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7年で約2倍コニカミノルタ欧州の大成長

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紙コピーが減るというさらなる市場の変化

 マーケティングを進めていくうえで、変化は避けがたい。将来を見据え、計画的に自社の強みを構築することが重要だと教科書には書かれているが、そもそも将来を明確に見通すことは難しい。むしろ、変化する市場環境を受け止め、自らの強みを柔軟に見直すことが欠かせないのではないか。

 コニカミノルタはヨーロッパでの直販体制の役割を、現地情報の収集から、統一的なサービスの提供へと切り替えるリポジショニングを行った結果、勝ちを拾った。

 とはいえ、市場の変化は止まらない。2010年代に入りリーマン・ショックの影響が薄らぐ一方で、ヨーロッパの複写機・複合機市場には新たな動きが生じ始める。背後にあるのは、環境問題である。オフィスでの紙の使用量を減らし、PCやタブレットなどの活用に切り替える動きが、環境問題にセンシティブなヨーロッパの西側の諸国を中心に広がっていく。

 複写機・複合機のビジネス・モデルは、機器の販売に加えて、機器の導入後の使用に応じて紙やトナーなどの消耗品から収益を得るというものである。したがって複写機・複合機の撤去にまでは至らなくても、その稼働が低下すれば、収益を直撃する。オフィスワークでの紙の使用が削減されれば、複写機・複合機のビジネスにとっては死活問題となる。

複写機にITサービスを重ね売りする「ハイブリッド販売」

 コニカミノルタは、この問題を見据えて、2010年代初頭より、欧米で新たな企業買収を進め、ITサービスを提供する体制を整えていった。コニカミノルタはこの時期に、先のMPSと直販体制の組み合わせによって、得意のデジタル・カラー複合機の販売攻勢をかけていたのだが、次の矢の備えも行っていたのである。

 コニカミノルタは、2010年代のヨーロッパで直販体制の拡充を進める際に、広域の統一的なサービスの提供を重視して、買収後の統合が容易な中小のディーラーの獲得を進めていた。この直販体制は、グローバル大企業へのMPS提供に大いに強みを発揮したが、一方でこれらのディーラーのもともとの顧客は、規模の小さなローカル企業が多かった。

 2010年代に入るとこうしたローカル企業のあいだでも、IT関連の機器やアプリケーションやライセンスなどの統合管理、ドキュメント管理を含むワークフローソリューション、そして会計や顧客管理などのシステムの重要性が高まっていく。

 しかし、大手ITサービス企業は一般に、中小の企業をきめ細かく回り、販売とサービスを行う体制をもたない。

 では、コニカミノルタはどうか。複写機・複合機は、中小の企業のオフィスにも浸透している。そして直販体制の拡充にあたってコニカミノルタは、こうした中小の企業を顧客基盤とする現地ディーラーを、ヨーロッパにおいて買収していたのである。加えてコニカミノルタは、中小の企業を顧客基盤とするITサービスのプロバイダーの買収を、2010年代初頭より各国で進めていった。

 2010年代の半ば以降、コニカミノルタの複写機・複合機販売を主軸とするオフィス事業部門は、ITサービスの販売を拡充していく。コニカミノルタが「ハイブリッド販売」と呼ぶこの取り組みは、複写機・複合機に各種のITサービスを重ね売りするというものである。このハイブリッド販売に取り組んだことが功を奏し、従来型の複写機・複合機のビジネスの行き詰まりが顕著になり始めたヨーロッパ市場において、コニカミノルタは現在も業績を保っている。

下位目的に拘泥してしまい失敗する

 コニカミノルタのケースは、変化の時代にあっては、製品やサービスに加えて、それらを支える部門や社外ネットワークが担う役割を、当初の設置や導入の経緯に縛られずに、柔軟に見直すリポジショニングが重要であることを教えている。

 たとえばコニカミノルタの事例でいえば、直販体制の構築における、「現地の情報を直接収集する」という目的は、「事業を成長に導き、収益性を高める」というより上位の目的の下における下位の目的にすぎない。

 しかし、ビジネスの現場ではしばしば、この目的の上下関係を見失い、下位の目的にメンバーが拘泥してしまうということが起こる。特に成功体験に人は縛られやすい。ひとたび直販体制を構築する目的を、「国境を越えた統一的なサービスを提供する」に切り替えて成功すると、「国境を越えた統一的なサービスでいかに勝負するか」という発想から離れられなくなる。

 コニカミノルタは、このわなにはまらなかった。そして、パッチワークを継いでいくようなマーケティングをヨーロッパにおいて展開し、したたかに地位を保っている。

 現地の情報の直接収集や、国境を越えた統一的なサービスの提供は、下位目的にすぎない。このことを見失わないためにも、マーケティングのプロジェクトを進める際には、その節目節目で上位の目的にさかのぼってリソースの役割を検討し、再設定する必要がある

栗木 契(くりき・けい)
神戸大学大学院経営学研究科教授
1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。

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