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「山ちゃん結婚」と「磯野貴理子離婚」で見えてきた、“世間を友だち化”する巧みな作戦 - 西澤 千央

「女性目線でいくと、結婚って子ども産んだりするじゃないですか。さっき散々山里さんの顔のことが話題になってましたけど、私はちょっと子どもの顔が心配で無理……だなと(笑)」。

【画像】山ちゃんと蒼井優をくっつけたキューピットは?

 今や日本国中が完全お祝いムードの山里亮太&蒼井優のほっこり婚。ちょっとやりすぎでは……と思えるほど過剰な「非モテ芸人がモテ女優をゲット!!」という報道に、インターネットでは「いやいや山ちゃんは最強のハイスペック芸人」「山ちゃんと結婚できる蒼井優こそ幸せ」「蒼井優は本物を見極める目を持ってるから」など、「誰がこの二人をとことん褒めちぎれるか」というまさに“不毛な議論”が展開されておりました。そんな中。

 フジテレビ『とくダネ!』で、コメンテーターである産婦人科医・宋美玄氏から、冒頭の発言が飛び出したのでした。 当然の如くの大炎上です。「もし男がこんなこと言ったら大変なことになる」「男になら何を言っても構わないの?」……本当、マジでその通り。


山里亮太と蒼井優の結婚記者会見 ©文藝春秋

なぜ真ん中高めストレートな炎上をしてしまったのか

 しかも普段から女性の身体の専門家という立場からジェンダーや性差別について発言し一定の支持を得てきたお医者さんです。少なからずショックを受けた人も多かったよう。結婚するからといって必ずしも子どもを持つとは限らないこと。望んでも妊娠出産が叶わない夫婦もいること。職業柄最もセンシティブに扱わねばならないであろうこの前提をあっさりと反故にし、さらに他人の容姿をも侮蔑する。正直引くくらい真ん中高めストレートな炎上案件でした。

 そうなんです。だから逆に気になるんです。発言には人一倍気を使ってきたと思われる「リベラル」キャラの医師が、いきなりダンプカーの前に飛び出してったようなもんだから。突発的101回目のプロポーズ症候群なのか……しかしこの方の発言の後半部分でなんとなくの察しがつきました。

即アウトな発言をさせてしまう「友だち」という罠

「美人の女優さんはそういうとこにはコンプレックスはないんだなって、ちょっと全然斜めからの感想なんですけど」

 この先生は以前山ちゃんと共演したことがあるそうで、おそらく「私と山ちゃんの仲だったら大丈夫」と思ってしまったんでしょうね。「キツイ悪口を言える=仲良しの証」だと勘違いするタイプの人だ。山ちゃんにこんなこと言えちゃう仲良しの私。ただの「おめでとう」じゃなく「斜めからの感想」を言えちゃう私。ああなるほど。

 と、納得したと同時に、少し怖くなりました。職業的に即アウトみたいな発言をさせてしまう、この「友だち」という罠が。辛島美登里も歌ってるじゃないですか。「“友だち”っていうルールはとても難しいゲームね」と。向こうがいくら胸襟開いているように見えても、簡単に飛び込んでいくと痛い目を見るんです。こと芸能人相手だったら尚更。なぜなら彼ら彼女らは、私たちに「友だち」と勘違いさせるプロだから。

 山ちゃんの結婚がここまで人々の心を掴んだ理由も、この山ちゃんの巧みな「友だち作戦」にある気がするんですよ。

「ダメな俺たち/私たち」を心地良く包み込む“ダメな山ちゃん”

 今まで自身の性格の悪さや容姿の劣等感、モテないことをパブリックイメージにしてきた山ちゃん。言うまでもないことですが、そのパブリックイメージとは山ちゃんの「場の空気を読み自分をどこに置くのが正しいかを瞬時に判断する頭の良さ」と対になるものです。ここが重要。特にラジオで自ら流布していく「ダメな山ちゃん」は、非常に心地良い温度で世の「ダメな俺たち/私たち」を包み込んでいました。

 自分は一番下にいる、だからこそ上にいる人たちが妬ましいのである、という軸がブレない。今インターネットで最も求められるのは、こうした謙虚さ。この人は芸能人だけど自分と同じだと思わせてくれる親近感。 そんな自分の大事な「友だち」が、美しい女優と結婚するのです。そりゃもう我が事のように盛り上がりますよ。

 結婚会見でもひたすら謙虚に「非モテの自分がこんなに素敵な人と結婚できました!」という姿勢を崩さない。そんな山ちゃんを見て、「友だち」たちはゲスい質問するマスコミに憤慨し、どこからか探してきた山ちゃんのいい話、山ちゃん本当はこんなすごいんだ話、をインターネットでどんどん拡散していく。山ちゃんの「友だち作戦」の結実を見た思いです。

「ファン」とも違う、この「友だち」という感覚。ここをくすぐることの重要性は、先日ネットを騒がせた磯野貴理子の離婚話でも強く感じたところでした。

磯野貴理子が突然“大事な友だち”になる不思議……

 これまたフジテレビ『はやく起きた朝は』で、番組中に突然離婚を発表した磯野貴理子。仲良しの森尾由美と松居直美と他愛もないおしゃべりを繰り広げる空気感の番組で「ずっと見てくれてる方に、報告をね」「ごめんね日曜の朝に」と前置きをした上で離婚が決まったことを淡々と報告しました。24歳年下の夫からの「子どもが欲しい」というあまりにもな離婚理由に、森尾と松井は瞬間に号泣、気丈に振舞おうとする磯野にまた号泣……。

 これは瞬く間に拡散され、主に女性たちから(磯野の夫に対して)強い批判が沸き起こり、「磯野貴理子を守らねば」の機運が一気に高まりました。 ツイッターに流れてきたこの動画を見たとき、すごく不思議な気持ちになったのを覚えています。 自分も森尾由美と松居直美と磯野貴理子と一緒にあの場にいて、一緒に泣いているような感覚。 それまで特に気にもしていなかった(すげえ年下の人と結婚したんだよな、あと元チャイルズ、くらいの)磯野貴理子が、急に自分の大事な友だちであるかのような錯覚に陥っていたのです。

発信力のある芸能人が一方的に情報を流す世界は怖い

 芸能人が自分だけに大事な秘密を、辛い悩みを打ち明けてくれてる……これもまさに「友だち」作戦ですよ。だって感情抜きで考えれば、発信力のある芸能人が電波を使い離婚という相手あることの一方的な情報を流すわけですから、それってめちゃめちゃ怖くないですか。事実はどうあれ、発信力のない側の言い分は明らかにされないまま、一方的に「悪」の烙印を押されてしまう世界は怖い。たとえどんなに「しょうもないやつ」だったとしても「しょうもないやつに口無し」が良しとされてしまう世界は怖いです。

 ただ、その辺りの冷静な判断もつかなくなっちゃうほど、タレントさんが仕掛ける「友だち」という魔法は甘美で心地良いということなのでしょう。そして今更ながら、くだんの医師の失言の痛々しさを思うのです。

 スター不在の時代と言われております。だからこそ、「視聴者を友だち化する」という手法は、これからのタレントさんにとっての生命線なのかもしれません。その点、「結婚指輪はお断りしました、大切なものは失くしちゃうので」「(新婚旅行は)高知がいい、高知が好きなんです」「(山ちゃんの好きなところは)冷蔵庫をちゃんとすぐ閉める」と、独自のほっこりワールドを堅守し一歩もこちらに歩み寄ろうとはしない蒼井優って、やっぱスターですね。最後になりましたが、どうぞ末永き幸せを……。

(西澤 千央)

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