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トランプ大統領なしでは自由社会は潰れていた? ―中国をWTOに加入させた勘違い― - 屋山太郎

 「一帯一路」という商売は計画があって予算があり、金の調達は政府や銀行がやるという点で、資本主義的手法であり、自由主義的でもある。一方でアメリカが産出した大量の大豆を中国が買っているのも、自由経済そのものだ。

 2001年に先進各国が中国を世界貿易機関(WTO)に加入させたのも、似たような商習慣を続けているうちに〝西側〟そっくりになってくるだろうと想像したからだ。ところが一帯一路と大豆商売は似て非なるものだった。

 一帯一路の失敗例に必ず出てくるのがスリランカのハンバントタ港である。事の成り行きから見て中国がスリランカに港の建設を勧めたのだろう。受けたスリランカは中国の言いなりに金のことなど考えずに、どでかい計画に乗ってきた。大抵、発注する方は金の調達方法などを考えながら受けるものだが「金はいくらでもある」とでも思ったのだろう。一帯一路を始めるにあたって中国政府はアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立し、先進国に出資を要求する一方、銀行の加盟国になることを求めた。途上国が国際金融事情に無知なのは仕方がない。

 中国はAIIBの設立参加国にドイツなどを加盟させ、なんと日本の鳩山由紀夫元首相を顧問に担ぎ上げた。日本なら鳩山さんというだけで信用度は分かるが、スリランカから見れば信用ある人に見えるのだろう。ムーディーズはAAAの格付けを与えているが、中国は発表していないがAIIBの金庫には殆ど金が入っていないという噂もある。何を元手に商売をやっているか、「権力」である。しかるべき人に「出せ」と命ずれば断れない仕組みが金融界に出来上がっている。

 共産党は党の命令通りに組織が動くように民間企業の内部に小さな「司令部」を設置する義務を課している。この司令部の権威は社長を上回ると言われている。

 米国や日本で株式を上場したければ、経理状況をいつでも正確に証明できなければならない。5、6年前、よく中国株について「買って大丈夫か?」と聞かれたが、経理内容が正確に分からないのに、信用を判定できるわけがない。

 例えば、シンガポールの国営企業をWTO並みの扱いにするには ①なるべく民営化せよ、②それが無理ならハンデを払えと、今でも民営会社とは差をつけている。どう扱うかについては、トランプ氏の言い分を相当に聞かねばならないのではないか。中国だけを有利に扱う悪例を先人たちが定着させた。後に続く大国、インドに負のハンデをつける訳にはいかない。新制度の検討に入る前に、共産主義体制のやり方と自由主義体制のやり方をそれぞれ定義付け、公平になるようにハンデをつけなければならない。トランプ氏なければ、とてつもない不公平が続き、悪慣行で自由社会は潰れていただろう。

(令和元年6月12日付静岡新聞『論壇』から転載)

屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生れ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、ローマ特派員、官邸クラブキャップ、ジュネーブ特派員、解説委員兼編集委員を歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。「教科書改善の会」(改正教育基本法に基づく教科書改善を進める有識者の会)代表世話人。
著書に『安倍外交で日本は強くなる』『安倍晋三興国論』(海竜社)、『私の喧嘩作法』(新潮社)、『官僚亡国論』(新潮社)、『なぜ中韓になめられるのか』(扶桑社)、『立ち直れるか日本の政治』(海竜社)、『JAL再生の嘘』・『日本人としてこれだけは学んでおきたい政治の授業』(PHP研究所)など多数。

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