- 2019年06月21日 15:57
暴力団は「一切ない」、風俗嬢の写真は「補正しない」 当事者達が語るソープランド街・吉原のいま【止まり木の盛り場学 第2回】
2/2「鶯谷で働くと、吉原は面倒くさくなっちゃう」デリヘル経営者が語る風俗業界の実態
渡辺:お仕事上がりでお疲れのところすみません。お昼から吉原で取材してますが、町中はずっと閑散としてますね。お客さんはどこへ行ってしまったんだろう。
ママ:いま私は鶯谷でデリヘルを経営しているんですけど、鶯谷にお客さんが流れているんじゃないかなと思うくらい、吉原のことを耳にする機会も減りましたね。
渡辺:吉原と鶯谷は距離的に近いですが、吉原を鶯谷を掛け持ちしている女性はいないんでしょうか?
ママ:いませんね。鶯谷で働くと、吉原は面倒くさくなっちゃう。鶯谷のデリヘルは、ベッドだけが勝負なんですよ。吉原の場合は、椅子洗いやって、マットやって、手順が沢山でしょ? デリヘルもお風呂は一緒に入るけど、サービスはあれこれしなくていいのよ。吉原みたいな箱型の造りだと、「さぁ性的なサービス受けるぞ!」っていう前提が無意識にあるじゃないですか。でもデリヘルは、カップルが利用するようなラブホテルへ行くわけだから、サービスを提供する側、される側みない意識よりも、フラットな恋人同士のような錯覚に落ちるムードはあると思いますよ。
横田:疑似恋愛ということですね。すでに様式美ができあがっている吉原と、コンビニエントな鶯谷。なんとなくですが、やっぱり土地の歴史的特性って残ってるものだなとそこにも感じますね。大楼のあった遊廓街吉原と、シンプルにコトを済ませる岡場所(※2)との違いのような。
ママ:ソープもデリヘルも疑似恋愛なんだけど、パッと部屋を開けたらキンキラキンのお風呂とスケベ椅子と簡易ベットがある環境と、普通のベッドと普通のお風呂では、気分が違うと思うの。
渡辺:現代は純粋な性サービスの売買より、恋人感覚を前提とした性サービスが求められているんですね。吉原と鶯谷だとお客さんの質も違うんですか?
ママ:今の吉原のお客様の客層は知らないけれど、もうだいぶ違うんじゃないかなあ。
遊び方を知らない客が増えた?Twitterには「クソ客」ツイートも
酒井:僕が思うに、今の吉原のお客さんは圧倒的に遊び方を知らないという印象ですね。女の子も遊ばせ方を知らないんですよね。いまTwitterで「#クソ客のいる生活」っていうハッシュタグがあるんですけど、女の子たちは今日あった嫌な出来事を裏アカで呟くわけです。
横田:大人の遊戯場は、客も女性側もそれぞれ性欲とお金という目的に向かって、本音を隠し、呼吸を合わせるように芝居していた面があったんでしょうが、これまで隠されていた本音というか不満が、ネット上にあふれ出しちゃったと。
酒井:例えば「いきなり店外デートに誘われたんだけど、なんなのこのクソ客!」と。そういった客は、そもそも女の子が巧くいなせば解決するわけですよ。「もっと仲良くなってからね♥」と。すぐに「出入り禁止〜!」で、結果的に自分のお客さんも減っちゃう。だから女の子も遊ばせ方を知らないし、お客さんも遊び方を知らないんだなあって思いますね。
横田:客は客で、店や嬢を品評するサイトもありますものね。他人の不満点ばっかり見てたら、感化されて、一層他者へのチェックが厳しくなるでしょうね。昔は吉原で働く女の子たちは、お金のいただき方ひとつとっても指導や教育があったんですかね?
