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「老後2000万円」問題

 07年に生まれた日本の子どもは、107歳まで生きる可能性が50%あるそうです。杜甫の「人生七十古来稀(まれ)なり」に由来する「古希(70歳)」は死語になるでしょう。前人未到の「大還暦(120歳)」に到達する人も出てくるかもしれません。

 自ずと「人生80年」を想定していた人生設計も、「人生100年」仕様に根本的に見直さなければなりません。まず、健康上の問題で日常生活が制限されることがないよう「健康寿命」を延ばすことが不可欠です。そして、高齢になっても希望すれば働けるよう「職業寿命」も延ばしていく必要があります。

 長い長い老後の暮らしを支えるために、預貯金など経済的な蓄えの「資産寿命」を延ばすという観点もあってしかるべきでしょう。従って、金融庁の審議会が「高齢社会における資産形成・管理」というタイトルで、報告書をまとめようとした狙いは理解できないことはありません。

 しかし、その中身は国民の年金への不信と将来への不安を招くような衝撃的なものでした。夫が65歳以上、妻が60歳以上の無職世帯が年金に頼って暮らす場合、毎月約5万円の赤字が出ると試算しています。その結果、夫婦の老後資金として「30年間で約2000万円が必要」と報告書に盛り込まれました。しかも、原案では公的年金について「中長期的に実質的な低下が見込まれている」と、表記されていました。

 轟々たる非難が巻き起こりました。政府や与党はその火消しに必死です。浮き足だった麻生太郎金融担当大臣にいたっては、「正式な報告書としては受け取らない」と言い出す始末です。そもそも2016年4月に金融審議会に対して諮問したのは、麻生大臣でした。自ら諮問しておいて報告書の受理を拒否するなんて、前代未聞です。

 「政府の方針とは違う」「公的年金が崩壊するかのような表現になっている」ことが、正式に受理しない理由だそうです。血税を使って有識者が議論して報告書をまとめました。事務局は金融庁が務めました。受け取り拒否ですむ話ではなく、大臣の責任に関わる重大な問題です。

 最後に、最も許しがたいことは、公的年金の今後100年にわたる給付水準の見通しを示す「財政検証」の公表を、安倍政権が夏の参院選後まで先送りしようとしていることです。財政検証は法律で5年に1度の実施が義務付けられています。前回は2014年6月3日に公表されました。

 年金問題を選挙の争点からはずすために、公表を遅れさせようというのでしょうか。「100年安心」と胸を張ることができない不都合な真実でもあるのでしょうか。国家100年の大計が不透明な中で、人生100年の計をつくることはできません。

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