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「香港大規模デモに見る『一国二制度』の破綻」―台湾の香港化を狙う習政権― - 屋山太郎

 6月9日に香港で起きたデモの参加者数は、主催者側によると103万人。群衆でぴっちり埋まった香港の繁華街、大通りは圧巻だった。抑えられたエネルギーは当局への不信で一段と強くなり、台湾や南シナ海における中国脅威論を高めるのは必至だ。

 1997年、英国から中国への返還以来、内政面での中国化の改造は着々と進んでいたようだが、市民を芯から怒らせたのは「逃亡犯条例」の改正だ。改正点は香港で捕まえた刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡すことができるというものだ。怪しい人物を香港で裁くことができず、本土に引き渡すことが続けば、香港の警察能力が細り、香港の自立精神まで弱くなる。英国から中国に返還された時の約束は「一国二制度」だ。共産体制と自由民主主義体制の2本なのだ。

 条例改正などはいずれ行われるだろうと思ってきたが、今回の発想は、とてつもなく強圧的で乱暴である。一国二制度については世界のほとんどの人が信用しなかった。本土が香港の言うことを聞くわけがないのに、本土が「民主主義国家に近くなる」という人物はいた(オバマ前大統領)。一方で、香港が独自の規制を外していけば、本土と香港は「ゆっくりと握手ができるようになる」と語る人も多かった。関税の自由化について、今、トランプ大統領はカンカンに怒り、中国有利に転んだ共産主義システムをぶち壊そうとしている。

 中国の共産党政権は一国二制度解消への進め方を、もっと早めたいと考えたのだろう。しかしこの「条例改正」は乱暴すぎる。香港住民は民主主義の破綻に直結している恐怖を感じたろう。習近平氏の共産党運営は見栄も外聞もない。今回の対策は失敗に終わったが、いずれ実力で勝負しようということになるだろう。

 香港は軍隊を持たない。市民が怒るときは自分で叫ぶか、助けを呼ぶしかない。この二つの意思表示がはかないものに終わると、この先10年ばかりの間に、能力の高い人物ほど将来に絶望し、香港を脱出していくだろう。

 台湾は香港とは違って独立国である。中国本土から入って来た人々も多いが、「台湾人」という自覚が日に日に高まっていくだろう。

 台湾では6月13日、総統選に立候補する資格を得る予備選があって、現職の蔡英文総統(62)が勝利した。本選挙で勝つかどうかは判らないが、予備選前は「敗ける」と予想されていた。その理由は「タカ派でない」と噂されていたからだ。それが総統予備選に入ってから、タカ派に一変し、一気に人気が上がった。これは自身の持つ意識が周りから「浮き上がるのを恐れていた」との見方もある。最近、米国に向かって軍備の強化を要請した。司法の独立についても確たる信念を語った。習氏は台湾を香港並みに扱おうとしているようだが、台湾が狙っているのは単純な独立だ。

(令和元年6月19日付静岡新聞『論壇』から転載)

屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生れ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、ローマ特派員、官邸クラブキャップ、ジュネーブ特派員、解説委員兼編集委員を歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。「教科書改善の会」(改正教育基本法に基づく教科書改善を進める有識者の会)代表世話人。 著書に『安倍外交で日本は強くなる』『安倍晋三興国論』(海竜社)、『私の喧嘩作法』(新潮社)、『官僚亡国論』(新潮社)、『なぜ中韓になめられるのか』(扶桑社)、『立ち直れるか日本の政治』(海竜社)、『JAL再生の嘘』・『日本人としてこれだけは学んでおきたい政治の授業』(PHP研究所)など多数。

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