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「わがまま」の背景に思いをいたす想像力を / 『みんなの「わがまま」入門』著者、富永京子氏インタビュー

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――今回、若者に向けて社会運動についてお書きになろうと思った理由を教えていただけますか。

直接的なきっかけとしては、ある中高一貫校で講演をした経験があります。生徒さんからいただいた質問の多くは、「政治のこと、社会のことに関心がある。でも、どうやって関わればいいのかわからない」というものでした。

学校の授業で社会科を学んでいるんだからそれで十分じゃないかとも思うけれども、彼らの中に「それでは足りない」という感じがあった。自分の周りの大学生を見ていても思うのですが、もっと社会の当事者になりたいのかなと。そういう、何か関わり方みたいなものを非常に強く欲する態度に接して衝撃を受けたというのが、一番のきっかけだったかもしれません。このへんは18歳選挙権の影響もあるのかもしれませんが……

もちろん子どもだから、多くの場合、労働も納税もしていないわけで、ある程度社会に関わるやり方は制限されている。ただ、その中でできることというか、「じゃあ、どうやれば関われるだろうか」ということを、中高生の方と一緒に考えてみたいな、というところがありました。

――若者のあいだに政治や社会に関わりたい、という思いがあるんですね。でも、そこでなぜ「わがまま」なのでしょうか? 

「わがまま」という言葉を思い浮かんだのは本当に偶然ですが(笑)、「社会運動ってようは個人のわがままでしょ」「社会のせいにするな」といった、忌避感や抵抗感、近寄りがたさから社会運動を読み解きつつ、その重要性を主張するという試みは、どこかでする必要があると思っていました。

社会運動をやっている人の前でこういうことをいうと、どうしても拒否反応を示されてしまうし、おそらく社会運動研究でもそれほどメジャーにはなりえない。ただ、現実的に、社会運動への抵抗感や忌避感は拭い難いものとしてあると思います。

だから、そうしたネガティブな感情をとっかかりに、じゃあなんでそういう感情を抱いてしまうのか考えてみようか、というところから議論をスタートさせたいというのが、ねらいといえばねらいになるでしょうか。


――たしかに、社会運動への忌避感や抵抗感は、根強いものがありますね。日本はほかの国に比べて「わがまま」に厳しいという調査結果があるとのことですが。

著書の中では、「わがまま」に対する許容度を示したデータとして、山本英弘さん(筑波大学)による調査を紹介しています。こちらはドイツと韓国と日本の三カ国において、「署名」「請願・陳情」「デモ」「座り込み」という社会運動のそれぞれの手法について、回答者に「行ってもよい」「まあ行ってもよい」「あまり行うべきではない」「行うべきではない」「分からない」のいずれかを選んでもらったというものです。

日本に住む人々は、署名や請願・陳情に対してはまあまあ肯定的なのですが、デモに肯定的な人は45.3%と低く、座り込みを支持する人は21.5%と非常に低い。ドイツだと、いずれの手法に関しても7-8割くらいの人が肯定的な回答をしているので、そこが興味深いところです。

山本さんはさらに、社会運動へのイメージに関しても、社会運動の「有効性」(社会運動に意味があるかどうか)、「代表性」(自分たちの意見を代表しているかどうか)、「秩序不安」(社会運動は危険、怖い、暴力的)という3つの軸から明らかにしています。日本の場合、半数くらいの人が「有効性」を認めている。ただいっぽうで、半分くらいの人が社会運動に対して「秩序不安」を、つまり怖いとか危険だとか感じているわけですね。

――意外に、ある程度、意味は認められているんですね。しかし、同時に怖くて危険。なぜなのでしょうか?

