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「学生の頃、もっときちんと学んでおけばよかった」そんな風に感じたことがあるなら、今から「学び」について考えてみませんか。くしくも人生100年時代、世の中はグローバルになり、技術もどんどん進歩しています。だとすれば、大人だって学び続ける必要があるはず。人生を楽しむために必要な「学び」に関する特集がはじまります。

学校に馴染めない子どもの“才能”を引き出せ 「異才発掘プロジェクトROCKET」が生む新しい教育

  • 2019年06月20日 10:23
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BLOGOS編集部

不登校の小・中学生がここ数年で急増している。文科省が行った調査によると2017年度の不登校児は過去最多の14万4031人に上るという。そんな学校に馴染めない子どもたちの才能を引き出し、”異才”を発掘するための教育プロジェクトがある。日本財団と東京大学・先端科学技術研究センターが共同で行っている「異才発掘ROCKETプロジェクト」だ。

「やり方を教えずイカを解剖させる」、「北海道の原野で氷を使って火を起こす」。ROCKETが提供するのは既存の学校教育とは異なるユニークな学びの場だ。プロジェクトを率いる同センターの福本理恵さんに「学校に馴染めない子どもたちの才能の伸ばし方」を聞いた。

学校に馴染めない子どもの才能を発掘

-まずROCKETとはどのような活動なのかを教えて下さい。

ROCKETは既存の学校教育の枠からはみ出た子どもの才能を潰さずに社会につなげ、現在の日本の教育を打破するような先導的教育を巻き起こしていこうという目的で2014年に始まったプロジェクトです。

−プロジェクトの対象となるのは小・中学生ですか?

現在、下が小学3年生、上が大学に進学しなかった人も含めて20歳まで参加しています。今年で6年目になりますが、毎年300〜600人の応募があり、15〜30名を採用しています。

−参加している子どもたちはどういった子たちですか?

例えば「トリュフが好きで、キノコのことならなんでも話せる」という子がいます。でも、そういう話を学校でしても誰も興味を持ちません。みんながするゲームの話には逆についていけず、キノコ少年は孤立していきます。キノコが好きという事実を学校では言えないという状況になってしまいます。そういう周囲とは違うすごくニッチなところに興味があって、深く追求したがるようなマニアックな子どもたちが集まっています。

−研究者や専門家的な気質を持つ子どもたちですね。

逆にオールマイティになんでもできる子たちもいます。そういう子たちは先生のアシスタントをさせられていたり、学校の勉強がつまらなかったり、何のために学ぶのかという学びの本質がわからないといった理由で学校に通わなくなってしまいます。

あとは読み書きができない子たち。現在の学校教育では読み書きができないと、教科書を読み、黒板に書かれた授業内容を記載していくスタイルについていくことができなくなります。さらに読み書きができない子たちを悩ませるのがテストです。答えがわかっていても答案用紙に書くことができない。漢字をまちがえてしまう。授業中は受け答えできるのに、ペーパーテストでは点数が取れずに、先生から「この子はわかっていない」という評価を受けてしまう子も中にはいます。ROCKETではそういう子どもが3分の1くらいを占めています。

学習スタイルの裏側にある認知特性の違いや、興味関心の違いに合わせた学びを既存の学校現場で対応することはたやすくありません。そんな中、本当の自分の能力や好きなことを評価してもらえず、人間関係のトラブルや学校での不適切な評価によって心理的に追い詰められていってしまう子どもたちもいます。

さらに、近年では、まだ学びたいという意欲が残っている低学年の子どもたちの応募が増えてきています。

−低学年化は最近の傾向ですか?

そうです。プロジェクトが始まった当時は、オルタナティブとして突き抜けたことをやっていいよという組織は他にほとんどありませんでした。でも、ここ数年でIT企業などがそういう場を提供することが多くなりました。また通信制の高校やフリースクールが増えるなど、中高生が学ぶ場所というのは多様化しているように思います。しかし、小学生が学ぶ場所はまだ少ない。だから私たちのところにアプローチしてくるという印象です。

テーマを与えて子どもたちに試行錯誤を体験させる

ROCKETでは子どもたちの特徴に合わせたさまざまなプロジェクトを展開している:東京大学先端科学技術研究センター

−そういう子どもたちにROCKETではさまざまな学びの機会を提供しているんですね。

はい。ROCKETではまずはじめに、「解剖して食す」という授業を行います。現在の学校教育のシステムでは、興味があることを追求しようとしてもチャイムが鳴ったら学習をやめないといけませんし、教科書があると「書いてあるやり方と自分が思いついた方法は違うからやめとこうかな」と自分で抑制してしまいがちです。時間の枠をなくして教科書に縛られなくなった時に、子どもたちは自分のやりたいように納得のいくまでやりきります。

