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「自分で考えろ」だけでは部下は伸びない

部下と接する際、「答えを教えるな。相手に考えさせて、自ら答えを導き出させよ」などといわれる。だがゼネラル・エレクトリックで人材育成研修を行っていた田口力氏は、「『偉そうだと思われたくない』と上司が逃げていては、部下は育たない。ときには『教えること』も重要だ」と説く――。

※本稿は、田口力『世界基準の「部下の育て方」』(KADOKAWA)を再編集したものです。

「研修」や「講話」では不十分だ

部下の育成法にはさまざまな手段がありますが、大きく分ければ、仕事を通じた育成(OJT)と、社内外の研修などのOff-JTがあるのはご承知の通りです。

仕事を通じた育成法であるOJTには、「挑戦的な仕事を与えること」や「コーチング」「フィードバック」「権限委譲」などさまざまな手段があります。

その中で意外と忘れられがちなのが、上司が部下に何かを教える「ティーチング」という手法です。

もちろん、どの会社でも新入社員教育や技術的な教育などにおいては、先輩社員や上司、エキスパートたちが研修の場で「教える」ということを行っています。また、経営幹部が管理職研修などに招かれて講話を行う機会も設けられています。

こうしたことは大変素晴らしいことなのですが、世界基準に照らし合わせた「教える」という観点からは不十分です。

コーチングに「逃げて」はいけない

特に日本企業では、欧米企業で定着したコーチングがなかなか根付かないため、管理職層にコーチングの研修を繰り返し行って徹底しようとしており、その結果ますます「教える」ことへの関心が薄れているようです。

さらに困ったことには、「コーチングでは相手に対して質問を繰り返し、相手に考えさせて、自ら答えを導き出させよ」というコーチングの趣旨を、部下に対する接し方全般に適用してしまい、“教える”べきときにも“コーチング”してしまうという問題が起こっています。

コーチングも大切ですが、ティーチングも大切です。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/FG Trade)

コーチングすべきときにティーチングしてしまうことはコーチングの効果を台無しにしますが、ティーチングすべきときにコーチングしても意味がありません。誰にでも、他者に対して、特に部下に対してであれはなおさらのこと、「教えられること」があるはずです。

それは技術的なことだけでなく、自分なりの物事の見方や考え方、あるいは自分の経験から得られた教訓(人生訓)、成功や失敗からつくりあげた自分なりの法則など、必ず何かあるはずです。

そうしたことを部下に話すと説教みたいだと思われはしないか、自慢話をしていると受け取られはしないかと危惧する気持ちは理解できます。しかし、一度よく考えてみてください。部下たちから偉そうだと思われたくないということを、教える機会をつくらない言い訳にしていませんか。

部下に教えられる「専門性」とは

教えるべきことが思い浮かばないときは、「専門性」がヒントになります。

田口力『世界基準の「部下の育て方」』(KADOKAWA)

若い人たちに限らず、また洋の東西を問わず、今ほど承認欲求が高まっている時代はありません。実は、この欲求の高まりとともに、人や商品、お店、仕事などを「認める」(評価する)という行為に対する欲求も高まっています。

そして、人が人を認める(評価する)ときの基準は、2010年以降のSNSの広まりによって、従来の「公式な権力」から「専門性」に移っているのです。

部下を持つマネジャーとして、部下と同じベクトルにある技術的専門性で競うことには限界があることは言うまでもありません。人の上に立つ者としては、部下とは異なるベクトルにある専門性によって、部下から評価される必要があるのです。

それはたとえば、業界を超えた幅広い人脈をつくるスキルや、ビジョンを描くリーダーとしての力、異なる意見の中から合意を形成して力を同じ方向に持って行くマネジメント力など、多岐にわたります。

上司が部下と同じような仕事をしていては、組織としての発展は望めません。この当たり前のことに反して、部下と競うようなことをしている上司が実に多くいます。こうした人は、まだプレーヤーだった頃の自分から脱却できていない管理職です。

「部下に何かを教えなくてはならない」というテーマを強制的に自分に課したとき、自分はいったい何(どんな専門性)を教えることができるのか、よく考えてみてください。

そして考えるだけではなく、それを実行してみてください。必ず多くの学びがあるはずです。

「教える」と「学ぶ」リーダー・イン・レジデンス

実際にGE(ゼネラル・エレクトリック)で、執行役員に対して強制的に「教える」ことを実践させた事例があるので紹介しましょう。

2010年から、GEクロトンビルで始められた「リーダー・イン・レジデンス」(LIR)という取り組みがあります。

当時、GEには約190人の本社執行役員がいました。その中から1人ずつ、クロトンビルのニューヨーク・キャンパス(研修所)に1週間泊まり込み、その期間中に開催されている各研修プログラムに登壇するのがLIRです。

