいいと思う」と発言していた。

 そして最後に速水総裁(当時)が、以下のように発言している。

 「長期国債買切りオペの増額は、やりようによっては大きな副作用を伴うものである。今回の措置が国債の買い支えとか財政ファイナンスを目的とするものでないことは当然であるが、そうした誤解をされないためにも明確な歯止めを用意しておくことが不可欠だと思う。具体的には長期国債オペで成長通貨を供給するとこれまで私共が言ってきた考え方を堅持する意味で、今度は銀行券のフローではなく発行残高を上限として必要に応じ国債の買切りオペを行うという考え方が適当ではないかと思う」

 こうして「銀行券発行残高という明確な条件を設ける」という日銀券ルールが行内ルールとして生まれた。

 植田委員(当時)は国債買入増額のよる影響として、「国債需給、あるいはリスク・プレミアムといったところに影響して、国債価格、金利に与えるルートがあるかと思う」としているが、これは「実質ゼロ金利+時間軸」で代替できるとも指摘している。そして日銀券ルールについては、「ほぼゼロ金利を達成したいことと、量についても何か目標を設けることは必ずしも矛盾しない。」とも指摘していた。

 こうして生まれた日銀券ルールであるが、その後の日銀による国債買入を増額してきた状況を見ると、なかなか面白いことがわかる。国債買入増額を行ってきた日銀総裁は、このときの速水総裁、そしてより積極的に基金という別枠まで講じて行ってきた白川総裁である。そうこの間、もう一人、日銀総裁がいた。この総裁は在任中、積極的に量的緩和を行ってきたことでも知られているが、実は国債買入の増額は行ってこなかったのである。福井前日銀総裁は、日銀による国債買入増額による副作用をかなり懸念していたのではないかと思われる。

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