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なぜ日本でこれだけ引きこもりが増えたのか 『子育てが終わらない』小島貴子准教授インタビュー - 本多カツヒロ (ライター)

川崎市多摩区で起きた殺傷事件の容疑者が引きこもりであったことから、引きこもりがまるで犯罪予備軍であるかのような報道があった。これに対し当事者らでつくる団体は偏見を助長すると声明を発表した。

今年3月に内閣府が公表した推計値では、40歳から64歳の中高年の引きこもりが全国に61.3万人いるという。キャリアカウンセラーとして引きこもりや就職困難者の支援を行ってきた小島貴子・東洋大学理工学部生体医工学科准教授と、引きこもり問題の第一人者として臨床に携わる精神科医の斎藤環氏が対談した『子育てが終わらない』(青土社)。今回、中高年の引きこもり状態の背景に何があるのかなどについて小島氏に話を聞いた。

(Tzido / iStock / Getty Images Plus)

――今年3月に内閣府が中高年の引きこもりが約61万人と発表し衝撃を持って受け止められました。引きこもりや就職困難者の支援を続けてきた小島先生にとっても驚きでしたか?

小島:内閣府の調査では、約61万人と公表されましたが、私たちは100万人近い中高年の引きこもりがいると推定しているので特に驚きはありませんでした。

斉藤先生と出会ったのは10年以上前に開かれたパネルディスカッションでした。当時、すでに引きこもりの子どもが40代で、親が70代の「4070問題」があったので、より高齢化し現在のように「5080問題」になるのはわかっていました。

――一口に引きこもりの子どもがいる家庭と言っても、さまざまな状況があるのは承知していますが、なかでも多く見られるのはどのような家庭状況でしょうか?

小島:親にある程度の経済力がないと引きこもることはできませんから、一定以上の経済力のある世帯に多いですね。たとえば以前、日本の大手企業で、社員に妻や20歳以下の子ども、高齢の両親などを除き扶養家族がどれくらいいるか調べてもらったことがあります。その結果、部長、課長クラス以上の世帯に引きこもりと思われる成人の扶養家族がいることがわかりました。

また引きこもりの子どもがいる家庭では、夫婦関係が機能していないケースが目立ちます。引きこもりのカウンセリングでは、相談に訪れるお母さんの多くが「子育てに失敗した」「私が悪い」と自責の念にかられています。こうした家庭では男性が稼ぎ、女性が子どもを育てる役割を担っている場合が多いので、夫は妻に対し「お金は十分渡しているのに子どもの教育に失敗して、学校にも行かないし働きもしないじゃないか」と妻を責め立てる。もしくは、まったく口をきかず、無視をする。あるいは、学校が悪いと外に責任を押し付ける傾向があります。本来ならば、家庭で起きた問題は夫婦が協力して解決するべきですが、どちらかに責任の比重が重くのしかかり、夫婦関係が正常に機能していません。

――夫婦関係が機能していない場合、どうすれば再び機能するようになるのでしょうか?


小島:単語だけで会話をする夫婦は機能しているとは言えません。会話量と理解力はイコールなのです。ヨーロッパ、特にフランスやイタリア、スペインなどではカフェなどでよく話している光景を目にします。その理由をイタリア人と結婚した親友に聞くと「争わないため」だと言います。ヨーロッパは有史以来、地理的に地続きで争いが絶えなかったので話し合うことで戦争に発展しないようにしていると言うのです。いまでもパートナーや親しい人たちと頻繁に会話するのは争いごとを避けるためだと言います。

日本人は言葉にすると逆に争いごとになると思い会話をしない傾向があります。言葉にしないから相手が何を考えているのか理解できずに、忖度して物事を進め、結果的に子どもが深刻な問題を抱えていることがある。夫婦間の会話がないと子どもも自然と話さなくなります。おしゃべりな引きこもりはいません。

――なぜ日本でこれだけ引きこもりが増えたのでしょうか?

