記事

香港デモに沈黙する日本政府、習近平訪日にも配慮か? - 野嶋 剛 (ジャーナリスト)

[画像をブログで見る]

米国や欧米の政府や議会が、香港政府が進める逃亡犯条例の改正に対する懸念を表明しているなか、日本政府は現時点まで沈黙を守っている。香港の学生運動活動家で来日中の政治組織「デモシスト」幹部のアグネス・チョウ(周庭)さんは連日、「日本政府や日本の政治家は香港についてもっと発言してほしい」と呼びかけている。だが、28日から開かれる20カ国・地域サミット(G20)で初めて議長国を務める日本政府にとって、習近平・中国国家主席と安倍晋三首相との首脳会談という重要イベントも控えており、香港情勢は難しい対応を突きつけている。

12日夜に渋谷の駅前広場で行われた香港デモ支援の集会では、日本人と在日の香港人あわせて数千人が詰めかけ、中国への容疑者引き渡しを可能とする逃亡犯条例の改正阻止を訴えるとともに、日本政府の対応について物足りなさを指摘する声もあちこちから聞かれた。

香港政府に「圧力」をかける国際社会

米国のナンシー・ペロシ下院議長は11日、香港の逃亡犯条例の改正問題について、香港の民衆によるデモを支持し、逃亡犯条例の改正に反対すると表明した。さらに、条例改正が可決された場合、米議会として、一国二制度における十分な自治が香港に与えられているかどうか再評価を行うと述べた。

声明でペロシ下院議長は「平和的方式によって主権を守ろうとする香港人の行動に感動した」と述べてデモ隊を賞賛。「北京政府のコントロールする議会によって逃亡犯条例が審議されていることは、北京が躊躇なく法律を踏みにじり、香港の自由を圧殺しようとしていることだ」と香港、北京の両政府を厳しく批判したうえで、今後の展開次第によっては「香港人権および民主法案」を議会に提出する可能性があることを示した。

このほか、香港の統治者であった英国政府とカナダ政府が、共同声明で逃亡犯条例の改正に対して懸念を表明したほか、欧州連合(EU)は香港が返還されて以降、初めて林鄭月娥(キャリー・ラム)香港行政長官への直接申し入れを行った。英国のハント外相は12日に改めて逃亡犯条例の改正審議の中止を求めるなど、国際社会の香港政府への圧力は日々高まっている。

もともと欧米社会は人権に敏感で、近年香港で起きている活動家や政治家に対する逮捕・拘留・議員資格取り消しなどの動きに対して、懸念を深めていた。そして、今回、逃亡犯条例の改正に対して各国が素早く行動しているのは、手配犯などを中国に引き渡すことが可能になる改正案によって香港における司法の独立が危うくなれば、多くの駐在員を置いている香港の貿易・金融の中継センターとしての役割を見直す必要が生じ、対中ビジネスの利害関係にかなり深刻な影響を及ぼしかねないことも関係しているだろう。

日本政府が「沈黙」を貫いているワケ

これに対して、日本政府の静かな対応は、香港側からすれば物足りないように映るようだ。周庭さんは日本での会見や講演で「日本政府、日本の政治家には香港の問題にもっと関心を持ってほしい」「日本国民の安全を守るためにも(逃亡犯条例に対して)意見を言ったほうがいいのではないでしょうか」と語っている。

河野外務大臣は5日の衆議院外務委員会で香港の問題を問われたとき、「香港の一国二制度というのは、司法が高い独立性を維持している」「大声で叫べばよいというものではない」と述べた。しかし、実際には香港の一国二制度が崩壊にさしかかっているというのが、世界における客観的な評価であろう。河野外務大臣は13日に自らのツイッターで「香港の友人として、最近の情勢を大変心配しています。特に多くの負傷者が出ていることに心を痛めています。平和的な話合いを通じて、事態が早期に収拾され、香港の自由と民主が維持されることを強く期待します」と述べたが、個人のリアクションにとどまっている。

[画像をブログで見る]

実際のところ、G20首脳会議を控えて、香港問題に焦点が当たりすぎることは、議長国を務める日本にとって難しい舵取りを強いられるうえ、国家主席として初めて来日する習近平・国家主席と安倍晋三首相の首脳会談にも影響しかねない。長年緊張関係にあった日中関係だが、この首脳会談で雪解けを演出することを日中両政府とも非常に重視しており、できれば友好的なムードのまま習近平・国家主席を迎えたいという点も本音であろう。

