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  • 泉宏

「2012年、消費税政局の行方」: 実質審議は5月中旬から、“延長戦”ムードに ― 消費税攻防

大型連休に入り、永田町から政治家の姿が消えた。大半の代議士は選挙区に散ったようだが、民主党内閣は野田佳彦首相の訪米を始め、閣僚の多くは外遊三昧。たしかに「最後のチャンス」かも知れないが、緊張感欠如と批判されても仕方がない。ミサイル発射に失敗した北朝鮮は、次の一手の核実験に虎視眈々。フランスでは現職サルコジ大統領が大統領選敗北の危機。スペイン国債格下げなどユーロ危機再燃の兆しで、連休の谷間にまた、円高・株安の流れ。加えて、エネルギー政策が決まらないまま5月5日にはとうとう稼働中の原発がゼロとなる。消費税増税に「命懸け」で挑むのなら、連休返上で国会での審議を呼びかけるべき時期のはずなのに、連休直前、ようやく衆院に設置された社会保障・税一体改革特別委では、付託される法案が多すぎて、消費税法案の実質審議入りは5月16日となった。そこから会期末までわずか37日。「税は国家なり」と言われる増税法案だけに、日程的には当初会期内の成立はもはや絶望的。しかも、小沢一郎元代表の無罪判決で民主党内の増税反対派が勢いづいたことで、衆院通過さえ危ぶまれる状況。このため、永田町では見通しがつかないままでの会期大幅延長説や、今国会は当初会期末で継続審議にして、民主党代表選後の秋の臨時国会に先送り、といった“延長戦”ムードが広がっている。

増税法案の扱いで際立つ温度差 ― 首相と輿石幹事長

野田内閣が消費税増税法案を閣議決定・国会提出したのは前年度末の3月30日。民主党内の反対派を押し切って、つかみ合いの中での党内論議打ち切りで党議決定にこぎつけたのに、肝心の国会審議の場を設置するまでにほぼ一カ月。これには「明らかに民主党執行部のサボタージュ」(自民党国対)と対決する野党側すらあきれ顔。民主党ナンバーツーで参院のドンでもある輿石東幹事長は「早い段階から、今国会では衆院で継続審議を狙っていた」(民主党若手)ようで、今国会での法案成立に「政治生命を懸ける」首相との温度差が一段と際立ってきた。

この動きを加速させたのが政治資金法規正法違反(虚偽記載)で被告となった小沢元代表に対する東京地裁でも無罪判決。連休直前の4月26日午前に言い渡された瞬間、消費税政局の構図が大きく変化した。もっとも、判決内容は「限りなくクロに近い灰色」(検察官役の弁護士)で、小沢氏の弁護団が主張する「完全無罪」には程遠いが、政治的には「無罪」と「有罪」では天と地ほどの違いがある。党内の100人を超える小沢グループは“祝勝会”で気勢をあげ、「小沢首相待望論」も。すかさず小沢氏に近い輿石幹事長は「連休明けに小沢氏の党員資格停止処分解除の手続きに入る」と明言した。

小沢氏、「無罪判決」で連休明けにも党員資格停止解除へ

昨年2月、当時の岡田克也幹事長(現副総理)が決めた小沢氏の党員資格停止処分は「無罪判決確定」まで。とすれば、今回、検察官役の弁護士が控訴すれば「解除」の条件は満たせない。反小沢とされる前原誠司政調会長が「控訴するかどうかを見極めてから」と慎重論を唱えたのも当然だ。しかし、検察官役の弁護士3人は「よく話し合って決める」とこちらも慎重。というのも、判決では「小沢氏と元秘書3人による『共謀』は認めるに足る証拠がなかった」としており、小沢氏や元秘書の証言が一変しない限り、有罪の立証は困難。加えて、訴訟を続けることによる弁護士としての収入激減という事情もあり、「控訴期限の5月10日まで協議しても『控訴断念』を余儀なくされるのでは」と言うのが司法専門家の見立てだ。輿石幹事長はこうした状況を先取りして動きだしたわけで、仮に、「控訴」となっても小沢氏が自由に動けるように「先行解除」で党内をまとめようとしているとみられる。

「野田VS小沢」―退路を断っての“チキンゲーム”に

首相は5月1日未明(日本時間)のオバマ米大統領との日米首脳会談を終えた後の同行記者団との内政懇談で、小沢氏の処分解除について「党役員会、常任幹事会で議論をする。それによって決めるに尽きる」と輿石幹事長らに対応を委ねる考えを強調。これに関して「増税法案への賛成が処分解除の前提になるのか」との質問には「(賛成が)当然のことだと思っているので条件にするつもりはない」とした上で「党の方針通りにまとめることに何の迷いもなく進むべきだ。いかなる人にも最終的に理解をいただき、なんびとも党員なら方針に従っていただきたい」と極めて強い表現で小沢氏をけん制した。

一方、小沢氏は無罪判決を踏まえて4月28日の親しい議員のパーティで「2年半前、政権交代をめざして国民に訴えてきたものは何だったのか。その原点、初心を我々の内閣や政府は忘れてしまっている」と増税に突き進む首相を真っ向から批判。「要はリーダーがきちんと決断し、責任を持って国民の生活が第一という旗印の下で力を合わせれば、必ずもう一度(民主党は)支持を取り戻せる」と増税反対の行動を強め、9月の代表選での“野田降ろし”に言及した。

