記事

日本の会議はなぜ"独り言大会"になるのか

2/2

「全会一致」は、世界では避けるべきこと

ここで問うべきは、全会一致という決定が、「意見の対立がある状態が自然な状態である」という認識を前提に置く欧米で理解され、受け入れられるかという問題です。

全会一致(衆議一決)は、欧米社会では、社会心理学でいう斉一性(uniformity)の原理(ある特定の集団が集団内において、反論や異論などの存在を容認せずに、ある特定の方向に集団の意向が収斂していく状況を示す。斉一性の原理は、少数意見の存在を認める多数決の原則で意思決定を行う場には起こらず、全会一致を志向する意思決定の過程において発生する)と認識され、ファシズムに通じるものとして、民主主義社会において回避すべきものと認識されています。

筆者の知る限り、英語で「unanimous(ly)(全会一致)」という表現を使うのは、国連などの国際機関で一国の他国への侵略などへの非難決議や核軍縮など反論の余地のない決議などに見られるように、相当強い例外的な表現です。

全会一致(衆議一決)という斉一性の原理が働く状況を、欧米的な視点で捉えると、必ず「自薦の用心棒〈self-appointed mind-guards〉」が現れます。「自薦の用心棒」とは、社会心理学の集団思考の研究領域において指摘される事象の1つで、社会の影響や、集団心理の結果として成立した規範(自明なマジョリティ)を擁護しようとする行為者、または存在を意味します。

反論や異論を封殺するために、マイノリティである発言者を貶めるネガティブ・キャンペーン等を行う個人に還元できる「自薦の用心棒」という明確な対象が存在するのです。

日本人は“同僚からの圧力”にくみしやすい

しかし、日本社会における、「私」が「われわれ」に転じる斉一性の原理の起動のメカニズムは、「自薦の用心棒」が個人に還元できる欧米とは異なり、各自の意見や考えが、「自ず」と「ある」しかるべき点に収斂されていく「力」が働き、「私」は、気がつけば、「われわれ」へと変容するのです。この「力」の起点は、欧米における「自薦の用心棒」のように特定の個人ではありません。

それでは、この「力」とは何でしょうか。多くの日本人は、流れにあらがえないその「場」の雰囲気(最近は「空気」)であると答えるでしょう。この「場」と「空気」とは、突き詰めると何でしょうか。少し難しいですが、それは、「間主観性」に対する個人の捉え方の問題に行きつくと言えそうです。ご存じの読者もいると思いますが、「間主観性」は、現象学で高名な哲学者であるフッサールが提示した概念で、複数の個の主観の共同化、相互主体性ともいわれます。

主体としての個の主観の超越性が勝る欧米では、この「間主観性」に無条件に従うことを潔しとしないので、その存在を「peer pressure〈同僚からの圧力〉」などと表現しますが、日本人は、この「間主観性」が「根源的な自発性」、つまり、一人称性を持つかのように認識し、これに従うことに抵抗がありません。

むしろ「思いの共有化」と表現し、良いものと理解して、あたかも自分と同列の主体であるかのように認める傾向が強いのです。これが「私」から「われわれ」への不可逆な転換点であり、これに慣れ親しんでいる日本人は、「われわれ」を多用し、英語でも、「We」を使うことが多いのではないでしょうか。

説得力よりも「納得」しないと合意しない

小笠原泰『わが子を「居心地の悪い場所」に送り出せ 時代に先駆け多様なキャリアから学んだ「体験的サバイバル戦略」』(プレジデント社)

もう一つ、日本人の「議論」と欧米人の「議論」の違いを紹介したいと思います。日本人の間でよく耳にする「理屈はわかったが(説得されたが)、納得しかねる」という決まり文句があります。論理的な整合性のある正しさ(道理にかなっている)を示す「正当性」だけでなく、それが「正しい」手続きによって形成されたのかという「正統性」の要素を満たさないと、「説得」はできても「納得」には至らないという意味でしょう。