香港政府も中国政府も今回のデモにおける「外国勢力」の関与に対しては警戒心を高めている。中国の外交部報道官耿爽はペロシ下院議長の発言に対して、「香港事務は中国の内政に属することでいかなる国家、組織、個人も関与をする権利がない。米国は客観的かつ公正に香港政府の修正を見守るべきだ」と語った。また、香港のウェブメディア「香港01」の報道によれば、今回の若者のデモは裏で「外国組織の策謀」が存在しているものだと判断し、催涙ガスやビーンバッグ弾による実力行使での鎮圧という手段を使ったと報じている。

意外と知らない日本と香港の深いつながり

実は日本と香港の関係には深いものがあり、経済的な利害関係も大きい。統計によれば、2018年の香港進出日系企業数は1393社に達しており、中国を除けば、1351社の米国を抑えて国別で3年連続1位となっている。日本企業は香港返還の前から対中ビジネスでは香港経由の方法をとっており、その伝統は今も変わっていないだけでなく、進出企業はむしろ増えている傾向にある。

日本の農産物の輸出先としても、香港は2018年までに14年間連続で1位を誇っている。2018年の香港から日本への旅行者数は、2年連続で220 万人(香港の人口は約740万人)を上回った。5人に1人は過去に10回以上も日本を訪れたことがあるという「日本好き」が際立っており、香港人は個人消費力も高いので、日本の観光業や飲食業への貢献は大きい。

[画像をブログで見る]

その割に、香港の重要性は日本人には過小評価されているところがあるのも事実だろう。周庭さんが12日に明治大学で行った講演は、同大学法学部の鈴木賢教授の授業の一貫であったが一般公開されたため、メディアに加えて、在日の香港人留学生らが数百人詰めかけ、異様な雰囲気になった。

彼らの多くは香港の危機を訴えるポスターを手に持っており、大学内での政治活動にあたると大学側から制止される場面もあった。会場では、香港人の女子学生が立ち上がり、「私はいまマスクをかけています。それはいつビデオに撮られて起訴されるかわからないからです。自分を守るためにやっています。香港はこうした状況にあることを日本のみなさんもぜひ情報拡散してください」と呼びかけると、会場から大きな拍手が沸き起こった。

ただ、日本人が香港に無関心かというと、必ずしもそうではないだろう。1970年代までは「新婚旅行はハワイか香港」が日本人の若いカップルの夢だった時代もあった。香港の人文・文化への研究水準は、香港人や中国人も及ばない高いレベルの領域もあり、日本の外国語大学では広東語専攻学部も存在している。確かに、香港返還の前後よりその独自性が薄れるとの見方も広がったが、2014年の雨傘運動以降、香港への関心は底を打って回復基調にあるように見える。

今回の逃亡犯条例の改正に対する103万人という反対デモの巨大な規模と、その後の警察による流血を伴う激しい弾圧は、日本社会にも大きな衝撃を与えた。G20のなかで香港情勢を日本政府がどのように取り扱うか、世界が注目することになるだろう。

▼関連記事
「最後の戦い」 に向かう香港市民、警察は「散弾銃」で鎮圧


「香港はめっちゃバカバカしいことばかり。でも絶対に沈黙しない、最後の最後まで」 香港雨傘運動の「女神」が語った中国への抵抗の決意
(周庭さんインタビュー・2019年1月9日)


あわせて読みたい

「香港」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    山本太郎氏が社民党に引導渡す日

    やまもといちろう

  2. 2

    輸出規制めぐり文在寅氏に焦りか

    AbemaTIMES

  3. 3

    山本太郎氏は国会で討論すべき

    早川忠孝

  4. 4

    007起用の黒人女性めぐる勘違い

    諌山裕

  5. 5

    日韓問題に米「出来る事はする」

    ロイター

  6. 6

    陸上スーパー女子高生なぜ消える

    PRESIDENT Online

  7. 7

    TV局がツイート謝罪で失った信頼

    孝好

  8. 8

    よしのり氏 007はやはり白人男性

    小林よしのり

  9. 9

    自らを棚に上げ日本糾弾する韓国

    木走正水(きばしりまさみず)

  10. 10

    5000円超えの牛丼は何が違うのか

    東龍

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。