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争点隠し

  池田勇人首相の「所得倍増計画」、田中角栄首相の「日本列島改造論」、あるいは大平正芳首相の「田園都市構想」など、昭和のリーダーは国の将来を見据えたビジョンをもっていました。しかし、時代が平成に移ると、それらに比肩しうるようなビジョンはつくられませんでした。

  そこで、私は総理在任中、2050年に向けたわが国のビジョンを策定しようとしました。メンバーは「若手」「女性」「地方」を拠点として活動している人を中心に選びました。多少やんちゃな議論になってもいいと、発足時に挨拶しました。

  狙い通り、旧習にとらわれない斬新な報告書がまとめられました。一方で、誤解を生む表現や政府の方針と異なる提言もあったので、国会等でしばしば突き上げられました。答弁の基本は、「参考にすべき点は参考にする」でした。要は、全てを受け入れるわけではないということです。報告書をまる飲みするのではなく、取捨選択するのは当然のことです。

  麻生大臣は金融審議会のワーキンググループがまとめた「老後資産2千万円」報告書を、なぜ受け取らないのでしょうか。さっぱりわかりません。「誤解を招く表現があるのは残念だが、参考になるところは参考にする」と、きちんと説明すればすむ話だったのではないかと思います。恐らく、「金融庁は大バカ者」と激怒した安倍総理とその周辺が、受け取り拒否を主導したのでしょう。

  5年に1度公表しなければならない年金財政検証が今国会中に公表されていれば、「百年安心」かどうか冷静かつ客観的に議論できたはずです。検証の経済前提は3月に決まっているのに、財政検証の公表を参院選後に先延ばしするのは、年金を争点化させないためでしょう。

  5月末、安倍総理はトランプ米大統領を国賓として迎え、両首脳の蜜月ぶりを演出しました。この頃、トランプ大統領は自らのツイッターで日米貿易交渉について、「日本との交渉ですばらしい進展がある。農業、牛肉は特にそうだ。7月の日本の選挙まで待つが、大きな数字を期待する」と、つぶやきました。記者会見でも「8月に、いい内容を発表できる」と、発言しました。

  日本の参院選後で米国の大統領選前に妥結するという密約ならば、日本にはマイナスで米国にはプラスで合意しようとしていると想像できます。参院選の前に、米国産農産物の輸入拡大で譲歩すれば、農業団体など自民党支持層は猛反発するでしょう。日米貿易交渉の合意先延ばしも、露骨な争点隠しです。

  公文書の改ざんや隠ぺいなど、不都合な真実は徹底して隠すのが安倍政権の常套手段ですが、選挙を直前にして争点化しそうなテーマの火消しに躍起になっています。この情報公開や説明責任とは全く無縁の安倍政権の体質そのものが、参院選の最大の争点ではないでしょうか。

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