酒井:昔、吉原のおねえさんに教えてもらいましたよ。喫茶店(※3)を経由して遊びに行くと割引になるんですよ。でも伝票に書かれるから、おねえさんにバレるんです。部屋に入った瞬間に、「あんた喫茶店から来たでしょう。カッコ悪いよ!」って。ピンとこないんで理由を聞いたら、「こういう店は割引で来るもんじゃないよ、6.5万円だったら7万円置いていくのが当たり前なんだから、値切って遊びたいなら下のお店に行きな」って言われて(笑)。
ママ:昔はお客様が気に入ったら大目に置いていくし、こちらが要求するものではなくて。そういうところは昔の方が客層は良かったかもしれないね。
コスパを重視する客たち かつての上客はパパ活に移行か
酒井:今はAmazonでレビューをしっかり読まないと買わないみたいな感じですかね? 昔は、中身はバクチで、ジャケ買いってあったじゃないですか、今はジャケ買いしないですもんね(笑)。
横田:あまりお金を使わないのに、チェック項目がめちゃくちゃ多いって感じなんですかね。

酒井:高級店のお客さんはお金に余裕もあるから、むしろうるさくないらしいんですよ。一番大変なのが大衆店みたいです。
横田:なるほど。やっぱり飲み屋界隈で起きているお客さんの問題と通底してますね。今のお話だと、男性はお金を使わずに細かいことは言う。で、店の女の子は素人化というサービス低下に進んでいる。でもこれだと、コミュニケーションそのものがつまらないものになってしまうじゃないかと思うんですけど。
酒井:今って何でも「コスパ」っていうじゃないですか、人間に対してもコスパっていう男性も多くて、僕は大嫌いなんですけど。分単位で何発抜いたとか(笑)。
横田:でも現状の行く末を突き詰めると、もっとそれが進みますよね。さっきの裏アカの話に戻りますけど、何かあっただけで「クソ客が〜」というのは、中間がない感じしますよね。コミュニケーションができない子が多いんだなというところに、すべて繋がっている感じしますよね。
酒井:社会全体がそういう風になってきてしまっているので、仕方がない部分もありますけど、どこかで踏ん張らないと風俗業界がなくなってしまうんじゃないかなと思いますね。
渡辺:最近は「パパ活」なんて言葉もありますが、個人売春の影響はありますか?
酒井:あると思いますね、かつて風俗側で上客だった人たちは、パパ活に流れていってしまっている感じがしますよね。
渡辺:パパ活をする財力に乏しい人や、遊びを知らない人たちが旧来の風俗に取り残されていると。
酒井:いま風俗のお客さんとキャバクラのお客さんって全然違うようになってきているじゃないですか。昔は多少リンクしていたと思うんですけど。キャバクラでの遊びって、SEXが付属していない前提から、どうやって挽回して女性を口説くかみたいなところあるじゃないですか。そういう駆け引きは財力に余裕がないとできない。でも風俗店の場合、「いくら払ったらここまでできる」という範囲が明確になっているし、それで完結している。昔も完結していたけど、どれくらいかっこよさを出すか、惚れさせるかみたいなことを楽しんでいたんですけど。
横田:若い子にお金がないというのが一番の背景だとは思うんですけど、遊び方を知らない、伝授される機会もなかったという点もあると思います。職場や地域の先輩、後輩とか上司部下とか、先行世代から次世代に引き継ぎがあった。いまはそういうのは全てしがらみとかパワハラの文脈にもっていかれますが、こと盛り場においてはメリットも多少はあったんでしょうね。

No.1孃:うちの店は人妻店なのに、最近は妙に若いお客様もいらっしゃることがありますね。22歳くらいとか。
渡辺:年上が好きな若い子が増えてる?(笑)
No.1孃:それもあるけど、彼女としたことのないプレイをしてみたいとか。
ママ:彼女がいても、いわゆる普通のプレイしかしたことなくて、本当はやってみたいプレイを試してみたいとか、かな。
渡辺:そういったプレイを望む若い男性っていうのは、どんな雰囲気ですか?
No.1孃:何も不自由なさそうなイケメンだけど、ちょっと素材が残念的な…(笑)イケメンなのに、モノが小指だったよとか言われたら嫌じゃないですか。
横田:コンプレックスを抱えた人も多いってことですね。
No.1孃:イケメンだからこそ、このコンプレックスがバレちゃったらかわいそうだなあって。
働く理由はやっぱり「お金」 シングルマザーや奨学金返済が目的という人も
渡辺:今度は働いている側のことも伺いたいんですが、女性はどういった気質の人が多いんでしょう?
ママ:一番多いのはね、働きたくない人。今日2万円稼いだら、明日はもう働きたくないんだよ。デリヘルは片手間の人も多いよ、片手間で商売やれないよと思うけどね。
酒井:最近だったら、100人撮影したら2割くらいシングルマザーですね。あとは昼職との掛け持ち、結婚しているけど、子どものためにお金を稼ぎたい人、他の2割で借金や奨学金がある人が多いですね。男性の思うようなSEXが好きだから働いている子なんて、まずいないですね(笑)
ママ:やっぱり理由はお金だよね、お金以外の何物でもないと思うよ。
酒井:水商売しかできない子と、風俗で働く子の違いは、風俗の子の方が優しいですね。風俗って自分がコントロールされているように見せて、お客さんをコントロールしないといけないじゃないですか。水商売は10回来てくれたらヤらせるよと言ったとしても、ヤらせないこともできるので、完全にコントロールできるじゃないですか。でも風俗の場合、彼氏とすることと、そう変わりがない。だから相手を受け入れる気持ちがある子じゃないと、できない仕事だと思います。
渡辺:自分のプライドや感情もコントロールできないといけない、というわけですね。
酒井:心に他者を受け入れられる余裕がないとできないですよね。ところで、吉原の中に飲食店、本当に減りましたよね。
ママ:だってもう食っていけないもんね。昔なんて毎日この辺りで飲み歩いてたけどね。もうみんな変わっていくんだよね。昔はいい飲食店がいっぱいあったんだよ。もう昔みたいな時代は戻ってこないね。これから風俗はどんどん厳しくなっていく一方だと思うよ。
酒井:そういう寂しい世の中になってきちゃっているので、女の子たちも過去の遊廓や赤線に興味を惹かれたりするんでしょうね。ロマンがあるじゃないですか。
渡辺:そろそろお時間ですね。普段絶対聞けないような興味深いお話でした。ありがとうございました!
