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高速バスの安全

「対向車が来るときは、においがしてくる」。
子どものとき乗った、観光バスの運転手さんがこんなことを話していた。
まだ昭和40年代の前半。当時の日本の道路は狭いうえ、カーブの見通しは悪かった。その分、クルマの台数も少ないが、見通しの悪いカーブでは対向車が来るかどうかに気を使う。
バスの運転手さんは、でっかい体の人が多く、大きな運転席にどっかりと大きなお尻をおろしている。
そこに大きな信頼感を持っていた。

しかし、いつのまにか、時代は変わっていた。
いまより若かったとき、外国を旅すると、安全のことを気にかけるより、値段の安さを第一に移動手段を選ぶことが多かった。
ベトナム国内では、首都ハノイから世界遺産のハロン湾までのバスの往復(片道6~7時間)と、島までの船の往復、3食・宿泊料込みの2泊3日で28米ドル(1ドル100円で2800円)というツアーを現地調達したこともある。
外国では、格安ツアーがよりどりみどりなところがある。
当然、バスだけの格安チケットもある。
鉄道網が充実したヨーロッパでも、列車の旅よりバスのほうが安上がりというのは常識で、国から国へ長距離を移動するバスの格安チケットは昔から多数出回っていた。
しかし、運転手がどのような条件のもとで働いているのかなどは知るよしもなかった。

一方、日本という国では、外国のような価格競争の魅力は小さかったが、国の運輸行政の規制が強い分、運転手さんの身分保障とともに安全度は高かったのだろう。
ところが、規制緩和=自由化の波は、業界を席巻。高速道路網を生かした、特に夜行の長距離バスはかなり安くなっているようだ。インターネットで少し検索しただけで、名古屋・東京間が最安値で2600円という高速バスが出てくる時代になった。

どうして、こうした価格設定が可能なのだろうと思ってはいた。
それぞれの運行主体の安全対策等々はわからないが、今年のゴールデンウィーク序盤に関越自動車道で起きた高速ツアーバス事故はこうした格安バスが一般化しつつある中、衝撃を受けた。運転手の勤務実態が次々と明るみになった。
価格は、運転手が置かれた劣悪な環境と関係していたとみるべきだろう。

国は、安全基準の見直しや対策強化を図るのは当然にしても、ネット時代の今日、低価格競争の流れは止まりそうにはない。
今後も市場原理をもとに価格等のメリットは利用者の選択の幅の中に残るだろう。
しかし、わたしの子どものころ抱いた運転手さんへの郷愁をたんなる郷愁にはしたくない。

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