- 2019年06月24日 17:15
"老後2000万問題"の本当の恐ろしさとは
2/22.それを元に、リスクを伴う資産運用を促す表現であったこと
超長寿社会を迎えるにあたって、よく「資産寿命を伸ばそう」という言葉を聞くようになりました。正直、私はこの言葉が好きではありません。「生活のために、運用しましょう」と言っているように聞こえてしまうからです。
全員が運用する必要はない
リスクを伴う運用と言えば、FP(ファイナンシャルプランニング)の観点では、「余裕資金(当面使わないお金)で運用しましょう」「仮にゼロになっても、ライフプランを崩さないような金額(つまり、余裕資金)で行うことが大事」と、これまで鉄則として言われてきました。
一体、いつから「少額でも、(若いうちから)コツコツ運用しましょう」に変わってしまったのでしょう。積立を用いたからと言って、リスクが減る訳でもありません。
誤解のないように補足すると、運用をしたいと考える方が運用するのは、まったく問題ないと思います。私が強く違和感を覚えるのは、おしなべて「全員」に「運用しましょう」と促すような表現です。やはり、まじめな方ほどこの言葉を額面通りに捉えてしまい、不安に感じてしまうようです。「運用は苦手なのですが、運用しないといけないでしょうか?」というご相談者もいらっしゃいます。
年利2%分は月3723円の無駄遣いで消える
私たちは、本当にリスク運用しないといけないのでしょうか?
こんな試算をしてみました(図表1)。

月1万円を積立運用し、年利2%、3%でそれぞれ30年間複利運用した場合の30年後の元利合計額と、そのインパクトと同等となるような家計の見直し額はいくらに相当するかを計算したものです。年利2%では月3723円、3%では6223円となりました。
(1万円+3723円)×30年=約494万円
(1万円+6223円)×30年=約584万円
せっかくリスクを取って、運用で殖やせたとしても、仮に家計に3723円や6223円のムダがあれば、利益に相当する額は、結局プラスマイナスゼロになることを意味します。
「家計の見直し→運用」の順で考える
ここで見えてくる大事なことは、私は「順」だと思います。
もしここで、支出の見直し→運用という「順」で取り組めたとすれば、家計はより筋肉質な強いものになるでしょう。
収入や支出は基本的に自らコントロールできるものですが、リスク運用によるリターンはマーケット次第。自分でコントロールできる世界ではありません。世界的に低経済成長が指摘され、専門家でも運用が難しくなってきている中、個人に、しかも生活のためにリスクを取ろうとするムードが醸成されつつあるようで、個人的には少し怖いくらいに感じています。それでも運用結果については、「自己責任」と言われてしまうのでしょう。
せっかく一生懸命に働いて得られた大切なお金です。加えて、税金や社会保険料が上がってきていて、手取り収入はなかなか増えにくい時代に入っています(前回の記事「厚生年金率"13年で35%アップ"の衝撃」参考)。
運用するかどうかは、自分で決めていただきたいですし、無理に行う必要もないと思います。その前に家計にはやれることがあることを、ぜひ知っていただけたらなと思います。
月2万円でもコツコツ貯めれば、40年で1000万円近くになります。超長寿時代には、こうしたコツコツが家計の明暗を分けることにも、おそらくなっていくことでしょう。
退職時期を自分で決める時代に
最後に、人生100年時代の老後資金について重要な点を補足しておきたいと思います。
以前にこちらのコラムでもお話ししましたが、人生100年時代ともなれば、いままでの“延長線”で家計を捉えることは困難だと思います。つまり、家計の常識はどんどん変わっていくと思うのですが、老後資金に関していえば、人生100年という長期化する“老後”のために、いまの退職年齢の相場で事前に老後資金を蓄えておくことは困難だろうと、私は考えています。ですから、多くの人が「長く働く」ことを意識する社会になるのではないかと思います。
だとすると、「MY老後資金」は一体何の意味があるのか、です。一つは「いま」直面している老後に対する余計な不安を解消する点、もう一つは、今後の人生100年時代において、リタイア時期を決める判断材料の一つとして活用できるのではないかと考えています。
どいうことかというと、人生100年時代では、現代のように会社が一様に定年年齢を定めるのではなく、どれだけ資産形成できたか、働きがいがあるのか、健康状態はどうか、そもそも働き続けたいかどうか、といったさまざまな状況を考慮しながら、自分でリタイアの年齢を決める時代になるのではないかと思うのです。そのときに、MY老後資金の考え方が活用できるのではないかなと考えています。
政府は「生涯現役社会」を目指すとしています。そう言うからには、私たちが不安のために働くのではなく、安心して働ける社会になってほしいものです。私たち一人ひとりも、政治家任せにせず、どういう社会が望ましいのか、考えていくことがとても重要な時期に来ているのだと思います。
(家計コンサルタント 八ツ井 慶子 写真=iStock.com)
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