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大学受験に英語の「話す」は本当に必要か?開始前に大混乱の英語教育改革 阿部公彦・東大教授に聞く - 中西享・濱崎陽平

阿部教授(中央)。1966年生まれ。東京大学文学部卒。ケンブリッジ大学で博士号取得。現在、東京大学教授。2017年に「史上最悪の英語政策―ウソだらけの『4技能』看板」(ひつじ書房)から発刊。

2020年度から、大学入試センター試験の後継となる「大学入試共通テスト」に、英語4技能を測る民間業者の資格・検定試験が本格導入される。大学受験に「話す」能力を測る項目も加わり、読む・書く・聞く・話す、の4技能が問われることになる。

高校3年生と既卒者は、4月から12月の間に「英検」「TOEFL iBT」など計8種類の民間試験の中から受検し、2回まで結果を大学入試センターに提出できる。新たな入試制度のスタートまで事実上10カ月を切ったが、公平性の担保や指導法などの点で課題は山積しているため、民間試験利用の中止を求める声が高まっている。

6月18日、民間試験導入に反対する大学教授らが、都内で記者会見を開き、希望者全員がトラブルなく受検できるめどが立たず受験生に不安が広がっており、多くの受験生が制度不備の犠牲となると訴えた。趣旨に賛同した約8000筆の署名を添えた嘆願書を一部の衆参議員に提出した。文部科学省の担当者にも要請文を手渡した。

要請書の中では、受験体制が整っていないことへの懸念、受験会場や経済的負担など受験機会の不平等を訴える項目のほか、複数の民間試験の結果を評価する際に欧州言語共通参照枠(CEFR)が使われることに対する問題点の指摘なども含まれている。

CEFRと対照させることは科学的裏付けがなく、そもそも国際標準規格でないあくまで目安である概念を受験に使用することは問題だという。要請者代表の羽藤由美・京都工芸繊維大学教授は、「CEFRは最近項目に改定が行われたが、今回の入試改革で対照表として使用されるものは変更ないまま。このような誤用、使われ方をしている時点で、入試制度としてアウトだ」と強く批判した。

同じく会見に出席した阿部公彦・東京大学大学院人文社会系研究科教授は、「シンプルであるべき試験制度が、民間試験の導入によって分かりにくいものになっている。その説明がないまま、制度改革で英語が話せるようになるというバラ色の説明ばかりされてきた。一方で、塾・教育業界や英会話教室は4技能ができないと大変だと生徒たちの不安をあおった。それらが裏目に出て、今の混乱につながっている」と訴えた。

東京大学で学生に英米文学を教える傍ら、今回の問題を著書などで厳しく指摘してきた阿部氏。「4技能」を強調する今回の文科省の政策について考えを聞いた。

「入試がマーケットに」

Q 大学入試の英語で民間試験を導入することについて

A 試験業者に競争させて大学入試を経済的なマーケットにしたのが問題の始まりで、試験業者に競争させて大学入試を経済的なマーケットにしてしまったのが、混乱の原因だ。一番悪いのはこうした事態を招いた政治家だ。業者としてはいままでやってきたビジネスを守るためには、この動きに乗り遅れるわけにはいかないので、あまり儲かる話ではないが、この話に乗らざるを得なくなった。政治家とも仲良くしなければならなくなった。これが最大の間違いの始まりで、英語の4技能を向上させるという理屈は後から付いてきた。

Q 4技能をバランス良く身につけることが重要だといわれているが

A 4技能の必要性について「4技能教」のように言われ、「4技能をバランス良く」と主張するが、「バランス良く」とはどういうことなのか、誰も答えていない。多くの日本人は、読むのは高校生レベルだが、しゃべるのは小学生以下のレベルで、すべてを小学生のレベルに引きずりおろしてバランスを良くするのでは意味がない。「均等化する」とも言われているが、能力なのか、費やす時間なのか、配点なのは分からない。基本的には配点を均等にするということだろうが、それによって大きな歪みが生じている。

母国語でない第2言語を習得する上で、4技能と言っても読むことはある程度できるが、書くことは最高峰で非常に難しい。それなのに4技能を均等に伸ばそうという事自体が非現実的ではないか。

「なぜ日本人は話せないか」

Q 日本人はどうして英語が話せないのか

A 話せないとビジネスで困る、英語が母国語でない別の国の人でも話しているではないか、などよく言われる。しかし、日本人はなぜしゃべれないかについて十分に考えられていない。単一民族で単一言語の国である日本や韓国は世界でも珍しい。

