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池江璃花子と萩野公介 「東京で金メダル」と誓い合った

ホームページで一時帰宅中の姿を投稿した池江選手(時事通信フォト)

 東京五輪金メダルの最有力候補と期待され、競泳界の絶対的エースと呼ばれた2人の選手がいる。彼らはさまざまな感情を共有していた。孤独、葛藤、焦り、恐怖…。ナンバーワンにしか理解できない領域で、切磋琢磨して「東京」を目指す奇跡の物語――。

【写真】高校の制服姿の池江璃花子、今は日大へ進学

「スイミングキャップを外し、濡れた髪をかき上げる仕草がかわいくて、きれいなセミロングも印象的でした。今回の写真ではニット帽を被っていて、長い髪はもうなかった。

 抗がん剤の副作用もあるでしょうし、二の腕もほっそりしていて大変な闘病中なのだと見てわかる。でも笑顔はそのままで、前向きな様子が伝わってきました。ホームページの更新に1か月も掛かった理由がわかったような気がします。少しでも元気な姿を見せようと必死だったのだと思います」(日本水泳連盟関係者)

 2020年の東京五輪で金メダルの最有力候補とされた池江璃花子選手(18才)が、白血病を告白してからおよそ4か月が経過。今、彼女は必死に世間に対して言葉を発信しようとしている。

 5月8日に開設した公式ホームページがその場所だが、本人のコメントが更新されたのは、開設から1か月も経った後だった。

《退院中は家族で食事を楽しんだり、外の空気をたくさん吸ってのんびりした日を過ごしました。もう病院には戻りたくない!と思う時もありますが、人生の中のたった数ヶ月間だと思って自分を奮い立たせてます》

 兄や姉と並んだ写真とともに、5月下旬の一時退院した際の様子を綴った。闘病期間に入ってから初めて彼女の姿が明かされたが、その変化に、息をのんだ人も少なくなかった。だが、治療は順調に見えると、ナビタスクリニックの血液専門医・久住英二さんが言う。

「現在は抗がん剤治療を進めながら3週間ほど入院し、1週間ほど退院する『地固め療法』の段階と考えられます。一時的に退院できたことから、治療は順調に進んでいるとみていいでしょう」

 地固め療法がこのまま進めば、年内にプールサイドに戻ることも可能かもしれない。

この春、日大に進学した池江璃花子選手(時事通信フォト)

 その思いを共有する人たちは準備を進めている。6月には池江選手を指導する三木二郎さん(36才)が、所属していたルネサンスを退社し、池江選手が進学した日大水泳部のコーチに就任。二人三脚で東京五輪を目指す体制が整った。三木コーチによれば、池江選手は病室で自転車トレーニングをする日もあるまでに回復しているという。

「日大水泳部の部員たちも、池江さんの復帰を心待ちにしています。5月の初旬に彼女が日大のプールを訪れた時に集合写真を撮っていて、“同じ日大生の仲間”という思いから、水泳部の寮にはその写真が飾られています」(日大関係者)

 池江選手は日々、こうした周囲のサポートに感謝しているというが、その彼女が、闘病を始めた頃から気にかけている男性がいる。競泳男子のエース、萩野公介選手(24才)だ。

 幼少時代から「天才スイマー」と呼ばれた萩野選手は、2016年リオデジャネイロ五輪の400m個人メドレーで金メダルを獲得。女子のエースが池江選手なら、萩野選手は男子の絶対的エースだった。しかし池江選手が白血病を告白したわずか1か月後、「競技に正面から向き合える気持ちではない」と無期限休養を発表したのである。

◆池江選手が目指すは来年4月の日本選手権

 不調のきっかけはリオ五輪終了後の2016年9月に行った、右ひじの手術だった。

「手術自体は成功したのですが、スイマーとしての微妙な感覚が狂ってしまった。それにより、ズルズルと成績が下降する負のスパイラルにハマってしまったんです。責任感が人一倍強い萩野選手は、スランプに陥った時に“自分はエースだから、決して弱音を吐いてはいけない”と抱え込んでしまった。結果が出ないことでより一層追い込まれ、周囲に不調を明かした時には、すでに心身ともにボロボロ。休養するしかなくなったんです」(別の日本水泳連盟関係者)

 競泳は孤独な競技の1つといわれている。そのため、熾烈な競争を勝ち抜いて頂点に立った池江選手と萩野選手は、互いに尊敬の念を抱いていた。一方、ひとたびプールを離れると、今時の若者らしいやりとりができる関係でもあった。

 2人の関係性がわかるやりとりが、インスタグラムにアップされたことがある。

 萩野選手が去年の年末、愛用するスニーカーとともにドヤ顔を決めた「キモ撮り」を公開すると、池江選手が《ある先輩の真似です》と書き込んで同様のキモ撮り写真を投稿。これに萩野選手が《真似すんな》とつっこめば、池江選手は《すいません ちょっとやってみたかったです》と、かわいらしく返してみせた。

東京五輪出場を目指す萩野公介(共同通信社)

 池江選手が白血病を告白した際には、萩野選手はこんなコメントを寄せていた。

「すごく頑張り屋さんで尊敬するところがたくさんある。東京五輪をあきらめているわけではないと思うので、一緒に頑張っていきたい」

 この頃はすでに萩野選手も窮地に追い込まれていたが、それを隠し池江選手へのエールを送っていた。

 その2人が、同じタイミングで前進し始めた。池江選手が6月5日、ホームページに《自分を奮い立たせてます》とのメッセージを発した翌日、萩野選手が都内で会見し、練習再開を明かしたのだ。

「休養期間中は友人に会ったり、ヨーロッパをひとりで旅してリフレッシュしたそうです。“もっと泳ぎたい”との意欲がわき、心配されたメンタル面は回復した。また、病気と必死に闘い前を向く池江選手の姿に、たくさん勇気をもらったと周囲に話していたようです」(前出・日本水泳連盟関係者)

 池江選手にとっても、萩野選手の復帰は病の克服に向けた大きな力となるはずだ。東京五輪出場は厳しいとの見方が大半だが、池江選手本人は決してあきらめてはいない。あきらめない理由がある。荻野選手の知人はこう語る。

「白血病が発覚する直前、ともに調子の上がらない池江さんと萩野は、“東京で金メダル”と誓い合ったそうです。池江さんはその言葉を胸に闘病を続けている。萩野は当然その気持ちを知っているので、まずは自分がと奮起したのでしょう」

 奇跡の復活を期する両エースが目標とするのは、来年4月の日本選手権だ。

「東京五輪の選考方法はまだ発表されていませんが、2016年のリオ五輪の選考をみる限り、来春の日本選手権で五輪派遣標準記録をクリアしたうえで上位2位に入れば、五輪への出場資格が得られるはず。

 復帰を誓う池江選手と萩野選手にとって、日本選手権は“約束の大会”。お互いに尊敬し合う2人は、この大会での完全復活を目指して切磋琢磨することでしょう」(前出・日本水泳連盟関係者)

 日本が誇る両エースの苦難の先に、東京五輪への道が見えてくるはずだ。

※女性セブン2019年7月4日号

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