最初に扱った素材はイカでした。「イカ墨のパエリアを、墨袋を破らずに作りなさい」というミッションだけを子どもたちに与えます。やり方は自由です。すると一番大きなイカから手に取った子どももいればできるだけ小さなイカを選ぶ子もいます。失敗したくないから慎重に試していく子や、「俺はでかいものからやるんだ」と挑戦して、墨袋を破って叫ぶ子もいる。私たちはそんな子どもたちの試行錯誤を見守ります。

東京大学先端科学技術研究センター

− テーマを与えたあとは、自由にやってもらうというのがROCKETの基本ですか?

そうです。試行錯誤した結果なら、失敗しても納得できますよね。それは失敗だけど、失敗じゃない。ROCKETのサポートは、既存のルールの中にはないことをやりたいと言っている子どもたちへの支援です。だから子どもたちにプロジェクトを通して、まず私たちの理念をぶつけてみる。「何も言わないし、教科書も時間制限もない。やりたいのならどんどん没頭して試行錯誤しなさい」と。

5月末に東京大学駒場キャンパスで行われたROCKETのプロジェクトを訪れると小学3年〜中学3年までの男女10人が「小麦の達人になろう!」という授業に参加していた。内容は小麦を使ってパンかケーキを作るというもの。一見すると一般的な家庭科の授業のようだが、まずガラスの小瓶に入ったコーンスターチや片栗粉など10種類の粉のなかから、小麦粉を、舐めたり触ったりして見つけ出すことから始まる。

次に子どもたちは「グルテンとはなにか」「薄力粉と強力粉はどう違うのか」といったレクチャーを受け、実際にパン、またはケーキ作りを行う。しかし、与えられた条件は「小麦粉と水と電子レンジなどの道具を使って普段食べているパンやケーキをつくること」「挑戦は3回まで」というもの。作り方は教えてもらえない。

子どもたちは水の分量や粉を混ぜる回数を試行錯誤しながら、パン・ケーキ作りに挑戦。周りの子どもたちと楽しそうに話しながらも、目の前の小麦粉をどうすればいつも食べているパンやケーキに近づけられるか、全員が真剣に生地と格闘しながら体と頭を使って考えていた。

当初、予定されていた授業時間は90分だったが、結局、終了時間は1時間以上オーバー。しかし、福本さんをはじめとした講師陣も子どもたちも時間を気にすることなく、授業に臨んでいた。

やりたいことをやるほど好奇心が生まれる

−そんな環境のなかで子どもたちはどういう風に変わっていくのでしょうか?

自分がやりたいことをやればやるほど、「ここをもっと知りたい」「あの人に会って話が聞きたい」と好奇心が生まれます。そういう時は個別でROCKETに申請できる制度があります。申請は子どもそれぞれにとっての良いタイミングで受理していきます。

−申請を却下することもあるんですか?

例えば「自分はこんなすごい大学教授に会って、次にあの有名人にあって…」というように「会うこと自体が目的」にならないように気をつけています。自分で技術や知識を試してみて、その先にどうしても自分だけではできないことがある時にだけ申請するようにと子どもたちには伝えています。

私は申請自体がトライアルだと思っています。将来、彼・彼女らが自分の好きなことを仕事にしようとする時、投資家からお金を集めなければならない場面に直面するかもしれません。その時、自分には何ができて、作品の魅力は何かをプレゼンする能力が必要になります。自分がやりたいことを成し遂げるための方法を、申請書制度を使いながら練習してほしいなと思っています。

−子どもたちからの申請を受けるだけでなく、ROCKETではさまざまな分野のトップランナーを講師として呼んでいると聞きました。

堀江貴文さんや養老孟司さん、チームラボの猪子寿之さんなど著名な方をお呼びしたことがあります。また、名前が広く知られていなくても専門分野でトップランナーやエキスパートとして活躍され、子どもたちに生きる哲学を話してくださるような方々にお越しいただきました。

北海道の原野で挑戦 「氷を使って火を起こせ」

−解剖を経験したあと、子どもたちはどのようなプログラムに参加するのでしょうか?

