- 2019年06月16日 13:58
米、中国の膨張を抑える決意
2/2■トランプ政権の対中政策
古森氏は、アメリカの対中政策を支える3重要文書を示して、政策の具体的な内容を説明した。
1.「国家安全保障戦略」
「国家安全保障戦略」は、トランプ大統領が2017年12月に発表した、外交・軍事戦略の指針。古森氏は、「中国はアメリカ主導の国際秩序への最大の挑戦者だ、だから、長期的には中国の膨張を抑える対決の道を選ぶ、ということを言っている。」と説明し、文書の一部を紹介した。
「中国は、インド太平洋地域でアメリカに取って代わることを意図して、自国の国家主導型経済モデルを国際的に拡大し、地域全体の秩序を中国の好む形に変革しようとしている。中国は自国の野望を他の諸国にも利益をもたらすと宣伝して進めているけれど、現実には多くの国の主権を圧縮し中国の主権を広げることになっている」
「ここ数十年にわたりアメリカの対中政策は、中国の台頭と既成の国際秩序への参加を支援すれば中国を自由化できるという考え方に基礎を置いてきた。だがこのアメリカの期待とは正反対に、中国は他の諸国の主権を侵害するような方法で自国のパワーを拡大してきた。中国は標的とする他の諸国の情報を、かつてない規模で取得し、悪用し、自国の汚職や国民監視をも含む独裁支配システムの要素を国際的に拡散してきた」
「中国は、全世界でも米国に次ぐ強力で大規模な軍隊を築いている。その核戦力は拡張し多様化している。軍事近代化の大きな部分はアメリカの軍事や経済からの収奪の結果である。中国の急速な軍事増強の主要目的の1つは、アメリカのアジア地域へのアクセスを制限し、中国側に行動の自由を与えることである。」
2.「世界の脅威評価」
「世界の脅威評価」は、アメリカにとって重要な世界の脅威をまとめた、情報機関による年次報告である。古森氏は、「第二次世界大戦以来、今が一番大規模戦争が起きやすい時期だと言っている。」と述べ、内容について、国家情報会議のコーツ長官の言葉を紹介した。
コーツ国家情報長官:『中国は、アメリカの国際的な影響力や魅力、実際の力を減らそうと意図している。そのために、年来のアメリカの同盟国や友好国の側の、アメリカの現在の国際的な秩序の維持や防衛制約の保持に対する不信を煽って、対米政策を変えさせようと企図している。中国とロシアは、この野望の実現のために軍事力を含むあらゆるパワーを使い、国際社会の年来の体制と安定を崩し、規則に基づく国際秩序を侵食しようとする。』
3.「国家防衛戦略」
「国家防衛戦略」は、軍事費の運用等の指針を示した文書。マティス米国防長官によって2018年1月に発表された。
古森氏によれば、この文書の柱は、「戦争を防ぐ最善の方法は、想定される戦争を遂行して勝つ能力を確実に持っておくことだ」という抑止の考え。トランプ大統領は、これを根拠に軍事費を増強し、政権の公約の一つ「強いアメリカ」の実現を目指す。軍事費を支出する主要な部門は東アジア。軍拡を進める中国を潜在的脅威ととらえ、対抗する姿勢を明示している。
さらに、国家防衛戦略と一体になった国防支出権限法には、アメリカの国防関連組織と政府機関がファーウェイとZTEの製品を使わない旨を明文記載した。
■ 対中姿勢激化の理由
現在、中国問題はアメリカ政治において、ますます大きな比重を占めるようになっているという。
古森氏は、アメリカが対中姿勢を激化させた理由について、アメリカの専門家の論を挙げて説明した。
1. 中国がアメリカのハイテクを不法に収奪すること
特にファーウェイについては、約10年前から、被害の実例や危険性がアメリカ議会で報告されてきた。
「ファーウェイは、社会信用体系を築いて、国民の締め付けの主役を担ってきた。一党独裁の警察国家を作る企業だとして、アメリカは警戒感を強めた。」と述べた。
2. 統一戦線工作
「統一戦線工作部」は、国内の非共産党勢力を引き込み連携する、中国共産党の組織である。習近平政権は、この組織の役割を対外戦略にまで拡大した。例えば、親中派を育成する教育機関「孔子学院」を、2004年から世界各国の大学内に500か所以上設置した。
アメリカは、統一戦線工作の内実を明るみに出す動きを見せているという。
■ 中国の対米姿勢
中国の対米姿勢を、古森氏は「アメリカと対決してでも、世界に自分たちの考えに基づく影響圏を広げる決意は固い」と分析する。
「中国は、アメリカの国防政策の激しさをよく理解している」と古森氏は述べた。第一次湾岸戦争での米軍の戦いぶりを目にして、軍拡に踏み切ったと、中国人民解放軍幹部がエッセイで語っているという。
以来、中国はアメリカに対抗する姿勢を示してきた。とはいえ、中国共産党の主張する影響圏は東アジアにとどまっていたし、米中は経済面の多くの分野において相互協力の関係を結んでいた。例えば、中国は、アメリカの政府債券を買って財政赤字を補填した。また、9.11の際には国際テロと対抗して両国は手を結んだ。ところが、習近平政権は、対米姿勢を強硬路線に転換した。
2018年6月、中央外事工作会議において、「中国の主導」による「社会主義的な」「グローバル統治」を目指し、「中国の特色」をグローバルに広げていくと宣言したのだ。
■ 今後の見通し
古森氏は、米中の貿易戦争は長く続くと予測している。そもそも中華人民共和国の在り方が、アメリカの在り方そのものと合致せず、アメリカ側は中国の共産主義的なやり方の根幹部分に対して過激になってきているという。
例えば、Committee on the Present Danger China (CPDC)という新しい委員会が設立された。そのようなことから、「単に習近平だけでなく、共産党の体制が崩れるまで戦い続けるということを非公式には語っている。」と古森氏は説明した。
このことで、中国と取引する日本企業も少なからず影響を受けると予想できるが、日本企業は今後どのような対策をとっていくべきか。
戦後から日本の在り方であった①全方位外交、②架け橋外交、③経済至上主義の3つが米中の対決によって難しい状態に追い込まれた。
古森氏は、「今まで続いてきた米中の緊密な経済関係が、摩擦と対立によって後退することは避けられない」ことであり、「日本企業にあてはまる損害は、全体的にはアメリカ企業よりも大きくなるのではないか」と推測した。しかし、現在のトランプ政権の「関与をきっていく(Disengagement)」、「切り離す(Decoupling)」という流れからすれば、「中国との関係が極めて低調になっても、やむを得ない。」と、古森氏は述べた。
また、古森氏はアメリカの方針に背く行動をとったときの日本の損失について考えると、「中国との取引や中国への投資というのは、やはり減っていくのではないか」と予測し、総合的に考えた上で「日本はアメリカ側につく」というのが現時点では賢明だという考えを示した。
古森氏は、「今までの米中関係で最大の転換年、危機かもしれない。今の米中関係はそのくらいの深刻さを帯びているという背景を頭に入れて、関税問題についても考えてほしい。」と、貿易関係に限らず米中関係の背景についての理解も呼びかけた。
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