中国などもいろんな言語が話されている。そういう国では第2言語を話すときはスイッチが切り替わるような感じで、別の言語を話すことにも慣れている。しかし、日本人は英語で話してくださいと言われると、照れてしまい抵抗感がある。

また、日頃から英語を話す必要性がなく機会も少ない。6カ月ほど海外に行って英語漬けで暮らしたりすると、突然分かるようになることも指摘されているが、人間は必要に迫られないと、なかなか学習しようとしない。これをコントロールして学習するのは難しい。要はどれだけ集中して英語を少しでも長く聞くかで、どうやって集中力を続かせるかが学校の先生の腕の見せ所になるのではないか。

Q 日本語と英語ではアクセントの置き方など話し方の違いがあることが指摘されているが

A 決定的に違うのはアクセントだ。アクセントは英語の根幹で独特の運動法則がある。日本語にはないものなので、体で覚えるしかない。聞くことに関連すると、日本語のリズムで全部を聞こうとするが、英語はリズムが強くなった部分だけ聞いていれば分かる。これができるようになるためには、できるだけ多くの英語を聞いて慣れるしかない。

その点からして聞くことが一番大事だ。日本人は「話せない」とよく言われるが、話せないのではなく、聞き取れてないことが多い。聞き取れてなければ、話そうにも話せない。

意外と指摘されていないが、日本語と英語では音の数が違い、英語には日本語にない音がいくつもあり、日本人にとって英語の発音は絶対的に難しい。英語は全く違うスポーツだと思ってやるしかない。

それなのに、スピーキングだけを試験に新たに入れても、受験対策としての勉強をするだけだ。タブレットに向かって1分間は話せと言われても、どれだけ意味のあることなのか分からない。

文科省の英語政策にも原因

Q 日本人が「英語ができない」だとしたら、文部科学省の英語政策に原因があると指摘されているが

A その原因はこの20~30年の文科省の英語政策に原因があると考えるのが自然なのではないか。1989年から始まったコミュニケーション英語の導入によって、明らかにしゃべる方の流れになって、そのなれの果てが、10年ほど前に言われた「英語の授業は英語でやりなさい」だった。コミュニケーション英語が導入されて学生の英語力が落ちている。我々の大学で教えている実感では、英作文などを学生に書かせると文法はできてなくボロボロだ。オーラル中心で文法も教えなくなって、どうすれば文章として意味を持つかなどがまったく分かってない。

Q 民間の英語の試験を導入するいまの流れを止めるための代案としては何が考えられるか

A 世の中が「スピーキング」を求めていること、大学側が使いたいという声を無視することはできないが、「スピーキング」の試験を受験生全員に課す必要性は全くない。スピーキングは民間の試験に委託して、受けたい人だけ受けるオプションにすればよい。

共通テストは継続するが、24年度以降に大学入試センターの試験がなくなり、2次試験まで民間が行うようになったら「終末期」だ。「スピーキング」が苦手だが能力のある受験生は、「リーディング」の成績で合否を判定すればよい。話すのが得意でなくても才能のある受験生は多くいる。

もしかして、スピーキングやオーラルコミュニケーションが洗練されたら、スピーキング試験もやればよいが、いまのままの民間の試験はどうしようもなく課題が多すぎてやらない方が良い。技術的には難しいが、いずれは大学入試センターがスピーキング試験を作ればよい。その際も受けたい人が受けるオプションでやればよい。

スピーキングは国によってカルチャーの違いもある。欧米では流麗に話すのが良いとされるが、日本ではむしろ訥々と話した方が説得力があったりして話すポイントが違うのも、合否判定を難しくするのではないか。

変化見られる欧州の姿勢

Q 日本語が十分に分かっていない時期である小学生から英語を教えることについては

A 小学校5年生くらいから学習するかどうかが勝負になるのではないか。日本語のある程度の基盤を捨てない限りにおいて、リスニングを学ぶのは良いことではないか。外国語を学ぶことで日本語を忘れてしまうという危険のある範囲で、外国語に触れるのは悪いことではない。

Q 第2言語の学習を評価する上で日本が参考にしてきた欧州にも変化がみられるようだが

A 欧州ではいまは4技能ではなく7技能に変わり、いまでは自分の得意とする能力を伸ばすようになってきている。

◆Wedge2019年7月号より

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