互いに退路を断った発言だけに「もはや妥協の余地はない。やるかやられるかのチキンゲームだ」(民主党若手)との見方が広がる。「行き着く先は、党分裂と解散・総選挙による政権交代。我々にとってまさに悪夢」(同)というわけだ。しかも、首相が期待する自民党の協力も「まず民主党内の意思統一が前提。小沢氏を説得するか、排除するか、だ。それがなければ協力しようがない」と石原伸晃幹事長らが繰り返しており、現状では与野党協議の進展は見込めない。

ささやかれる3つのシナリオ

こうした中、永田町スズメの間では以下の3通りのシナリオがささやかれている。

まず最初は「激突の果ての行き倒れ解散」―。

首相が小沢氏とぶつかりあって、与野党協議も進展しないまま会期末直前に増税法案の衆院採決を強行する→小沢グループの造反で増税法案は廃案となる→首相は総辞職か解散かの選択を迫られ、解散を決断する→民主党は分裂、選挙で惨敗し、政権を失う。

次が「継続審議による延長戦」―。

民主党内がまとまらないことを理由に執行部が衆院での継続審議を決め、会期も延長せずに閉会する→自民党など野党側が内閣不信任案を提出するが、小沢グループは解散を恐れて同調せず、否決される→首相は続投し、9月の代表選で小沢氏本人かその代理の候補を破って再選を果たす→その結果を踏まえ、秋の臨時国会で自民党などとの与野党協議で改めて増税実現を目指す。

最後が「小沢氏排除による“民自連携”と話し合い解散」―。

連休後早い段階で首相が小沢氏と直接会談し、あくまで増税反対なら「離党」を迫る→それを踏まえて首相と谷垣禎一自民党総裁とのトップ会談で増税実現に向けた連携を確認→会期を大幅に延長して増税法案を成立させる→その上で、9月の民主党代表選、自民党総裁選を経て、10月初旬に召集する臨時国会冒頭で解散する→総選挙後は民主、自民の大連立政権を樹立する。

「最善のシナリオ」には多くのハードルが

霞が関や財界、そしてマスコミ界が「最善のシナリオ」と考えているのは最後のケース。増税実現で「決められない政治」から抜け出し、解散後の大連立による安定政権で日本のギリシャ化を防ぎ、TPPや普天間基地移転などの外交課題や、原発再稼働など内政課題に国益優先で取り組むことが可能になる。

最悪なのは最初のケースで、消費税増税は宙に浮き、民主党分裂や橋下徹大阪市長をリーダーとする「維新の会」や石原慎太郎東京都知事を党首に担ぐ「石原新党」の国政挑戦で政界が液状化、増税どころか政局混乱で重要課題はすべて先送りとなり、日本国債の格下げと経済失速で「日本破たん」の危機に直面しかねない。まさに「悪夢のシナリオ」だ。

ただ、「最善のシナリオ」には多くのハードルがある。まず、首相が小沢氏排除を決断できるかどうかが疑問視されている。輿石幹事長を調整役とする限り「党内融和が最優先となって小沢氏排除などあり得ない」と見られているからだ。しかも、谷垣総裁と解散時期で合意しても、首相と谷垣氏が代表選や総裁選で敗北すれば合意は白紙に戻りかねないので、谷垣総裁が自民党内の了解取り付けも極めて難しい。ともに、指導力欠如が指摘されている両トップだけに、そこまでたどり着く前に挫折する可能性は少なくない。

時間稼ぎより「真の国益優先」で合意を

だからこそ、その中間の「延長戦」説が広がるのだが、これは単なる時間稼ぎともいえる。首相は「通常国会での増税法案成立」という“公約”を実現できなかった責任を問われ、支持率もさらに低下して代表選での再選は覚束なくなる。対する谷垣氏も「通常国会で解散に追い込む」ことが至上命題だっただけに、同氏周辺は「延長戦になれば9月の総裁選での谷垣総裁の続投はあり得ない」と首をすくめる。そうなると、増税法案も含め、すべてが仕切り直しとなり、年内決着すら覚束なくなれば結局、「悪夢のシナリオ」と同じ結果となりかねない。

「このまま何も決められない政治が続けば、日本は世界中から『落第生』と見なされ、日本株式会社は倒産の危機に直面する」(首相経験者)というのはいまや“国民的常識”のはず。にもかかわらず、永田町はひたすら迷走を続けている。「小沢対反小沢」に象徴される「過去のしがらみに縛られた感情的対立」(みんなの党幹部)で民主、自民の二大政党が機能不全に陥っているからだ。ここにきて、あらゆる世論調査で「支持政党なし」が過去最高を更新し続けている。国民が「政治不信」というより「政党不信」を募らせている証拠だ。いまこそ野田首相と谷垣総裁、そして小沢元代表や輿石幹事長がそのこと深刻に受け止め、連休後すみやかに過去のいきさつを捨てて「真の国益優先」でとことん話し合い、最終的な合意にこぎつける以外、“泥沼の消費税政局”から脱出する道はない。

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