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「代表選考に英語力の新基準」で波紋 太田雄貴「語学力と情報量は“競技力向上”に直結」と変革に自信

 2017年8月に公益社団法人日本フェンシング協会の会長に就任した太田雄貴氏(33)は、昨年12月に東京グローブ座で行われた全日本フェンシング選手権決勝で剣の動きをライトで可視化する「フェンシング・ビジュアライズ」など、斬新なアイデアを採用して会場を沸かせ、大会を成功へと導いた。そして6月13日からは、2020年に行われる東京五輪の代表選考にポイントが加味されるアジア選手権が始まる。

 そんな折、会長就任にあたって選手依存の大会運営や協会運営からの脱却を掲げ、様々な改革に奔走してきた太田氏に、就任2年目の節目を前に話を聞いた。

「初めて尽くしだった」とグローブ座での全日本フェンシング選手権を振り返った太田氏は、新しい試みを通じて「運営サイドの一体感が生まれ、現場力が上がった」と収穫について言及。さらに後日、大会の様子を初めて映像で確認した選手たちは、一様に感動や興奮の言葉を口にしたなど、様々なエピソードを明かしてくれた。

 大会運営を改革し、フェンシングの注目度を高めるまでが会長の仕事だとすれば、次のステップでは選手自身が輝き、注目を集めることが求められる。競技面についても、太田氏は次のように手ごたえを口にする。

「今シーズンに入って見延和靖選手がグランプリで2勝、ワールドカップで1勝を挙げるなど大活躍。表彰台に立つ女子フルーレの選手もいたりなど、たくましい戦績が見られるようになってきました。しかし東京五輪に向けては、さらにもう一つブレークスルーする必要がある。

結果に関しては複合的な要因があるので一概には言えないが、『僕たちがやってきたこと、目指しているものは間違っていなかった』という思いはあります」

 その一方、改善すべき点もあると続ける。それがコミュニケーションの質・量だ。

「事務方のコーチやスタッフなど皆で会食をした際、会わないと、言わないと伝わらないこともあるということを痛感しました。昼間に会うときは緊張の面持ちでいるのに、夜、会食の席で会う彼らはどこかホッとした表情を浮かべている。この差は何なのか。おそらく、普段は『会長が何か言い出すんじゃないか』という気持ちがどこかにあって、様子をうかがっているのかもしれない。

その点、僕自身がコミュニケーションを怠っていましたね。30代くらいの年代であればチャットなどで簡単に連絡が取れる一方、理事の方々はそうはいかない。一見すると非効率に思われがちなフェイス・トゥ・フェイスが、物事を進めるときにスピードを早め、効率を高めることに役立つ場合もあるものです」

 また太田氏は、組織としての現状について、意思決定が不明瞭であることが多かった以前に対して、多くの意思決定事項が自身に回ってくる現在についても「組織として正常に運用できていない証拠」と話す。次の任期となる2年間については「方針だけを定め、誰でも立ち回ることのできるメンバーを揃えていきたい。ガバナンスも含め、組織として強くなる期間」と位置づけ、さらなる改善に取り組む意欲を口にした。

■アジア選手権は強豪が集う「プレ・オリンピック」

 また今年4月、太田氏がフェンシング日本代表選考に「英語力」を一つの基準として設けることを発表して波紋を呼んだ。様々な憶測をもとに議論が広がっていることを受けて太田氏に真意の説明を求めると、それらが自身の経験に基づいた確信による新たな試み。

さらに会長として選手を預かるうえで、彼らの選手としての成長、社会人としての成長(セカンドキャリア)を考えたうえでの決断であることがうかがえた。

「今回の試みは全ての選手を対象にしているわけではなく、ナショナルチーム代表として世界を相手に戦う一部の選手たちが対象です。フェンシングの競技特性上、試合中に審判とコミュニケーションが取れないというのは、致命的な問題になる。通訳はその場に介在できないし、ましてや翻訳機を持ち込むわけにもいかない。選手が最低限の語学スキルを習得して、自身で切り開いていく必要がある。

