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ホルムズ海峡危機、日本は主体的な対応を - 加藤博章

 2019年6月13日(木)、ホルムズ海峡を航行中のタンカー2隻(ノルウェーのフロントライン所属の「フロント・アルタイル(FRONT ALTAIR)」(マーシャル諸島籍)と、日本の国華産業が運行する「コクカ・カレイジャス(KOKUKA COURAGEOUS)」(パナマ籍)が、何者かによる攻撃を受け、船体に大きな損傷を受けた。

折しも当日は、イラン訪問中の安倍首相とイランの最高指導者ハメネイ師の会談が行われたこともあり、イランは関与を否定するものの、アメリカはイランに対する更に圧力を強めようとしている。ここでは、誰が行ったのかという問題はひとまず脇に置き今回の事件の影響について考えてみたい。

犯人捜しは長期化する恐れ

 タンカーを攻撃したのが誰なのかということが本件の重要な要素となっている。しかし、この問題は長期化する恐れがあり、また確定することはないと思われる。それは、テロ攻撃と違い、犯人が自分だと認めることがないからである。

 テロであれば、その攻撃を誇示して自分の力を見せつけるが、今回はそういうことにはならない。タンカーを攻撃することは、国際法違反であるだけでなく、国際社会の非難を浴びる重大な犯罪行為である。今回、アメリカはイランを名指ししているが、もしイランが攻撃を仕掛けたということが明らかになれば、アメリカにイランへの介入の口実を与えてしまうことになる。イラン政府としては、絶対に認めるわけにはいかないだろう。周辺国にとっても、同様である。

 日本のメディアは、日本の船が攻撃されたことを殊更に強調するが、たしかに運行会社は日本のものだが、船籍はパナマである。安倍首相訪問に合わせて、イラン側が圧力を掛けるために攻撃したとする向きもあるが、その必要性が分かりづらい。また、日本の船だとどうやって見分けたのか。別の船も攻撃されていることから、様々な憶測が飛び交っている。

 しかし、犯人がだれかということは、重大な関心事となっている。現にアメリカは、ドローンによって撮影された映像を公開し、イランの仕業であると主張している。他方、イランは、自分の犯行ではないとアメリカの主張を否定している。 本当にイランが犯人だったとしても、認めることは決してないだろう。1987年から88年にかけて、アメリカがペルシャ湾のタンカー護衛に乗り出した際、アメリカは機雷を仕掛けているイラン兵士を捕まえ、イランの犯行であることをアピールしたが、それでもイラン政府は、犯行を認めようとしなかった。犯人がだれかということは確かに重要で、それをもとに国際社会は対応を考えることになるが、犯人を特定するまでにはかなりの時間が必要となろう。

今後の課題

 以上を踏まえた上で、今後の展開について考えてみたい。ホルムズ海峡でのタンカー攻撃は、恐らくまた繰り返されるだろう。現に5月にもUAE沖で4隻のタンカーが何者かの攻撃を受けていることから、今後もこの海域でのタンカー攻撃の可能性は否定出来ない。 ホルムズ海峡は海上交通の要衝であり、この海域が不安定になると国際経済に対するダメージは甚大なものとなる。現に原油価格は高騰している。率直に言えば、悠長に犯人探しをしている余裕はない。

 アメリカは今回の事態がイランの責任であるとして、イランへの圧力を強めている。繰り返しになるが、アメリカの主張をイランが受け入れることはない。また、中国やロシアはイランを擁護すると思われる。ヨーロッパでは、イギリスがアメリカを支持しているものの、フランスやドイツは自制を呼びかけている。日本も、アメリカの主張に同調せず、一線を引いている。

 状況から言えば、イラク戦争の時に比べ、アメリカの主張に国際社会の支持が集まっていないのが現状である。今後、イランの犯行が明らかとなった場合であっても、日本や欧州諸国がアメリカを支持するかどうかは不透明なままである。

 国際社会の支持なしにアメリカが介入することは、イラク戦争のような泥沼に足を入れる事態ともなりかねない。日本にとっても、このような事態は歓迎出来ない。友好国イランを敵に回し、中東情勢をさらに不安定にする。加えて、アメリカが艦隊を移動させることで、南シナ海や東シナ海での中国や北朝鮮への抑止力が低下してしまう。アメリカ単独で行うことは日本にとって、何の利益も生まれない。

 しかし、ホルムズ海峡周辺の状況は不安定化しており、このまま事態を放置するわけにはいかない。このような中で、1つの参考となるのは、ソマリアの海賊対処の仕組みをホルムズ海峡に適用することだろう。

 ソマリアでは、国連が、ソマリア領海内での航行と、海賊行為および武装強盗行為を鎮圧するために、国連憲章第7章に基づき、関連する国際法に準じた必要なあらゆる措置をとる権限を与える決議(1816)を出し、それに基づいて、アメリカ、イギリス、日本などの各国が艦船や航空機を派遣し、共同で海賊の対処に乗り出している。

 この枠組みは、脅威となる特定の国を名指しせずに、海域の安全航行の確保を目的としている。ホルムズ海峡で脅威となっているのは、ソマリアのような海賊と異なるが、国連決議に基づき、各国が共同で船舶の護衛にあたるという仕組み自体は1つの参考となろう。

 いずれの形であれ、現状で求められるのは、イラン(そしてアメリカ)を暴発させることなく、ソフトランディングさせることが重要となる。そのためには、ホルムズ海峡やその周辺海域の安定をどのようにして取り戻すか、イランや周辺諸国が受け入れる枠組みが不可欠となろう。日本は、皮肉にも、今回の事件において仲介役と被害者という2つの役割を背負ってしまった。それだけに、今回の事態をまとめるには十分な資格を持っていると言える。日本の仲介外交はまだまだ続く。

加藤 博章(Kato Hiroaki)

 1983(昭和58)東京都生まれ。名古屋大学大学院環境学研究科社会環境学専攻環境法政論講座単位取得満期退学後博士号取得(法学博士)。防衛大学校総合安全保障研究科特別研究員、独立行政法人国立公文書館アジア歴史資料センター調査員、独立行政法人日本学術振興会特別研究員、東京福祉大学国際交流センター特任講師を経て、現在一般社団法人日本戦略研究フォーラム主任研究員、防衛大学校人文社会科学群人間文化学科兼任講師、関西学院大学国際学部兼任講師。

 主要共編著書に『あらためて学ぶ 日本と世界の現在地』(千倉書房)、『元国連事務次長 法眼健作回顧録』(吉田書店)、「非軍事手段による人的支援の模索と戦後日本外交――国際緊急援助隊を中心に」『戦後70年を越えて ドイツの選択・日本の関与』(一藝社)、主要論文に「自衛隊海外派遣と人的貢献策の模索―ペルシャ湾掃海艇派遣を中心に」(『戦略研究』)、「ナショナリズムと自衛隊―一九八七年・九一年の掃海艇派遣問題を中心に」(『国際政治』)。

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