ROCKETには本当に多くのプログラムがあります。例えば「氷で火を起こせ」というプログラム。うちに来ている子は知識が深く、考えたり妄想したりすることが得意で好きな子が多い。でも実際にあるものを使ったり工夫したりして、知識を活用することはまだまだという子も多いんです。だから理科好き、実験大好きな子どもたちに「氷で火を起こせと言われたらどうしますか」と問いかけるわけです。ちなみに自分であればどうします?(笑)

−うーん…。道具は何も使ってはいけないんですよね。

使ってもいいですが、プロジェクトでは実際に北海道に行って、目の前の原野にある氷を見つけるところから始めます。「大自然のなかで凍死するから火を起こす必要がある」というシナリオです(笑)。

−理科の実験室で行うのをイメージしていました。

それだけでも難しいんですが、このプログラムは自然のなかを歩くことから始まります。たしかに氷はいろんなところに存在する。牧場にあるバケツに氷が張っていたり、屋根からつららが下がっていたり。そのほかにも凍った川などいろんな場所から自力で氷を探して、どうやって火を起こすかを子どもたちは考えます。

例えば虫眼鏡のようなレンズに近いものを氷で作れば光を集約して火が起こせるのではないかという発想にたどりつきます。そして、その仮説を現実的に検証できるか試してみるわけです。集光するためには氷が透明である必要があるとか、弧を描いている必要があるとか、いろいろ考える。500円分だけ100円均一ショップで道具を購入していいという条件を伝え、子どもたちはそれぞれお玉や食器などを購入してここでも試行錯誤していました。

なかには風船を買った子がいました。風船は100円で大量に手に入ります。入れる水の量を調整し大小さまざまな水入り風船を準備します。その風船を木の枝にぶら下げると、重力で綺麗な弧を描く氷を作ることができる。今回はその方法で作ったレンズが一番火を起こすのに適していましたが、結局、火は起きず、煙だけがたっただけでした。

でもそれは失敗じゃありませんよね。知識を総動員しながらやったことの結果です。本で学んだ知識を実践的な知識としてどう活用するか。それを学ぶことの楽しさ、深さを肌で感じてほしいんです。

東京大学先端科学技術研究センター

−その時、子どもたちはインターネットなどは使えない状態ですか?

氷のプログラムの時は電子機器は全て預かりました。逆にプログラムによってはインターネットも本も活用してとことん知識を深掘りさせるというものもあります。「昆布とわかめは同じ海藻だけど何が違うんだろう」などといったテーマを興味の赴くままに深く深く調べたこともあります。

どんどん調べていくうちに、新発見に当たる。そういうニッチな面白さを子どもたちに伝えることで、「まだまだ自分たちが知っていることは大したことはないんだ」と気づかせていくんです。

「大したことないよ」と言われて立ち止まる子もなかにはいますが、それは悪いことではありません。そういう子には、「ちゃんと体系的に知識をいれたほうがいいから学校で勉強したほうがいい」と提案することもあります。ROCKETの提供するプログラムは、現状に満足せずにどんどん追求していきたいという意欲の底なし沼にいるような子どもに向いているものが多いですから。

重要なのは学ぶ場所を選べること

−参加者がみんなプロジェクトに合うわけではなく、立ち止まる子もいるんですね。

そうですね。「このままでは受験できなくなるかもしれない」と言って去る子もいます。学校のほうが自分には向いていたんだと気づく子もいるし、学校とROCKET、両方あるからバランスが取れるんだという子もいる。そして3分の1の子が学校は自分に全然合わないから、ROCKETで学んで、違うところに飛び立つんだと話します。

どこで学ぶかではなく、学ぶ場所を選べるということが一番大切だと思っています。納得できないことがあった時に、別の選択肢があることが重要です。固定していた場所を変えて他の場所から改めてみてみると、嫌いだと思っていたものが、違う角度からは魅力的な場所に思えてくるかもしれません。

−参加者の3分の1は学校に行かずにROCKETのプログラムだけで勉強しているのですか?

勉強というよりは、ROCKETが提供するのは刺激を与える機会なので、そこから自分の学びにつなげていくというイメージですね。ROCKETは学び方や生き方を知る場所なので。

機会が与えられることと同じくらい大切なのは「仲間がいる」ということです。「なんでもやっていいよ」と言われても1人であればやっぱり孤独を感じてしまうと思うんです。でもそういう子たちが、自分だけじゃなく、ニッチだったりマニアックな興味を持っている子は他にもいたんだとROCKETでは感じることができる。そういうコミュニティがあるから、人がやらないことでもやり続けていいんだと思える場になっていると思います。

−プロジェクトのテーマはどうやって決めているんですか?

