女性専門職は圧倒的にヒューマンサービス系に偏っている現状
男女賃金格差のもう一つの主因は、「男女の職業分離」にある。OECD諸国においては、教育・医療・ソーシャルワークなど「ヒューマン・サービス専門職」に女性が過剰という共通の傾向があるが、日本ではさらに二つの特徴がある。
一点目は、ヒューマン・サービス専門職のなかでも社会経済地位が高いとされる職種(医師、大学教授など)においては、女性の数がOECD諸国のなかで最も少ない。
二点目は、研究、工学、法律、会計学といった非ヒューマン・サービス専門職においては女性の数が圧倒的に少ない。
私が実施した直近の研究では、日本と米国の労働市場に焦点を当て、専門職間の男女賃金格差を詳しく調べた。2005年に実施された日本全国調査と2010年の米国国勢調査をもとに、次の二種類のキャリアにおける男女の割合をみた。
・「タイプ1型専門職」=ヒューマンサービス系以外の専門職と、社会経済地位が高いとされる医師や大学教授など
・「タイプ2型専門職」= ヒューマンサービス系専門職(医療・健康、教育・養育、社会福祉、介護など)※ただし、社会経済地位が高いとされる医師や大学教授などは除く。
その結果、「タイプ1型」に属する女性労働者の割合は米国が12.7%、日本では2%以下と著しく低いことがわかった。日本の女性の仕事は明らかに「タイプ2型」に集中しているのだ。

この職業分離は、大きな男女賃金格差につながる。第一に、男女間賃金格差がかなり小さい「タイプ1型」には女性が圧倒的に少ない。第二に、「タイプ2型」には大きな男女賃金格差がある。
「タイプ2型」に属する男性の平均賃金は、事務、販売、肉体労働に就く男性の賃金より高いが、「タイプ2型」に属する女性の平均賃金は、同じような仕事をしている男性の平均賃金より低いだけでなく、事務、販売、肉体労働に就く男性の平均賃金はよりも下回っているのだ。
学歴における男女平等よりも効果的なのは、女性のポテンシャルを発揮できる環境づくり
私の調査からは、管理職や「タイプ1型」に女性が少ないことは、大学学位など学歴における男女の違いでは説明できないこともわかった(Yamaguchi, 近日発表予定)。
女性の大学卒業率が男性よりも低いのは、OECD諸国の中では日本とトルコの2カ国のみである。
そのため、男女の同等化を推進することで、地位の高い仕事に就く男女の格差減少につながることを期待するかもしれないが、私の分析からは、現在のような性別に特化した教育と仕事のマッチングが続くなら、たとえ女性の大学卒業率が伸びても、その影響はすでに女性が過剰状態にある「タイプ2型」にさらに女性が増えるだけで、女性の数が少ない管理職や「タイプ1型」に女性が増える影響は最小限にとどまることが明らかになった。
したがって、学歴における男女平等を達成しても、男女賃金格差が大きく縮まることはないだろう。
唯一の例外は、科学や工学専攻の大学卒業生の男女比を均等にすること。そうすれば女性の科学者やエンジニアの割合が増え、ゆくゆく「タイプ1型」における男女の割合が同等化し、男女賃金格差をある程度縮めることになろう。

「学歴」で説明できないのであれば、男女の職業分離は日本の雇用慣習の影響ということになる。男女をめぐる固定観念に支えられた慣習により、女性は「女性にふさわしい」とされるもの以外の専門職に就く機会が少ない。
日本の女性に開かれたキャリアは、子どもの教育、介護、その他医療サポートなど、昔から女性が家族の中で求められてきた役割の延長線上にあるものが多い。日本企業は、職場は家庭における性別区分の延長ではなく、個々人が潜在能力を発揮し、社会に貢献するための場だと理解すべきである。
政府は、同等の仕事には同等の賃金を支払うことを目指している(とりわけ、同じ仕事をしている正規労働者と非正規労働者に同じ賃金を払うこと)。しかし私は、男女賃金格差を縮めたいのなら、男女に同等の仕事機会(とりわけ管理職や地位の高い職務)を提供することの方が重要と考える。
女性に与えられるチャンスの少なさは、日本企業の雇用慣習だけでなく、長時間労働が求められることも原因。そのため政府は、より良いワークライフバランスを実現するための条件づくりを目指すべきである。
長時間労働を当たり前とする労働文化を見直し、働く場所を柔軟に選べるようにすることで、実現に近づけていけるだろう。さらに、育児や家事労働の責任を女性に押し付ける姿勢を変えていくことも、変革を後押しすることとなろう。
*この記事の初出は、国際金融・経済・開発における最新動向および研究に関する最先端の分析や洞察を取り上げるIMFの『Finance & Development』(季刊誌およびオンライン版あり)。
By Kazuo Yamaguchi
the Ralph Lewis Professor of Sociology at the University of Chicago
Courtesy of Inter Press Service / INSP.ngo