小島:社会に欠損があるからだと思います。特に社会に蔓延する「同調圧力」の強さです。

人と人がわかり合うには、まず自分自身を理解しないといけません。たとえば「私は〇〇です」と〇〇の部分を授業で学生に埋めてもらうと最初の30~40個はだいたい皆同じものが出てきます。41個目から出てくるものが個性です。学校という装置のなかでは、集団性に対する美化、同調圧力により人と違うこと、つまり個性が認められない。そうなると、個性を持ち、集団に馴染めない子どもたちは生きづらさを感じるようになります。生きづらいと引きこもりやすくなります。引きこもるきっかけは様々ですが、小中学校時代から不登校がちだったりと、子どものときから生きづらさを抱えている人は多い印象です。

――子どもが将来引きこもりにならないために、子育ての中で意識するとよい点はありますか?

小島:子ども自身が考え、決定するトレーニングはしたほうが良いですね。親が優秀であればあるほど、自分の考えが正しいと思い込み「子どものためだから」と判断し、指図しがちです。

――たとえば「この学校を受験し、この会社に入りなさい」といった具合にですか?

小島:もちろん、それが子どもにとって重要だと考えるから指図していると思いますが、その道を進んで子どもが本当に幸せかどうかはわかりません。

――もし引きこもってしまった場合にはどうすればよいのでしょうか?

小島:第三者である行政やNPOなどに相談すると解決はしやすいです。ただし、無理矢理部屋から引きずり出すなど暴力的に引きこもりを解決しようとする団体には注意が必要です。

しかし、これだけ引きこもりがいる現状を見ると、いかに相談に対するハードルが高いかがわかります。まず支援側は「相談に乗ります」ではなく、「最近、親子の会話が少なくて困っていませんか」「夫婦の会話が少なくないですか」「子どもが部屋から出てこないことがありますか」など具体的な事例でハードルを下げアウトリーチすることが大事です。

――引きこもりの方のカウンセリングを担当されていたわけですが、実際はどのように相談が進むのですか?

小島:最初は、相談すること自体のハードルが高いので相談者に対し寄り添うことが重要です。たとえばお母さんが来てくれた場合、「よく相談に来てくれましたね」「いままで大変でしたね」と言ったように。子どもが引きこもった経緯は聞きません。そして帰り際に「今日はどうでしたか?」と聞くと、大抵は「スッキリした」「気持ちが楽になった」と答えてくれます。それを夫や子どもに伝えてくださいとアドバイスします。

子どもも夫もお母さんや妻に対し悪いと思っているので、お母さんの気持ちが楽になって良かったと思うわけです。そうすると次からは夫も相談に来るようになります。相談に来て話すことの何が良いかというと、自分がしたことや思っていたことを言葉にするので、言語で認知することになり、客観視できるようになります。そこが重要で、そうなれば解決の糸口が見えてきます。最終的には当事者が出てきてくれれば、解決する確率が高くなります。

当事者が相談に来たら、どんな仕事でも良いので挑戦してみるように話をします。親は、すぐに正社員で雇ってくれるところが良い、安定が一番だとなりますが、そこで急いではいけません。そもそも「安定」は社会的な装置ではなく、自分のなかにあるものです。毎日、やることや行くところがあり、「よし今日も一日が終わった」と自分を認めてあげられるのが大事です。会社や人間関係に依存していればそれがなくなった瞬間に「安定」はなくなります。

――本書のタイトル「子育てが終わらない」という状態はまさに引きこもりに悩む親の悲痛な叫びではないでしょうか。

小島:子育てには精神的、社会的、経済的に何歳ごろまでにどうやって自立させるかといったある程度のタイムスケジュールが必要です。本当の意味での自立とは、どんな状況でも暮らしていくことができること。自立することで自尊感情が生まれます。ところが、日本社会の自立の基準は、「ちゃんとした学校を出て、ちゃんとした会社に勤める」という「ちゃんと」という曖昧な基準で子どもを縛っている。

また、「あの子はできるのに、うちの子はできない」と他の子と比較するのをやめましょう。子どもによって発育も違います。他人と比較し、善悪を判断している限り、子育ては終わらないのではないでしょうか。

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