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「学生の頃、もっときちんと学んでおけばよかった」そんな風に感じたことがあるなら、今から「学び」について考えてみませんか。くしくも人生100年時代、世の中はグローバルになり、技術もどんどん進歩しています。だとすれば、大人だって学び続ける必要があるはず。人生を楽しむために必要な「学び」に関する特集がはじまります。

0歳から英単語カードで暗記 過熱する幼児教育のいま

  • 2019年06月24日 11:55
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「英会話は小さい頃に習ったほうが効果がある?」「小学校でプログラミング教育が必修化するから入学前に慣れさせたほうがよい?」という親心から、子ども向けの英会話やプログラミング教室が盛況だ。

しかし、あまりに親が熱心になりすぎる故に、0歳児に文字を覚えさせようとしたり、幼稚園児に九九を覚えさせようとするなど、「幼児教育の超早期化」が見られるという。40年以上にわたり幼児教育の現場に身を置き、海外でも幼児向けの学習塾を展開している株式会社幼児教育実践研究所の久野泰可氏に、日本における幼児教育の現状について話を伺った。【石川奈津美】

0歳で英単語カード、4歳でインド式九九

妊娠、育児中のママ向けにツールアプリやメディアを展開する株式会社カラダノート(東京都)が昨年9月に行った英語取得に関するインターネット意識調査(n=722人)では、子どもに英語を習わせていると回答した171人のうち、英語を習いはじめた時期について、49.7%が「1歳未満から」と回答。2人に1人が0歳から始めていることがわかった。

株式会社カラダノート調査よりBLOGOS編集部が作成

久野氏によると、親たちの早期教育への関心は、10年前と比べ格段に高まっているという。

「10年前には、幼児期の教育というと小学校のお受験がほとんどで、小学校受験をしない家庭は『うちは関係ないですからいいです』で終わっていました。

それが今では、子どもが生まれた瞬間から『さて、我が子のためにどうしようか』と考え始めるようになり、小学校受験をする予定がない親たちも、子どもへの読み・書き・計算に対する関心が高まっていくようになりました」。

生まれたばかりの乳児への教育――。言葉もわからない中、教えることは可能なのだろうか。久野氏は「そんなことできるの?と疑問に持つ方もいるかと思いますが、子どもたちは素直なので、親が教え込めば一生懸命がんばります」と話す。

「たとえば、まだ生後間もない頃から、フラッシュカード(記憶力を高める練習)で文字や絵を見せて記憶の練習をしたり、1歳児からは実際に文字を読ませたり数を数えさせたり。

写真AC

最近話題になっているインド式の九九も、一部の人たちから人気です。日本では9☓9の81通りの掛け算を暗記しますが、このインド式の場合、1☓1から20☓20までを覚えます。

通常、日本では九九は小学校2年生(7〜8歳)に習うものですが、私の教室に通う4歳の子で、以前、このインド式九九をぶつぶつと暗唱している子がいました。『すごいね、どうやってそれ覚えたの?』と聞くと、毎朝起きたらテープが流れてくると。朝ごはんを食べながら聞いているから、自然に覚えると言っていました」。

親が求めがちな「目に見える成果」

幼児教育が早期化した背景のひとつに、「親の不安がある」と久野氏は指摘する。

「昔は自分たちの両親と同居している人も多かったので『この時期はこういうことするといいよ』といった経験則からのアドバイスを聞くことができました。

今は基本的に実家とは別で暮らしている人が大半です。皆さん子どもが生まれ、まず何をするかというと、本を買うんですね。そのあとネットで子育て情報を見て、『これが良い』という口コミをみて色々な教材やグッズを購入します。

たしかに情報を集めて買うことはとても良いことです。ただ、誰かが自信持って「これが絶対いいんだよ」とすすめてくれるものではないので、どこか不安が残ります。

そうなると次に、『他のお子さんはどうなんだろうか』と、周囲がどうしているのかを気にする思考に陥ります。ママ友などから『うちの子は文字も読める、計算もできるんだよ』ということを耳にすると、『うちもやろう』となるわけです。

それは時に、親同士の競争心や不安を煽り立てます。その結果として保護者の皆さんを安心させるために提供されるビジネスが、残念ながら今の幼児教育界では激増してしまいました」。

暗記学習は本質的ではない

久野氏は基本理念のひとつとして「教科前基礎教育」を掲げている。小学校1年生になってからの教科学習で必要となる概念や思考法を幼児期から身につけることを重視する考え方だ。

「教科前基礎教育は、『何でも早いほうが良い』と小学校で学ぶことを幼児期に前倒しで教えるという教育方法とはまったく異なります。幼児期の発達に無理なく合わせ、子どもたちが遊びや生活といった基礎体験を通し自ら気づき学んだ結果、小学校での教科学習にスムーズにつながるという考え方です」。

この教科前基礎教育は、6つの学習領域に分けられるという。

「将来の教育学習へのつながりを考え、算数科の基礎となる「未測量」「位置表象」「数」「図形」、国語科の基礎となる「言語」、そして生活科(昔の理科・社会)の基礎としての「生活」に大別されます。