執行役員が教え教えられる研修期間

世界各地にいる本社執行役員がニューヨークに出向き、プログラム期間中は本業を離れて朝から晩まで、研修の参加者たちと向き合うことになります。

クロトンビルに泊まり込んでいる執行役員のために、キャンパス内に執務室を用意してありましたが、そこで仕事をしている姿を見かけることがほとんどないほど、一日中あちこちの研修に呼ばれるのです。

クロトンビルのニューヨーク・キャンパスには宿泊施設があり、参加者も泊まり込みで研修を受けます。執行役員の朝は、指定されたクラスの参加者たちと朝食を取りながらミニ・コーチングのセッションを行うことから始まります。

研修が行われている時間帯は、各クラスを回って1~2時間ほど、スピーチや参加者との討議を行います。「自分が考えるリーダーシップとは」といったテーマから、「自分が考えているビジネス戦略」についてのアイデアなど、議論の内容は多岐にわたります。

ランチタイムも夜の会食もセッションの場

昼食時も参加者とのミニ・コーチングのセッションがあり、午後も各クラスを回ります。3時頃にはコーヒー・ブレークを兼ねて、少人数の参加者たちとキャンパス内にあるカフェの暖炉の前で車座になってセッションが行われます。

夜くらいは一息つけるのかと思いきや、そうは行きません。夕食も参加者と一緒に取りながらミニ・コーチングのセッションがあります。クロトンビルにはカラオケセットやビリヤード、卓球台などが完備されたバーがあります。夕食後はここで気軽な雰囲気の中、一杯やりながら、いろいろなクラスの参加者たちとの交流が繰り広げられます。

早朝や夜間はさすがに解放されると思うかもしれませんが、世界各地との時差を利用し、テレビ会議システムを使ってLIRはさらに展開されるのです。

教えることで大きな学びが得られる

こうした「教える」機会は、自分自身の「学び」につながります。LIRではこの効果を促進する仕組みも用意しています。

LIRに参加する執行役員にとってユニークな経験となるそのプログラムは、「リバース・メンタリング」(逆メンタリング)です。つまり、部下側が上司のメンター(相談役)を務めるという、通常のメンター制とは逆(リバース)の役割になるプログラムです。

ニューヨークのキャンパスでは、上級幹部対象のコースから若手対象のものまで、同時に複数の研修が開催されています。参加している若手リーダーたちは20代から30代前半が主体であり、最新の技術や流行のトレンドに敏感です。一方執行役員は、40代から50代なので、そうしたことには少し疎くなっています。

そこで若手リーダーたちが、執行役員に対して最新技術の動向やトレンドについて「教える」セッションが開かれるのです。

執行役員たちはクロトンビルに「教えに来た」のですが、参加者との対話や質疑応答などを通じて、自分のリーダーシップ・スタイルなどについて深く振り返ることになり、結果として「大きな学び」を得て帰ることになるわけです。

自分自身の成長のために「教える」

このように、さまざまな階層のリーダーと執行役員が互いに教え合い、学び合う仕組みをつくることによって、学習する組織という文化が強化されるという効果が生まれます。

GEの全執行役員がこのLIRを体験した後、さらにこの文化を組織に浸透させるため、その次の階層のシニア・リーダーたちにも同じプログラムが実施されました。

人に何かを教えるということは、最大の学びの機会でもあります。そして人は誰しも必ず、何か教えられることを持っています。

あなた自身の成長のためにも、そして何より部下の成長のためにも「教える」ことを実践してください。

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田口 力(たぐち・ちから)
上智大学グローバル教育センター 非常勤講師
1960年、茨城県生まれ。83年早稲田大学卒業。政府系シンクタンク、IT企業の企業内大学にて職能別・階層別研修や幹部育成選抜研修の企画・講師などに従事。2007年GE入社。14年に退社し、TLCOを設立。04年、一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース修了(MBA)。

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(上智大学グローバル教育センター 非常勤講師 田口 力 写真=iStock.com)

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