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カネカ転勤問題はなぜバズったの?と思った時に読む話

今週のメルマガ前半部の紹介です。先日、大手化学メーカー・カネカの男性従業員が、育休明け早々に転勤を命じられ、やむを得ず退職に至ったという話が公となり、ネット上でちょっとした炎上騒ぎになっています。

【参考リンク】「育休復帰、即転勤」で炎上、カネカ元社員と妻を直撃

この手の話は双方の言い分をしっかり聞かないと何とも言えないのでどっちがどうだと言うつもりはありませんが、それにしても今という時代を象徴するような出来事だと筆者は痛感しましたね。本件は単なる転勤ネタだけではなく、いろいろな論点が含まれています。

というわけで今回はカネカ転勤問題についてまとめておきましょう。

バズった3つの理由

以前も述べたように、転勤制度というのは余剰人員を人手不足の事業所に回すことで雇用を維持させる“民間版ハローワーク”みたいなもので、終身雇用を維持するためには不可欠なツールです。

だから「会社の転勤命令に従わなかったら解雇OK」という判例もあるし、労組も転勤を嫌がる組合員には逆に説教するくらいです。

基本的に全従業員が対象となりますが、所帯持ちでなかなか辞められない従業員がよく狙われます。昔から「ローン組んでマイホーム買ったらすぐに転勤になった」という話がありますが、あれなんか典型ですね。

近年はそうした個人事情を考慮してくれる会社も増えていますが、「個別対応すると前例になるので一切考慮しない」という頑固な会社もまだまだあります。カネカはたぶん後者だったんでしょう。

さて、ここまではよくある話ですが、本件には以下3つの要素が加わることで炎上案件となりました。

1.よりによって育休取得者だった

現在、政府は2020年の男性育休取得率目標13%を掲げ、企業に猛烈にはっぱを欠けている最中です(2018年度は6.16%)。足を引っ張ったら政府に何を言われるかわからないので、大企業はどこも一生懸命に男性従業員の育休取得実績を作ろうと汲々としています。

そういう空気に公然と反旗をひるがえすがごとく、よりによって育休明けしたばかりの従業員を転勤対象にし、結果的に退職に追い込んでしまったというのは管理部門的には最悪のチョンボだと思いますね。対外イメージも最悪です。

2.共働き世帯だった

転勤制度というのは、女性が専業主婦もしくはいつでもさくっと辞められるパート程度の形で働いていることが前提です。夫について全国を回るイメージですね。「専業主婦は社畜の専属家政婦」という言葉すら存在します(上野千鶴子・東大名誉教授談)。しかし、本件の場合は配偶者も他社の正社員であり、転勤についていけなかったことが退職の直接的な理由となりました。

でも、はっきり言っていまどき共働きなんて普通です。旦那一人働くだけで家族全員を養っていけるだけの給料を払い続けられる企業の方が珍しいですから。当然、どの家庭でも一度はこの「転勤になったんだけど、おまえ、仕事どうする?」問題には直面しているはず。

つまり、幅広く問題意識が共有され、共感も得られる土壌が既に存在していたわけです。

3.SNSで愚痴った

とはいえ、うっかり配偶者が他社で正規雇用されている育休明け間もない従業員を転勤候補に選んでしまったとしても、誰にも知られなければ「あ、そう」で済んだ話です。実際、筆者自身、同じように「会社都合で人生振り回される人たち」は無数に見てきました。

問題は、上記のように可燃性ガス充満状態で、SNS上で不特定多数に向けてつぶやかれてしまったことです。「あるある!ひどいよね転勤制度って!」みたいな形で共感されまくり、まるで多段式ロケットのごとく拡散が加速していく様は、きっとつぶやいたご本人もさぞビックリしたことでしょう。

ご本人的にはたぶん少数の知人に向けて愚痴ったつもりが、気が付けば渋谷のスクランブル交差点に止めた街宣車の上から拡声器で繰り返し告発するような結果になったわけです。ホント恐ろしい時代だと思います。

日本企業は終身雇用という独特の風習を維持し続けた結果、内部には社会常識とかけ離れた“ムラ社会の掟”がいくつも存在してきました。たとえば労基法で定められた労働時間の上限を外し青天井で残業できるようにすること。有給は与えられても全部使っちゃダメなこと。そして、辞令一枚で全国転勤すること(=嫁は家庭に入ってそれを支える側に回ること)等です。

カネカの出したリリースを見ると、全体から「え?なんでダメなの?別に違法じゃないし他の会社も同じようなことやってきたでしょ?」感が全体からにじみ出ているのがわかります。

【参考リンク】当社元社員ご家族によるSNSへの書き込みについて

でも、もうそういう本音と建て前を使い分けるようなやり方は、今後は通用しないでしょう。すでに流動化しはじめている従業員は矛盾に満ちたムラの掟に従うメリットはなく、矛盾はいったん暴かれればSNSを通じて一瞬で炎上してしまうためです。

企業は真正面から、組織内に抱えた矛盾と向き合うしかありません。

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