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人を殺さないために7年間、心を閉ざした。僕のひきこもりが終わったとき

(撮影・堀田純)

 ひきこもり経験者・瀧本裕喜さんは18歳から7年間ひきこもった。ひきこもった理由は「人を殺さないため」。ひきこもりが終わるまでの経緯を書いてもらった。

* * *

 僕は18歳から25歳まで、7年間ひきこもった。その理由は、「自分が祖母を殺してしまうのではないかと思ったから」だ。

 18歳のころ、僕は予備校に通うために愛知県の実家を出て、東京にある祖母の家に同居した。

 祖母は亡くなった祖父からDVを受けていたようで、積年の恨みが僕に向いたのか、毎日こんなことを言ってきた。「人生なんてつまらない」「生きていたって何も良いことないよ」。

 「あ、そう」と軽く受け流せればよかったのかもしれない。しかし、当時の僕は受験に失敗して落ち込んでいた。

 そんなときに「何も良いことはない」と言われ続け、自分の心が祖母のネガティブな感情に支配されていくようだった。

 そして祖母からの心理的な支配から脱出するために、僕は祖母に殺意を抱くようになった。

 そんな気持ちを必死に抑え込み、祖母とは目を合わさないようにして生活していた。その後ほどなくして、愛知の実家に帰ることになった。

 そして帰ってくるなり、僕は自室にひきこもった。祖母への殺意が、両親にも向くかもしれない。

 そんな殺意にまみれた自分は、社会に出ないほうがいい。僕は、人を殺さないためにひきこもったのだ。

 ひきこもっているあいだにしていたことは3つ。ゲームをするか、本を読むか、自問自答するか、それだけだった。

 「どうして僕は生まれてきたんだろう」、「なぜここにこうしているんだろう」、「生まれてこなければよかったんじゃないか」。何度も同じことが頭をぐるぐるまわった。

 親はなんとかして僕を部屋から出そうとしてきた。父に暴力を振るわれたこともある。しかし僕は部屋からほとんど出ず、家族とはひとことも口をきかなかった。

 家族との会話がなくても、僕はいつも家族を感じていた。ドアの開け閉めのしかたや音で、親の心理状態を察していた。

 両親が家を出たあとにリビングに降り、雑多に置かれている本を見ては、両親が今何を考えているか把握した。ひきこもり関係の本が多数置いてあったが、ひきこもりを犯罪者のように扱っている本もあった。

 「早く社会復帰してほしい」という親の希望はつねに感じていた。しかし、どうしようもできない自分を責めるしかなかった。そうした状況が何年も続いた。

少しずつ変化が 

 ひきこもって5年がすぎたころ、僕は親の変化を感じた。リビングに置いてある本からひきこもりについて否定的なものが消え、ひきこもりについて理解しよう、という本が増えてきたのだ。

 また、親は心理学系のセミナーなどにも参加しているようだった。少しずつ、親の気持ちが自分に近づいている、と僕は思った。 

 ひきこもって7年がたったある夜、決定的なことがあった。夢を見たのだ。「理想の自分」と「ひきこもっている自分」が対話する夢だった。

 「理想の自分」がこのように語りかけて対話は始まった。

 「このままでよくないのはわかってるよね」。

 「外に出て誰かを傷つけてしまうくらいなら、ここにいるほうがいいんだ」。

 「殺意が暴走しないようにひきこもっているんだね。すごい覚悟だね」。

 理想の自分は、ひきこもっている自分を全力で理解しようとしていた。そして対話の最後に、ひきこもっている自分は何かを見つけたように言った。

 「自分が変われば世界が変わるんだね」と。

 こうして親の変化と自分自身との対話がきっかけになって、僕はひきこもることをやめた。

 結局、自分の一番の理解者は自分だった。理想の自分がひきこもっていた自分を理解しようとしてくれなかったら、今もひきこもっていたかもしれない。

 心がボロボロになっても、人を傷つけないために、最後に残った倫理観から僕はひきこもることを選んだ。

 その選択を肯定されたとき、僕のひきこもりは終わったのだ。(ひきこもり経験者 瀧本裕喜さん・38歳)

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