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「最後の戦い」 に向かう香港市民、警察は「散弾銃」で鎮圧 - 野嶋 剛(ジャーナリスト)

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香港情勢が急を告げている。中国への犯罪者の引き渡しを可能にする逃亡犯条例の改正に反対する6月9日のデモは、香港返還後最大の103万人(主催者発表)に達した。しかし、香港政府と親北京派が多数を握る立法会(議会)は審議を逆に早めると表明。これに不満を持った数万人の群衆がデモ終了後に立法会のあるアドミラルティ(金鐘)やビジネス中心部のセントラル(中環)を人の波で封鎖し、立法会の審議阻止を目指した。これに対し、香港警察は11日午後から夜にかけて、殺傷力を落とした実弾相当の銃器を使うなどの激しい実力行使でデモ隊の強行排除を行なった。

悲壮な決意を表明する若者たち

香港の若者たちは「香港を守るための最後の戦い」「香港が滅んでも自分たちの屍を乗り越えてほしい」など、悲壮な決意をメディアやSNSで表明しながら、警察に立ち向かっていった。

そこで香港警察が使用したのは、雨傘運動でも使われた催涙弾やゴム弾に加えて、暴徒鎮圧用のビーンバッグ弾(布袋弾)だったと言われる。ビーンバッグ弾は小さな鉄の玉をナイロンの袋に詰めて勢いを弱くして打ち出すもので、事実上、形式は散弾銃と同じものだ。威力が弱いので人体は貫通しないが流血は不可避で、目に当たれば失明もありえる。ビーンバッグ弾との関係は定かではないが、現場では銃撃を受けたデモ隊の参加者が地面に倒れて動けなくなる映像が流れた。

香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、12日夜、デモ隊と警官隊が睨み合うなかでビデオメッセージを流した。デモ隊を「暴徒」と位置づけ、厳しい表情を浮かべながら「社会が早急に秩序を回復し、暴動による負傷者がこれ以上出ないよう望む」と述べた。また、テレビの取材に対しては法案の審議を変更なく進める意思を明らかにしている。

香港では、12日には、多くの銀行など金融機関が営業を停止したほか、自発的に抗議の意思を込めて店舗を閉めたり、中学や高校でも授業ボイコットが数百校に広がったりするなど香港の社会機能のマヒも目立っている。デモ隊は13日未明にいったん離散したが、今後の審議次第では再び街頭に戻ってくる可能性が高い。今後、香港で戒厳令が敷かれる可能性を指摘する声すら出ている。

今回のデモの特徴は、2014年の雨傘運動以上に若者が多いことだ。多くの若者たちは「このままでは香港の一国二制度が本当の意味で終わりになってしまう」と危機感を抱いて参加しているようだ。彼らは年配者と違って返還後生まれで英国籍の保有者も少なく、海外移民も容易ではないこともあり、香港と運命をともにする意識が特に強いとされる。

「逃亡犯条例の改正」によって香港が失うもの

香港情勢が緊張するなか、雨傘運動から民主化運動の中心で活躍してきた政治組織「デモシスト」のアグネス・チョウ(周庭)さんは12日午後、明治大学で最新の香港情勢について報告会を行った。大学の講義であるにもかかわらず、現場には周さんの講演の情報を知った在日の香港人ら数百人も集まった。

日本での講演や取材のために103万人デモに参加した直後に来日した周さんによれば、当初は30万人程度と予想していたデモが、想像を大きく超えて膨らんだといい、「こんな規模になるなんて想像していなかった。今回は雨傘運動と違って誰がリーダーというのが明確になっていない。とても香港の情勢が心配で、戻りたくて仕方ない」と語った。

周さんは講演で逃亡犯条例の改正により、中国政府にとって好ましくない人物が香港から中国に引き渡されてしまうことになると懸念を表明。「香港はすでに一国二制度ではなく、1.5制度になっていますが、この条例改正で一国一制度(中国と同じという意味)にまでなってしまいます」「香港は90年代、難民を受け入れる場所でしたが、これからは政治難民を出すところになっていきます」と危機感を込めて語った。実際、香港では雨傘運動以来、海外移民を希望する人の数が増えており、政治運動に関わった人は同じ中国語を使える台湾に一時避難の意味を込めて移住する香港人が増えている。

そうした香港にとって、この逃亡犯条例の改正によって「中国に引き渡される」というリスクが顕在化すれば、デモや民主化の運動すらできなくなってしまうというのが、香港人が訴えているポイントだ。香港でこの逃亡犯条例が人間を中国に送り出すことを意味する「送中」と呼ばれ、全体の運動が「反送中」と呼ばれているのはそのせいである。

香港の議会である立法会は、選挙制度によってほぼ自動的に親北京派が多数を占めるようになっており、香港政府とその背後にいる中国政府の意向にはほとんど逆らわない。今回の改正法案審議ももともと7月の予定が6月27日に早まり、11日には立法会議長が20日に可決したいとする意向を表明した。12日の審議入りはデモ隊によって阻止されたが、法案の早期可決によるデモの沈静化を目指して審議を急ぐ方針は変わらないだろう。

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