株式会社幼児教育実践研究所

これらの項目を、基礎→応用、具体→抽象という形で学べるようにカリキュラムを組み、論理的思考力や概念を養っていきます。

たとえば、『位置表象』の領域では、前後・上下・左右の基本の関係を学びます。前後左右の組み合わせ学習のひとつである『四方からの観察』という課題では、ひとつのものを違う場所から見たとき、自分の位置とは違って見えるということを学びます。左右関係が逆なことが分かれば、今度は、地図上の移動の学習に進みます。このように、基礎から応用へ、具体から抽象への橋渡しとして学びの系統性を大事にしています。

その意味では、算数も『ただ暗記をするだけ』というのは本質的ではありません。先程お伝えしたインド式九九の子も、完璧に暗唱してはいますが、じゃあ『2☓3』と『3☓2』の違いはわかる?と聞いても、その意味までは当然のことですがわからないんですね。

まず大前提として生活という土台があり、その上に数・図形、言語の理解が進み、その後に算数や国語という小学校の教科へと発展していく幼児期に学ぶこれら一つひとつの積み重ねは、小学校だけでなく、中学、高校、大学と進学しても、すべての学びの基礎になる重要な土台作りだと考えています」。

久野氏によると、こうした論理的思考力を養うプロセスは、目に見える成果としてはすぐに表れてこないため、親に理解をしてもらう難しさがあるという。

「やはり『書けるようになった』『読めるようになった』など、わかりやすくできることがあると親たちは安心しますが、論理的思考は1日でできるようになるものではありません。

そのため、私たちも子どもへの授業を90分やったあとに、20分間ほど親御さんたちに、今日の学習の狙いは何で、どのような力をお子さんにつけてもらいたいということを説明するなど、丁寧なフォローアップを心がけています。

お子さんの教育はもちろんですが、親御さんの意識を変えていくことは、今後の幼児教育において大切なことになってくると思っています」。

幼児教育への支出はOECD最低レベル

一部の親たちで早期の幼児教育が過熱する一方で、日本全体としては幼稚園・保育園に通う3〜5歳児の幼児教育について、政府や自治体は2020年までに無償化の実現を掲げ、より多くの子どもたちが教育を受けられるよう目指している。

しかし、久野氏は、「無償にするだけではなく、教育の質を上げることにも力を入れるべきです」と警鐘を鳴らす。

「これまで日本は、就学前教育はあまり重要視されておらず、OECD諸国の中で、国の教育予算に対する幼児教育の支出が最も低い国のひとつ。GDPのわずか0.2%しか支出されておらず、教育への費用負担は『家庭に任せる』というのが現状です」

BLOGOS編集部

「2017年に、10年ぶりに幼稚園教育要領が改定されましたが、この内容はあまりにも漠然としすぎています。たとえば数に関しては『日常生活の中で数量や図形などに関心をもつ』、文字では『日常生活の中で簡単な標識や文字などに関心をもつ』の一文のみ。これでは現場の先生方が工夫のしようがありませんし、漠然としているがために受け取る先生方の力量によって実践内容が異なってしまうという現実があります。

(参考:平成29年文部科学省幼稚園教育要領第2章「環境」

実際、海外の幼稚園や保育園を見学すると、体操・音楽・英語・コンピューター・思考訓練といった課題が1日のカリキュラムに組まれており、日本のように目標はあいまいではなく、教育によって身につけさせるべき目標ははっきりしています。

日本では、幼稚園・保育園ではどうしても『遊び保育』を中心に考えられているのが現状です。もちろん遊びは大事なことではありますが、その経験がどうやって学力に繋がっていくかという道筋を付けてあげないと、その遊びすらも意味を無くしてしまいます。

40年以上にわたり、民間の教育機関に身を置き、日本の幼児教育がどのように変わっていくのかということを期待を込めて見てきましたが、枠組みの議論はあっても教育内容や教育方法に関する議論がなされたことはほとんどありませんでした。それは、幼児期の基礎教育の位置づけそのものがほとんどできていないからではないかと思います。

IT革命で技術革新が進み、社会の構造そのものが変わろうとしている時代の教育をどうデザインするのか。研究者をはじめ幼児教育に関わるすべての人たちが、将来の日本を背負う子どもたちの教育をどうするかを真剣に考え実行に移さないと、海外の動きに相当遅れを取ってしまうと思っています」。

プロフィール:久野泰可(くの やすよし)
1948年、静岡県生まれ。横浜国立大学教育学科を卒業後、現代教育科学研究所に勤務し、1986年、株式会社幼児教育実践研究所 代表取締役に就任。こぐま会 代表となる。
常に幼児教育の現場に身を置き、その実践を通して作り上げた独自カリキュラム「KUNOメソッド」は中国、韓国、ベトナム、タイ、シンガポール、インドネシアなどの幼稚園・教室で導入されている。著書に『子どもが賢くなる75の方法』(幻冬舎)『3歳からの「考える力」教育』『間違いだらけのお受験』(ともに講談社)『「考える力」を伸ばす AI時代に活きる幼児教育』(集英社)など。

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