筆者の知る限り、欧米の「議論」では、「説得」されたならば、つまり、相手の意見の論理的な「正当性」を認めれば、おおむね「納得」する、つまり、「議論」の経緯の「正統性」は問題にはしませんが、日本の場合は、むしろ「納得」、すなわち「正統性」の方が、「説得」、すなわち「正当性」に勝るのではないでしょうか。故に、日本では、「説得」されても、最後に「納得」しないと「ちゃぶ台返し」をするので、欧米的な「議論」を通して結論を導き出すことが難しく、本質的な合意に至らないのではないかと思います。

話をシンプルにするために、多少デフォルメしていますが、グローバル化する社会で生き抜くことを考える必要のある若い世代は、日本の「議論」と欧米の「議論」の違いを十分に意識する必要があります。多様性を前提に置くグローバル化する社会で必要とされる「議論」が説得重視の「議論」であることは言うまでもありません。

説得重視の論法を身につけるには

それを身につけるためには、

・社会の多様性を認め、
・相手との意見の相違を前提に、
・自らの明確な意見を持ち、
・相手を特定して、自分の意見を述べ、
・agree to disagree(不同意に同意)を許容し、つまり相手との対立点を認識し、
・対話を通して、新しい、より良い意見を得られる可能性を追求し、
・その過程で、無理に相手の同意、すなわち全会一致は求めようとしない

ことを肝に銘じる必要があります。

その第一歩として重要なことは、「正解」を述べることではなく、人に伝えるべき「自分の意見」を持つことです。グローバル化する社会で必要とされる説得重視の「議論」において相手が聞きたいのは、あなたの「意見」であって、「正解」ではないことを理解してください。まずは、「われわれ」という言葉を意識して使わないようにすることを試みてほしいと思います。

----------

小笠原 泰(おがさわら・やすし)
明治大学国際日本学部教授・トゥールーズ第1大学客員教授
1957年生まれ。東京大学卒、シカゴ大学国際政治経済学・経営学修士。McKinsey&Co.、Volkswagen本社、Cargill本社、同オランダ、同イギリス法人勤務を経てNTTデータ研究所へ。同社パートナーを経て2009年4月より現職。主著に『CNC ネットワーク革命』『日本的改革の探求』『日本型イノベーションのすすめ』『なんとなく日本人』『2050 老人大国の現実』など。

----------

(明治大学国際日本学部教授・トゥールーズ第1大学客員教授 小笠原 泰 写真=iStock.com)

あわせて読みたい

「日本社会」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    コロナ対策は菅内閣にも直結 東京の新規感染者数が5000人超えなら菅内閣はもたない

    田原総一朗

    07月28日 14:43

  2. 2

    東京3000人は五輪強行開催によるモラル崩壊の証。もう誰も自粛しない

    かさこ

    07月28日 08:46

  3. 3

    西村大臣の酒類販売事業者への要請撤回 首相官邸の独断に官僚からも疑問の声

    舛添要一

    07月28日 08:34

  4. 4

    「きれいごとだけでは稼げない」週刊文春が不倫報道をやめない本当の理由

    PRESIDENT Online

    07月28日 12:30

  5. 5

    上司も部下も知っておきたい 「1on1」を機能させるためのコツ

    ミナベトモミ

    07月28日 12:00

  6. 6

    ロッキンは中止する必要があったのか?〜7 /8の議院運営委員会で西村大臣に質疑を行いました〜

    山田太郎

    07月28日 09:58

  7. 7

    テスラのマスク氏、豪邸売払い、500万円の狭小住宅暮らし!

    島田範正

    07月28日 15:45

  8. 8

    逮捕されても臆することなく、取材を続けよう〜田原総一朗インタビュー

    田原総一朗

    07月28日 08:07

  9. 9

    東京都の感染者数が3177人に いよいよ菅政権と小池都政の人災であることは明白

    井上哲士

    07月28日 18:48

  10. 10

    首都圏3県の緊急事態宣言、要請あれば緊張感持って連携=官房長官

    ロイター

    07月28日 20:24

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。