ときどきによりますが、この子たちに今、足りてないものはなんだろうという観点や、何かにものすごくはまっている子どもの発想から着想を得ることもあります。例えば、今の日本の子どもたちは恵まれすぎていて、安全安心がベースにありすぎるというのが大きな課題だなと感じた時は、「エネルギーを探す」をテーマにプロジェクトを計画しました。子どもたちが行きたいと思えるようなキャッチーなタイトルをつけ、子どもたちが気づきの落とし穴にスポッと落ちるようなシナリオを作ることにも心を砕いています。

5年間の経験からたどり着いた3つのプログラム

−最初に300〜600人の応募が毎年あるという話を聞いて、世の中には才能を持っているけれど活かす場がない子どもたちがたくさんいるんだなという印象を受けました。しかし、ROCKETに参加できるのはそのなかの一部。参加できなかった子のために学校教育ができることはなんでしょうか?

私たちも5年間、試行錯誤を繰り返して、学びの特性に応じてプログラムを3つに分けようという結論にいたりました。まずは今まで通りの「ロケット型」のプログラム。突き抜けて進んでいく子どもたちが、知識を知恵に変えることや見たことのない世界に飛び込んでいく勇気を持つことを目標にするものです。

さらに「サブマリン型」があります。本当にニッチなところを深掘りしていくことが好きな子どもたちが集まるプログラムです。同じような子どもたちが集まって話をしながら、専門的な知識をつけていく。

そして「バルーン型」のプログラムです。先ほどお話ししましたが、学校を一度拒否した子どもの多くが学校教育のなかに戻れる可能性があるというのは、私たちにとって大きな衝撃でした。そこで学校教育と接続する部分があると良いのではないかと思いました。バルーン型は、「学校のなかで国語、数学、社会…と縦割りになっている各教科の要素が、複雑に合わさって社会が成り立っている」という事実を体感し、知識を統合して活用していくというプログラムです。

例えば、小麦の生産で有名な群馬県館林市には日清製粉さんの工場があります。そこで地方自治体と連携して、小麦をテーマに何かしましょうとプログラムを企画しました。小麦という1つのテーマをとっても、生物的な理科の要素だったり、量や金額を計算するので数学だったり、それを販売するための経営や法律といった社会的な要素がさまざまに絡み合っています。そういうことを知っていくと、「学校で学んでることって実はめちゃくちゃ面白いじゃん」と子どもたちの考え方が変わっていきます。

−学校教育と現実の社会をリンクさせる非常に理想的な教育に思えます。

ただ、実現しようとした時に、先生にはいつもとは違う教え方をしていただかなければいけませんし、学校外の機関とうまく連携していく必要があります。工場に行ってみるとか、小麦を育てている農家さんやうどん屋さんに話を聞いてみるとか。そういう地域の中のリソースが学校教育とくっついて初めて、地域全体が学び場になるような形が生まれます。私たちはそういう場所を作っていくための挑戦をこれから増やしていくつもりです。私たちは「地域が誇る題材でニッチなテーマを学ぶ場所が全国各地に生まれる」ことを「School of Nippon構想」と呼んで、進めています。

東京大学先端科学技術研究センター

−学校に戻れる子どもたちがいたことが衝撃だったとおっしゃいましたが、当初は、学校に戻れないからこそROCKETで才能を伸ばそうという考えだったのでしょうか?

そうですね。ROCKETに参加を希望する子どもの多くは学校に何らかの拒否感を持っています。だから、当初は家でオンラインの教育を受けることができれば救いになるかと思って、オンライン教材の提供を検討していました。でも、調べてみるとすでにほとんどの家庭がオンライン教材を導入している。そこで、今ROCKETの中でやっているような活動ベースの教育のほうが学びの本質を伝えていくためには重要だと思い直したのです。

突き抜けた学びの意欲がある子というのは知識は豊富だけど、頭でっかちになってしまっていることも多い。だから知識が活用できる現場に出して、刺激を与えることに力を注いだほうがいいと考えるようになりました。