その努力の結果として、僕は北京五輪でメダルを獲得して、人生を豊かにすることができた。18歳~20歳の頃、英語ができなくて審判とコミュニケーションが取れずに苦しんだ経験があるからこそ。今回の試みは選手自身の競技人生、その後の人生を豊かにするものであると理解してほしい」

 昨今、アジア地域でフェンシング人口が増えている。その多くでは指導者不足が問題となっており、ロシアやウクライナなどは戦略的な指導者の派遣に乗り出しているという。つまり、現役を終えた選手たちの活躍の場は日本を飛び越え、世界に広がっている。

そこに選手の国内外でのセカンドキャリアや貢献の可能性があると太田氏は指摘する。フェンシングがプロスポーツではないことを前提とした「選手を商品として見るのではなく、あくまでも人間教育の場と捉える」という太田氏の考え方が、根底にある。

 もちろん英語の試験ともなれば費用は生じるが、教材費を含めて選手の自己負担は生じない。既に協会をスポンサードしている企業とも話し合い、納得のうえで、太田氏が支援を受けるベネッセが定めるスコア型英語技能検定『GTEC』を活用することになっている。そこでもう一つ気になるのは選手の反応だが、その点については、昨年から伝えているため「了解は得られている」ということだった。
 
 では、英語力が定められた基準に達しない場合、「実力はありながら代表選考から漏れる」という事態は起こり得るのか。

「ルールなので、本当に基準に達しない場合は選ぶことはできませんが、オンラインの英会話試験をクリアするという救済措置は設ける予定です。これでも『勉強しません』となってしまうと、スポーツだけやっていればいいという考えになる。

そういった考えが、勝利至上主義となって、現在のスポーツ界にある様々な歪を生んでしまったと思っています。協会として選手を預かっている以上、勝つことに加え、学ぶことの大切さを理解している人材に育て、社会に輩出していきたいと思っています」

 「語学力の向上は、競技力向上に直結する」

 選手に対して最も訴えたいことの一つがこれだ。本や資料などから得られる情報、他国のコーチや選手とのコミュニケーションを通じて得られる情報が、競技力の向上に直結するというのが、太田氏が自身の経験から導き出した結論である。日々忙しく練習に励みながらも、ふとした瞬間に現役引退後の進路に対する不安が頭に浮かぶ。

そんな選手たちの実情に対して、明確な答えや解決法を渡してあげたい。「やる前からどうのこうのではなく、まずやってみればいい。仮に1年やってみて選手から文句が上がった時は、次の一手を考えますよ」と笑顔を浮かべた太田氏は、改革者らしく前を向いた。

 およそ1年後には東京オリンピックが開催される。自国開催で悲願のメダル獲得に向けた秘策、対策はあるのだろうか。

「僕の使命は基本的にはB to B。選手に直接コーチングすることは、ほとんどありません。それに強化に口を出して『ザ・太田』みたいになるのも良くない。福田佑輔強化本部長を中心とした現場スタッフを信じ、彼らの士気を上げることに注力したい。

そもそも我々は、勝ち負けに左右されない持続的な協会運営を目指しています。金メダルを獲得できたら超ハッピー、それ以外のメダルでもハッピー。仮にメダルが獲れなくても、懸命に頑張った選手たちを抱きしめてあげたいですね」

 そんな東京オリンピックへの試金石となるアジア選手権に関しては、過去3大会、団体で優勝したチームのじつに93%がオリンピック出場を果たしているというデータがある。

「その事実を重く受け止めてアジア選手権に臨みたい」と意気込みを語った太田氏に、見どころを聞くと「強豪が集うプレ・オリンピック」という答えが返ってきた。1年後の結果を占う今大会で、選手たちがどのような活躍を見せてくれるのか注目したい。

取材・文/車谷悟史

(C)AbemaTV

【注目動画】
太田雄貴会長からの特別メッセージ

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