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社会に必要な仕事よりも必要でない仕事の方が、なぜ給料が高いのか? - 第92回山口周氏(後編)

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大学で哲学を学び、大学院で美術史を専攻した山口周氏は、経営コンサルタントに転身する前、大手広告代理店でCM制作に携わっていた。自らの仕事を「クソの役にも立たない仕事」と揶揄する山口氏だが、その発言の一つひとつが、西欧文化に根ざした深い教養と独自の鋭い時代感覚に満ちている。この後編では、山口氏のキャリア観を中心に話を聞きながら、これからの時代を生き抜くヒントを探っていく。

取材・文/盛田栄一 撮影/公家勇人

金融コンサルタントがこの世から消えても、社会は1ミリも困らない

みんなの介護 医療の発達で日本人の平均寿命は着実に延び、ここ数年、「人生100年時代」というフレーズが世間を賑わすようになりました。私たちが本当に100歳まで生きるとすると、50歳で企業を早期退職した場合に残り50年、60歳で定年退職しても残り40年という長い年月を生きることになります。その一方、AI(人工知能)の進歩はめざましく、これから多くの仕事がAIに取って代わられるとの予測もあります。これからの日本人は、「働く」ことに対して、どのような意識を持つべきでしょうか?山口さんのキャリア観をお聞かせください。

山口 また、ずいぶん大きなテーマですね…。ちょっと、関係ないところから話し始めてもいいでしょうか?

まだ翻訳されてないのですが、昨年、ロンドン大学の人類学者であるデヴィッド・グレーバーが『Bullshit Jobs:A Theory』という本を刊行しました。「ブルシット・ジョブズ」、日本語に訳せば、「クソ仕事の理論」ですね。その本の中に、興味深い記述がありました。

現代の都市では、ゴミ収集車が1週間来なくなるだけで、町中にゴミがあふれて大変なことになり、都市機能はほぼ崩壊します。一方、現代の東京で最も高給取りなのは外資系の金融コンサルタントだと思いますが、彼らが1ヵ月間この世からいなくなっても、世の中的には1ミリも困りません。

つまり、どういうことかというと、今の私たちの社会では、最も役に立たない仕事に、最も高い給料が支払われているということ。その一方で、「ゴミ収拾」という最も必要とされている仕事には、おそらく必要最低限の給料しか支払われていない。これって、明らかにおかしいですよね。

みんなの介護 そうか。言われてみると、確かにおかしいですね。

山口 介護の仕事についてもそうですね。高齢化社会を迎えた今、介護は最も必要とされている仕事のひとつなのに、それに相応しい給料が支払われているとは思えない。おかしな話です。「コンサルタントで高給を取っているおまえが言うな!」と言われるかも知れませんが(笑)。

日本政府には、所得税の税率を上げてもいいから、社会に必要な仕事にお金が回るようにしてほしい

みんなの介護 山口さんは現在、組織・人材開発のコンサルタントとしても活動されていますが、キャリアのスタートは大手広告代理店でしたね。

山口 はい。私が新卒入社でキャリアをスタートさせたのは、電通という広告会社です。今でもそうかもしれませんが、当時は日本で最も給料の高い会社と言われていました。

「なにかがおかしい」と思い始めたのは、入社して4〜5年目の頃ですね。当時私は家電メーカーのCMを制作していましたが、クライアントの人たちより、なぜか私のほうが高い給料をもらっていました。

それで、「あれ?」と思ったんです。冷蔵庫や洗濯機など社会の役に立つ製品を作っている人たちより、社会の役に立たないCMを作っている自分のほうが、なぜ給料が高いのか?私は学生時代、哲学と美術史を専攻していて、経済についてはきちんと勉強してこなかった。そこで、経済を改めて勉強してみようと思いました。

みんなの介護 経済学を学ばれて、疑問は解消したんですか?

山口 解消しませんでした(笑)。「市場原理に任せておくと、どうもそうなるみたいだ」とわかったくらいで…。

ただ、私なりに結論は出しました。CMを乗せる電波は、希少な天然資源ですよね。使える周波数帯は厳格に決まっていて、誰もが自由に使えるものではない。そういう意味では、石油と同じ天然資源なんです。電通は、その資源をがっちり押さえている。だからみんな、電通にお金を払わざるを得ない。アラブの産油国が経済的に潤うのと、理屈は同じです。

そんな風に認識していたので、インターネットの普及に合わせて、私は電通を退社しました。ネットが普及すれば、近い将来「電波」というメディアの希少性は失われると思ったからです。つまり、電通の“油田”は枯渇する、と。案の定、その後の電通は業績を悪化させています。

話がすっかりそれてしまいました。ここで私が言いたいのは、社会の役に立たず、何の価値も生み出していない者に高い給料が支払われるのはおかしい、ということです。ただ、経済の市場原理に任せていると、必要性や有用性に関係なく、どうしても希少なもののほうにお金が回ってしまう。いい加減、この仕組みは改められるべきですね。

政府はこの仕組みをこのまま放置するのではなく、世の中に必要な仕事、例えば介護の仕事にもっとお金が回るよう、市場原理にメスを入れるべき。それが難しければ、必要な仕事の待遇改善に思い切った助成金を付けるべきです。

みんなの介護 介護スタッフの待遇改善に政府のお金を使う場合、財源が問題になりそうですね。

山口 必要な分だけ、税金を上げればいいのではないでしょうか。日本の所得税の最高税率は45%、消費税は2019年10月から10%ですが、北欧諸国では所得税50〜60%、消費税20〜25%が当たり前。だから日本も、それこそ外資系金融コンサルタントの人たちからは70%くらい徴収すればいいんです。

「税率を上げろ」と言うと、「優秀な企業や人材が海外に流出して産業の空洞化を招く」なんて言い出す人が出てきますが、出ていきたい人には出ていってもらって構いません。空洞化も大いに結構。私はちくわ、大好きですから(笑)。

その代わり、北欧諸国のようにセーフティネットをしっかり張って、年を取っても安心して暮らせる国にしてほしい。将来、私が要介護になったら、仕事に誇りを持ち、経済的にも十分満たされている介護スタッフの方のお世話になりたいと思います。

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