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「教育虐待」とは何か? 「あなたのため」は呪いの言葉

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「ブラック校則」「パワハラまがいの指導」「指導死」の親戚

 どこまでの厳しさは許されてどこからが教育虐待なのか。教育虐待を受けると子どもにどんな影響が出るのか。教育虐待を受けて育った大人はどんな人生を歩むことになるのか……。

 教育虐待の闇を照らすため、私は最近『ルポ教育虐待』を著した。7月12日から全国の書店に並ぶ予定だ。

 「教育虐待」という言葉はもともと、ある「子どもシェルター」のスタッフの間で「あの親は、教育という名のもとに虐待しているよね」というような文脈で俗語として使われていたものだ。それが初めて公に使われたのは2011年12月。「日本子ども虐待防止学会 第17回学術集会いばらき大会」で武蔵大学の武田信子教授が、「子どもの受忍限度を超えて勉強させるのは『教育虐待』になる」と発表した。

 当時「教育虐待」という言葉に着目した問題意識を武田さんに聞いた。

 「日本では法律上、『虐待』は『保護者』による行為と定義づけられていますが、私はカナダのトロント大学で子どもの育ちや子育て支援の研究をしていたこともあり、英語圏で『虐待』といえば、『abuse=力の濫用』だけでなく『mal-treatment=不適切な扱い』という意味も含んでいることを知っていました。『教育虐待』という言葉に触れたとき、私の中では、親による虐待だけでなく、社会全体の教育システムや学校という場そのものが、『不適切な扱い』に当たるケースも多いのではないかと膝を打ったのです」

 一方で、「教育虐待」という言葉があまりにもセンセーショナルな響きをもつことにも懸念を表明する。

 「エデュケーショナル・マルトリートメント(教育上不適切な扱い)は、個人の責任というよりも社会の価値観を反映して生じる現象として対応しなければいけない問題だと私は思っています。しかし『エデュケーショナル・マルトリートメント』というカタカナ言葉では意味が伝わりにくく、一般に浸透しにくい。かといって、『教育虐待』という言葉になってしまうと、どうしても『親個人の問題』というニュアンスでとらえられやすい」

 急速に産業化が進んだ時代に一定以上の能力をもつ「人材」を大量に育成する目的で広まった教育がいまも変わらず存続してしまっているために、さまざまなところで軋轢を生じ、エデュケーショナル・マルトリートメントとして浮き彫りになっていると武田さんは分析している。

 それが親子関係の間で生じると「教育虐待」になるのであり、学校の中で生じれば「ブラック校則」「パワハラまがいの指導」「指導死」などと呼ばれる。

 社会全体の教育システムや教育観を変えないと、エデュケーショナル・マルトリートメントはなくならず、体罰もブラック校則も教育虐待もなくせない。教育虐待をしてしまう親を個人として糾弾したところで、根本的な解決にはならないという話だ。

 拙著『ルポ教育虐待』の目的も”悪い親”を糾弾することではない。重要なのは、何が彼らをそこまで駆り立ててしまうのかに視野を広げることである。

 本書での私の分析を端的にまとめれば、次のようになる。

 学歴偏重主義が極まり、病的な正解主義が広まり、さらにビジネス思考の蔓延が「教育」を「人材育成」にすり替えた。もはや社会の機能不全といっていい。その結果として「教育虐待」などの「エデュケーショナル・マルトリートメント」が生じる。

そこに家族の機能不全や孤独な子育てのストレス、夫婦間の葛藤などの要素が重なると、壮絶で逃げ場のない教育虐待が起こる。「あなたのため」という言葉はもはや呪いとなり、子どもを壊す。

 ”そのしわ寄せ”は、たまたま”そこ”に現れたのであって、もしかしたら、”そこ”は、自分のところだったかもしれない。何かがちょっとだけ違えば、自分も追いつめられる子どもになっていたかもしれないし、自分が追いつめる親になっていたかもしれない。そのことを忘れてはならない。

 現在、名古屋地方裁判所では、2016年8月に起きた、教育熱心な父親が中学受験生である息子を刺し殺してしまった事件の公判が行われている。7月19日に判決が言い渡される予定だ。裁判の様子は、いずれどこかで記事にまとめる。

 異常な事件と思うだろう。しかし、被告人の姿は、”もしかしたら自分だったかもしれない男”に、私には見えた。


※教育虐待について私自身が書いた記事および私のコメントをもとに執筆された主な記事を列挙しておきます。

教育虐待の「見えない牢獄」から生還した若き物理学者の半生

中学受験で教育虐待しやすい親の2つの特徴

教育虐待「普通の親が追いつめられ、狂い始める…」その正体は?【「教育」が「虐待」に変わるとき 第1回】

「教育虐待」のやっかいな実態。今の子どもには “決定的に足りない” 時間がある

親の「教育虐待」とは 「あなたのため」が子を追い詰める?

「あなたのため」は呪いの言葉。「教育虐待」を知っていますか?

中学受験で子どもを追いつめないためには

なぜ「教育」という名の「虐待」が増えているのか

あなたの家は大丈夫? 「教育虐待」に陥らないために

おおたとしまさ氏に聞く、中学受験で陥りやすい「最悪な親子関係」…笑顔で12歳の春を迎えたい親子へ

教育虐待に陥りがちな”追いつめる親”

なぜ辣腕ビジネスマンほど、中学受験で子供を“潰す”のか

5歳児虐待死と新幹線での22歳凶行の結節点。私たちは「親」という概念を過大評価している!?

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