なぜ「社会運動は、怖くて危険」なのか。これはお答えが難しいところですが、ひとつには、1968年の学生運動や、その後の新左翼運動といったラディカルな運動がマスメディアによって報道され、未だにそのイメージが残っているからというのはよくいわれるところです。

あとは実際、質問紙調査で「社会運動、意味あるじゃん」とか「俺たちのいいたいことを代弁してくれてる!」と答えはするんだけど、実際に目にしたら引いちゃうというのもあるのかもしれない。インパクトのある表現を使う分、頭の中のイメージと現実に目にしたときのイメージのずれがあるのかなと思います。

――ご著書を読んでいて、なるほどと感じたのですが、野球チームの優勝パレードとかマラソン大会で道路が通行止めになるのは、さほど気にならない。なのに、それがデモによるものだと、なぜか多くのひとは迷惑に感じてしまう。これはいったいなぜなのでしょうか?

生活や労働に直結した利害と強い結びつきがあり、それが想定しやすい、というのはありますよね。

「原発を廃炉にしてほしい」「女性専用車両を導入して欲しい」というと、「いや、私のおじさん原発で働いてるんですけど」とか、「男性でも痴漢にあう人はいるでしょう」という反対意見は存在するし、それは例えば、私が「マラソン嫌いなんで、そういうイベントで交通遮断されるのは納得いきません」というのと切実さが違うだろうと思います。みんなにとって「どうでもいい」ことじゃないからこそ、激しい反応を招きうる。

みんな、自分のことだから、真面目に関わらなければならないのは分かっている。ただそれに対してセンシティブにならざるを得ない中で、声を上げている人に対して、「価値観の押しつけ」と感じる人がいるのではないかと思います。

――かつてのように運動への共感を調達するのが難しくなっているんですね。

はい。社会がグローバル化し、個人化するなかで、社会運動の性格もかつてとは違ってきています。

近年の代表的なものだと、#MeToo運動や安保法制に対する抗議行動ということになるでしょうが、どちらも非常に強い「個」の語りがあった。「私はこういう理由で、安保法制に反対します」「私はこうした事情から、ハラスメントに強く抗議します」といったような。そして、それが多くの人に対して、強い共感や衝撃を与えている。

こうした運動では、「私」の体験や背景が重要で、おそらくあまり「20代だから」とか「女だから」といわない。それはなぜかというと、低学歴だから低賃金だとか、女性だからハラスメントされる(男性でもハラスメントはされる)とか、生まれつきの属性や世代によってある特定の苦しみがある、という前提が崩れてきているからでしょう。

実態としてはもちろん、生まれ持った属性による苦しみというのは未だにあるわけですけれども、人々の生き方も多様化したので、それが実態として感じられづらくなっている。

――属性や世代による共感によって運動が成立しないとなると、個人にかかってくる負担も大きなものになりそうです。

私の最初の研究は、2008年に行われた北海道洞爺湖G8サミット(現G7サミット)に対する抗議行動の研究でした。その研究をしようと思って、実際に活動に携わっていた人に話を聞きに行ったのです。そのうちお一人に一度、面会を断られてしまって。

少し間を置いてお会いいただけるというときに、一度お断りされた経緯を伺ってみると、「あれは本当に大規模な運動で、とても大変だった。疲れたから、しばらく社会運動についてはお話したくなかったという気持ちがあって・・・」とお話されていました。

抗議行動が2008年、取材が2010年でしたから、外部の人に対してであれ、語れるようになるまでに2年を要したということになる。多分そういう社会運動の傷みたいなものを、きちんと見なくてはならないなと思ったのです。社会運動は、周囲のためにも自分のためにもなる「いいこと」ですから、当然やりがいもあるし、魅力的な人が多く集まっている。

私はたまにデモなどを見ているだけですが、見る側としても感動したり、高揚感があるから、きっとやっている人はその比ではないでしょう。ただ、それだけに、負の面は見えにくい、あるいは見せにくい。「いいこと」だからこそ、そこに伴う責任感や宿命感もあり、ネガティブな気持ちを吐露しにくい局面もあるのではないかと感じました。

端的に「社会運動、やりすぎるとよくないぞ」というのではなくて、社会に「いいこと」がつねに個人にとって「いいこと」とは限らない。熱中したり、責任感を持って取り組むことが生み出すネガティブな面を、どこかで言葉にしたり打ち明ける、そういう仕組みづくりが必要なのではないかと。それは社会運動に限らず、どういった活動でもそうかと思います。【次ページにつづく】

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