取材を終えて──。街の中と外、今と昔、男と女、様々な軸からお話を伺う機会になった今回の吉原取材、どっちつかずの40男たちにはどう映ったのか。
横田:風俗にもあらわれた二極化、高齢化、コスパ主義の客の増加、コミュニケーションを持ちにくい人たちが、性欲解消よりも繋がりを求めている現状、そういうものがよくわかりました。色街にせよ飲み屋街にせよ、その中で暮らしている人たちがおっしゃる変化は、みんな根は同じところだなと改めて思いましたね。でも、さびしい気持ちになる一方、すこし光明もあるんじゃないかと。
渡辺:さみしさだけじゃないと?
横田:どんどん縮小してさびれていっても、どこかで止まり、止まった後はそれぞれまた独特に変化発展していって成熟した1ジャンルになるんじゃないかなと。飲み屋街も先輩、上司が会社の経費で飲ませながら、店や飲み方を教える時代は去りましたが、それこそ悪者にされることも多いSNSが、いいハブになって、人と人をつなぐ機能を果たしている点は、最近ほんとによく見ますし、感じます。花街で芸者さんや置屋を取材したときも感じましたね。同じ問題が起きてるんですが、それでも新しい客、特に女性などが入ってきている。派手な遊び方はもう流行らないと思いますし、男の遊び場という特性はどんどん薄れていくでしょうが、疲れた40男の「止まり木」は残ると思いますね。
渡辺:私は売春と恋愛の境目がどんどん消えているなぁって。ソープ遊びをする男性が、例えば「オキニと一緒に部屋で寿司食べた」と幸せそうにツイートしている写真がTwitterに流れてくる。これは恋人とする行為とどう違うのか。そしてとても生きづらそうです。一方、恋愛だって、テクニックつまり打算・計算の割合が増えている。行きつくところ、売春と恋愛の境目って何なんだろうって。皆さんが仰るように、ギラギラした時代は帰ってこないと思います。でも、風俗は時代に合わせて形を変えてきた。オリンピック、SNSなど理由は様々だけど、このタイミングで大きく姿を変えようとしている。私たちが「平成」に対して一番残念に思ったのは、「変化がなかった」ことじゃないかな? これから良くなるのか悪くなるのか分からないけど、大きな変わり目に差し掛かっているのが今だとしたら、私はこれからが楽しみです。
渡辺&横田:まあなんと言っても、節々が痛んでくる前に、はやく40男の「止まり木」を見つけたい!
※1:戦後に黙認されていた売春街の総称。
※2:江戸時代、公許の遊廓は吉原のみで、それ以外の非合法な売春街を指す。
※3:一見、喫茶店だが、紹介所の役割を果たしている店が吉原にある。俗に情報喫茶。
渡辺豪(わたなべ ごう):「カストリ出版」代表、「カストリ書房」店主、遊廓家。IT企業でデザイナーなどを務めた後、2015年に遊廓に関する書籍を発行する「カストリ出版」を設立。2016年には遊廓、色町、盛り場等の出版物を中心に扱う書店「カストリ書房」をオープン。
・カストリ書房 東京都台東区千束4-11-12
・Twitter:@yuukakubu
フリート横田(ふりーと よこた):文筆家、路地徘徊家。出版社勤務ののち、タウン誌の編集長を経て独立、編集集団「株式会社フリート」を立ち上げ、代表取締役を務める。戦後~高度成長期の路地、酒場、古老の昔話を求めて徘徊。昭和や酒場にまつわるコラムや連載記事を執筆している。著書に『東京ノスタルジック百景』(世界文化社)、『東京ヤミ市酒場 飲んで・歩いて・聴いてきた。』(京阪神エルマガジン社)。最新刊は『昭和トワイライト百景』(世界文化社)。
・Twitter:@fleetyokota
- フリート横田・渡辺豪
- 惑わぬはずが惑いまくりの「40男」コンビ



