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ヘイトに刑罰をという神奈川県弁護士会(伊藤信吾会長)会長声明に反対する

川崎市の福田紀彦市長がヘイトスピーチに対する規制条例に罰則を設けるなどと言い出したことに対し、何と神奈川県弁護士会がこれを後押しするための会長声明を出したというのですから驚きです。

神奈川県弁護士会の会長声明

川崎市・相模原市に対して,ヘイトスピーチ対策として実効性のある条例の制定を支持する会長声明

「当会は、相模原市の姿勢についても、川崎市同様これを強く支持すると共に、両市が制定を目指す条例において、表現行為につき可能な限り制限的抑制的でないことは当然ではあるものの、実質的違法性の強い事象に対象を限定し、かつ、適用範囲を明確にするなどの一定の配慮をしつつ、上記のように、実効性を持った条例制定がなされることを求める。」

「罰則整備は不可避」 県弁護士会が声明」(カナロコ2019年6月18日)

 ヘイトスピーチに対して刑罰を持って取り締まるということは言論行為に対して国家が直接、介入することを認めるということです。口にしただけで逮捕されるということです。政治的言論の中でこの内容はOKでここからは犯罪という明確な区別はつきません。当初は「ここまで」とされていたものでも禁止事項の解釈を不可欠とするものである以上、そこに権力側の恣意的な運用がなされる危険があります。そうなれば必然的に発言者に対して、「ここまでで留めたとしても逮捕されてしまうかも」と考えることによって表現行為を萎縮させていくのです。

 個別の人の名誉を害する行為や侮辱する行為とは区別されます。

 言論に対しては言論という大原則を守ることこそ、私たちの政治的表現の自由が守られるのです。これだって大きな闘いが必要とされるもので、私たちの先代たちの絶え間ない闘いが守り勝ち取ってきたものです。戦前の治安維持法、戦後の破壊活動防止(破防)法に対する闘争などです。今なお政治的自由とは緊張関係にあるわけです。

 刑罰を科せと声高に言っている人たちは、当事者、それに近い人たちであることが多く、犯罪となるか否かの線引きが可能みたいなことを言っている人たちもいるようですが、大間違いです。

 その刑罰法規を運用するのは、あなたたちではない、捜査機関なんだということを全く度外視した無責任な発言なのです。むしろ、こうした人たちは、発想が自分たちが裁くんだという権力側に立ってしまったかのような言動です。

 中にはヘイトが暴力であることを忘れるな、みたいな議論も愚の骨頂としかいいようがありません。言論をどう考えようとも「暴力」になることはありえません。比喩的に「言葉の暴力」と言われることはありますが、それは何もヘイトスピーチに限ったものではありません。

 そうしたあくまで言論であるのですから、これを「暴力」と表現しても、その本質が変わるわけではありません。

 むしろ、自分たちの暴力行為を正当化しているかのようです。実力行使による言論に対する妨害行為を正当化する余地はありませんが、相手の行為を暴力と評価することによって自らの暴力行為を正当化するわけです。

ヘイトに関する講演会だろうと実力で妨害するやり方は問題だ 言論の自由を踏みにじる行為

 こういうのが「正義」の暴走につながります。自分が「正義」なんだから何をやってもいいという危険思想です(だからといって、こういった危険思想を国家が取り締まれなんて、私は全く思っていませんので。言論の自由ってそういう意味です。)。発想が権力と一体なのです。

神原元・弁護士の公安に名簿を提供し、公安の監視下におけという異常な主張

 この神原元氏も神奈川県弁護士会の会員です。

 一番の問題と思うのは、この点です。

「同弁護士会川崎支部所属の本田正男弁護士は「市民や市民団体の活動では止められない現実がある。現場の生の姿から社会の動きをすくい取っていくのも弁護士会の役目」と声明の意義を強調。「『声明に反対な人は現場へ行きヘイトスピーチを見てほしい』という意見もあった」と明かした。」(前掲カナロコ)

 この「現場を見ろ」は札幌でも聞かれます。現場をみてくれとというのもこれまた刑罰を正当化する側の決まり文句ですが、ヘイトスピーチの現場をみたら刑罰を科せという発想にならないのがおかしいということですか。

2019年6月4日撮影

 刑罰を科せとは、要は、ヘイトスピーチのデモがあれば、それを警察権力が一網打尽にして全員捕縛せよ、ということなんだろうと思いますが、刑罰を科せと言っている人たちは、自分たちが現実にできないヘイトデモ参加者に対する直接の実力行使を警察がやるところを想像しているんでしょう。

 ここでも権力側と一体となった発想が露骨に見えてきます。

 そもそも現場を見ろなんていうのは感情論丸出しであり、法曹としての議論とは無縁です。

 例えば、日弁連は死刑廃止の意見を採択していますが、これに対する同じような反対論として「被害者の声を聞け」というのがあります。被害者のそうした感情があることは承知していますが、しかし、死刑制度による弊害が看過できないものであることから、弁護士会は法曹としての観点から、そうした感情論とは別の次元で死刑廃止ということの一致点を見出してきたものです。感情を無視するということではありません。法曹はそうした感情を汲みながらも法曹としてあるべき制度論を考えていかなければならないのであり、「現場を見ろ」というのは反論にもなっていないということです。

 むしろ、私からみれば、「現場をみろ」とは反論を許さないぞ、という恫喝ですらあると思っています。相手を黙らせるためのものという意味です。

 これでは法曹としての議論のあり方ではありません。

 このような神奈川県弁護士会の声明に断固、反対の意思を表明するものです。

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