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男の性癖のため肉体を改造する売春婦の姿

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危険地帯の取材を続ける丸山ゴンザレス氏が「この世の地獄のひとつ」と振り返る場所がある。バングラデシュの売春街では、女性たちが客を増やすために「牛用のステロイド剤」を摂取している。丸山氏は「子どものような女の子たちが、男の性癖のために肉体を改造する姿は、忘れられない」という――。

※本稿は、丸山ゴンザレス『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

■スラム街での職業は「スリ、物乞い、売春」

家族の最小単位は「夫婦」である。特定のパートナーがいる場合、それ以外の相手とのセックスは不貞とされる。離婚の理由としては十分だし、宗教的に禁じられていることも多い。そのようなことをいまさら説明するまでもないだろう。私もそう思っていたのだが、心の深い部分に揺さぶりをかけられる出会いがあった。

ブルガリアの首都・ソフィアを取材したときのことだ。

バルカン半島最大のスラム街といわれる団地を訪れた。ここに暮らしている人々はヨーロッパ全域に暮らすロマの人々である。彼らの置かれている境遇については同情するし、支援している団体もある。生活の糧を得るために、周辺国に出稼ぎに行く人が多い。

しかし、彼らが選択する職業が問題になっている。

※写真はイメージです。(写真=iStock.com/Polifoto)

スリ、物乞い、そして売春である。貧しい人たちのいる地域で売春婦として働く女性が存在することはよく聞くことで、ことさらに言うべきことではないように思われるだろう。だが、あえて紹介するのには理由がある。

私が出会った二人は、お世辞にも良い暮らしをしているようには見えなかった。この街でおこなわれている売春の実態を調査しているなかで、直接話を聞かせてほしいと頼んだら応じてくれた。

■「子どもたちのため」に夫婦で売春

無作為にお願いして応じてくれただけの二人について、特に思うところもなかった。それでも女性に対して同情する気持ちはあった。インタビューにくっついてくる男が気になっていたからだ。

この手の商売をしているとヒモのようなやつが出てくることはあるし、このあたりの売春を仕切っているやつかもしれない。そういうやつに寄生されているのだとしたら、同情する気持ちも自然に湧いてきてしまう。そんなことを考えているのがわかると、相手に弱みを見せることになるので、表情に出すことはなかった。

あれこれと思いを巡らせても意味がないので、どうして一緒にいるのか、直接彼に聞いてみることにした。

「あなたはこの女性とどういう関係なのですか?」

「家族です」

「家族というと?」

「夫です」

表情にこそ出さなかったが「絶句」だった。同時に二人が一緒にいる理由がわかった。

だが、それよりも先が理解できなかった。夫が公認で売春をすることだけでなく、スラムのなかで売春をするということは、客のなかに知っているやつがいるかもしれないのだ。

そこを突くと表情を変えるでもなく夫が言った。

「子どもたちのためだ」

■「客が近所の人だったら耐えられるんですか」

瞬時に「そういう問題なのか?」と思ったが、それこそ家庭のことに口を挟むことはできない。私は通りすがりの外国人ジャーナリストである。ジャーナリストの仕事として、状況を理解するために質問をぶつけることはあっても、二人の関係性を断ち切るような踏み込み方をするのはご法度である。私はあくまで傍観者なのだ。

彼らなりに折り合いがついているというのであれば、わかりきった問題を部外者の私が蒸し返す意味なんてない。わかっている。わかっているが、それでも言わずにはいられなかった。

「客が近所の人だったら? 顔見知りだったら耐えられるんですか?」

「仕方ない。子どもたちのためだ。あの子たちが飢えていることのほうが耐えられないんだ。それに妻が安心して仕事できるように私は見守っているんだ」

のちの取材でわかったのだが、この街の売春のシステムとして、女にはパートナーがついているそうだ。

■「子どもたちを救うため」に妻は壊れた

内心、「お前が働けよ」という言葉を反芻していた。でも、出せなかった。それは私が決して言ってはならないことだからだ。妻のほうもそう思っていたのか、それとも夫と同じ気持ちなのかはわからない。

なぜか。どんなに質問を重ねたとしても、彼女の言葉で答えが語られることはないと思ったからだ。

光を失った眼球の奥には、彼女の生のエナジーがまったく感じられない。死んだ目というのがこういうものかと痛感させられた。

夫は子どもたちを救うためだと言った。そのために妻が壊れてしまった。それでも家族なのだ。私が思っていた単位の家族のなかには、夫以外とのセックスは、決してあってはならないこと。それが家族愛によって崩されてしまった。

愛とは、向ける対象以外には、ときに残酷なのだ。

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