今までもこれからも、きっと日本を支えるのは学校に通う8割の子どもでしょう。でも、学校に通っていないけれど読み書きをカバーしてあげれば世界に接続できる子どもや、異質だけど特異な才能がある子たちが社会のなかで活躍できれば、きっと社会はもっとエネルギーに溢れた場所になる。学校に行かない子全員に合う教育方法はないけれども、その子たちの才能をうまくプロデュースし、世の中につなげていく価値にこそ、未来の教育の芽があると感じています。とことんカスタマイズしていく教育こそ、人間が時間と労力をいとわず入っていく領域なんだろうと。

−家で勉強している子どもに対して両親ができる教育というのはどのようなものでしょうか。ROCKETが行っているような活動を一般の両親が実践するのは難しいように思えます。

自宅でできることはたくさんあります。低学年であれば両親の手伝いもその1つです。家にずっといる子どもたちのなかには独学したことをオンラインで仕事に活かしている場合も多い。CGやゲームの作成、プログラミングやロボット製作などですね。そういう種類の仕事であれば問題ありませんが、最終的には家の外に出ないと活躍できない業種も多いので、ずっと中に閉じこもっているわけにはいきません。

親だけに教育を任せすぎると、中にはうまくいかないというケースもあります。一つの学校しか選べなかったから苦しむ子どもがいるように、家しか学ぶ場所がないというのが子どもにとって苦痛になることもあります。家があるから外に行ける。でも外に行ったらやっぱり家のありがたさがわかる。その両輪でやるのがいいのだと思います。

アメリカでは母親たちの教育ネットワークが強く、ピアノを教えることができるお母さん、物理を教えることができるお母さんとそれぞれが教師役を果たすわけです。そういう教育環境の作り方もいいと思いますが、1対1の関係でお母さんと20年、30年付き合い続けるとなると、親子どちらも息がつまりますよね。

いつもと違う知識に触れてみる、いつもと違うことをしてみるというのはすごく大きな刺激になると同時に、比較の視点を子どもの中に育て、選択の基準の機会を作ることになります。学校に行っている子どもも会社に行ってる社会人もだいたいルーチンが決まってくるじゃないですか。その日常のなかには、気づいていないだけで面白いものがたくさんある。でも、寄り道をすることが時間的、物理的にできなくなっているのが現実です。いつも通りの日常をこなすことだけに力を注いでいると、イノベーションは起こらない。だから私たちは「非日常」を子どもたちに提供したいと思っています。「当たり前を疑う」姿勢を身につけて欲しいですね。

−5年間活動されてきて、予想と違ったことはありましたか?

予想通りかもしれないですが、異才はそう簡単には生み出せないってことですね。人の知性や才能というものは、そんなにすぐには発見できない。一緒に話したり活動したりするなかで、ささいなきっかけがあって気づいたりするわけです。「この子はこの分野は苦手なんだな」と思っていたけれど、やり方を変えるとすごい集中力を発揮するかもしれない。教育を提供する側には子どもたちと長く付き合うゆとりと、子どもをテストではなく活動を通して見つめていく眼差しが必要ですね。

誰もが異才・天才になる可能性を秘めているのかもしれません。でも固定観念とか、既存のルールのせいで鍵がかかってしまい、才能が表に出せない子どもが多いという印象です。

自由にさせるだけでは才能は伸びない

−その才能を発見し、伸ばすには自由にさせることがベストというわけではないんですね。

放っておくだけでは何も変わらないということはわかりました。ある程度は自由にさせておく。でも、「偶然を装った設計」というのも必要だと思うようになりました。

例えばファッションブランド「ポール・スミス」に自分でつくった染めの鯉のぼりを売り込みに行きたいと言っている子どもがいるんです。すごく独特なスタイルでとてもかっこいい作品です。その際、自分で染め物をつくっている過程は好きだから彼のしたいように放っておいていいんです。職人さんに染め方などを聞きながら独自の作品を作っていくために不可欠な時間ですから。ただ技術・知識はどんどん追求していいんですが、放っておきすぎると人の目に触れずに終わってしまう可能性もある。ただの「変わった子」で終わってしまう危険があります。それをしかるべきタイミングで社会とつなげていくアクションを仕掛けられる人間がいないといけない。

東京大学先端科学技術研究センター

意欲のままに生きたいという子どもたちには、染め物が趣味の50歳になる道ではなく、10代のうちにポール・スミス氏と出会うきっかけを提案する。それができればその子の才能を飛躍的に開花させてあげられるかもしれない。そういう「必然的な出会い」を子どもたちの人生に埋め込むことが、私たちの今後の仕事になるんだろうなと感じています。

異才発掘プロジェクトROCKET

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