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権威回復目論む金正恩の狡猾

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■ 「クロスチェック」と「合理的推理」で金正恩のウソを見抜け

確かに辺氏が指摘するように韓国メディアには誤報が多い。朴謹恵大統領弾劾時には、「朴大統領は崔順実によるマインドコントロールで政治をしていた」「開城工団閉鎖は崔順実の指示によるものだ」などと数えきれないほどのデマが垂れ流された。日本のTVメディアもそれに便乗して情報番組のネタにした。それに火を付けたジャーナリスト・評論家も数多くいた。誰それとは言わないが胸に手を当てれば分かるはずだ。

しかし、そうだからと言って、韓国発情報をすべて疑っていては朝鮮半島情報の分析が成り立たない。情報の中からデマでないものを選び出すのが情報分析の第一歩なのだ。そのためには複数の情報源をもって「クロスチェック」する必要があるが、それとともに必要なのが「合理的推理」だ。金正恩のウソを見抜き閉鎖的な北朝鮮を分析するにはこの二つの作業は必須となる。

北朝鮮情勢に対する合理的推理は、北朝鮮が首領絶対制システムであることの理解が土台となる。この体制では首領は「神」であるために失敗の責任を取ることはありえない。失敗の責任は必ず首領以外の誰かが取ることになっている。そうしないと体制が持たないからだ。そして首領の権威を傷つけた罪には最高刑(処刑)が適用される。

▲写真 米朝首脳会談(2019年2月28日ベトナム・ハノイ)出典:The White House twitter

ハノイ会談で、金正恩(首領)は北朝鮮政権史上かつて見られない失敗を犯し大恥をかいた。それによって彼の権威は大きく傷ついた。この状況をそのままにしておけば体制は崩壊へと向かう。

こうしたことから、「対米交渉担当者たちが処罰されるだろう」というのは北朝鮮専門家であれば誰もが到達する「合理的推理」である。誰を最も重罪にするかはその時の政治状況と金正恩の裁量によって決まる。したがって対象人物が映像に登場したからといって「粛清は誤報」とするのは「即断」すぎる。

■ 金正恩時代に変化した映像活用法

北朝鮮は内外を欺瞞しながら存続している国である。北朝鮮の歴史から「ウソ」を取り除けば歴史が成立しないほどだ。特に首領に関するものは「ウソ」で固められている。そうしたことからプロパガンダの最大の武器である「映像」には「ウソ」が多いすべて加工されているからだ。この映像活用は北朝鮮の統治手段であり欺瞞手段となっている。例えば「平壌リニュアールの映像」を見せて国連安保理制裁が効いていないとするのはその一例だ。この映像活用ではもちろん外国メディアも利用する。特に言いなりになりやすい日本のテレビメディアはお得意様だ。

この世論を惑わす「見せるための映像方式」は、金正恩時代に入って多用されているだけでなく変化した。その一例としてあげられるのが粛清された人物映像の扱いだ。金正日時代には、粛清された人たちは過去に遡り一切の映像から抹殺された。その結果、貴重な映像がお蔵入りとなった。金正恩時代に入ってそれらの写真や映像を活用せねばならないとの指示が2012年の9月に下された。

そうしたことを知らなかったわれわれは、玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)元人民武力相が2015年5月に処刑された後に、彼が金正恩と共に映った映像を見せられ、玄永哲は生きているのではないかと混乱させられた。北朝鮮は粛清した人物の映像も必要であれば(欺瞞のためであれば)そのまま活用するようになっていたのだ。

この手法は、党政治局常務委員兼軍総政治局長だった黄炳誓(ファン・ビョンソ)の粛清過程でも使われた。黄炳誓は粛清説が出た後何度か映像に姿を現したが、いつの間にか消え去った。

▲写真 粛清された黄炳誓(ファン・ビョンソ)党政治局常務委員兼軍総政治局長 出典:flickr; Republic of Korea

金正恩は未熟だが狡猾だ。金英哲が映像に登場したからと言って彼に対する処罰や対米交渉関係者に対する粛清がなかったと判断するのは早計だ。北朝鮮状況を誤判しかねないだけでなく金正恩の計略にはまる可能性がある。

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