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組織をよくするためには、関係性の質を良くするしかない - 第92回山口周氏(中編)

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山口周氏は、世界49ヵ国に87ヵ所のオフィスを構える外資系コンサルティング会社コーン・フェリー・ヘイグループの「日本法人の顔」である。専門は組織開発と人材育成だ。そこで、この中編では、現在疲弊している介護ビジネスの現場をどう立て直すべきか、組織改革について「無料で」コンサルティングしてもらった。高齢者施設の関係者には、ぜひとも読んでいただきたい。

取材・文/盛田栄一 撮影/公家勇人

職員が相互に人事評価し合うシステムを導入し、働き方と定着率を大きく改善させた病院がある

みんなの介護 冒頭でもお話ししましたが、介護の現場は今、疲弊しています。人材が確保できず、やむなく廃業する施設運営会社も増加中です。そこで、組織開発や人材育成のコンサルティングを手がけている山口さんに伺います。スタッフが定着しやすい組織を作るには、どうすれば良いのでしょうか?

山口 数年前、終末期医療で有名な青梅慶友病院の理事長にお話を聞く機会がありました。今では入院希望の患者さんが数多く順番待ちしている人気の病院ですが、かつては看護師がなかなか定着せず、それも、残って欲しい看護師に限って辞めてしまうなど、人事労務面で多くの問題を抱えていたそうです。

そこで理事長が断行したのは、人事評価のシステムを一変すること。それまでの、ごく一般的な「上司による人事評価」を取りやめ、「職員相互の人事評価」に切り替えました。例えば、病院に200人の看護師がいるとすれば、当人以外の199人に、「そのご当人に病院に残って欲しいかどうか」、投票してもらうわけです。

すると、何人かの職員の評価が激変したとか。上司からは「良くやっている」と高く評価されていたのに、多くの職員からは「一緒に働きたくない」とダメ出しされる人が何人も出てきたのです。

そういう人はつまり、裏表のある人だったんですね。上司の前では一生懸命に働き、患者さんにもやさしく接しているけど、上司のいないところでは同僚に非協力的で、しかも患者さんをぞんざいに扱うような人だったのです。

みんなの介護 わりと、ありがちなパターンかもしれませんね。

山口 「職員が相互に人事評価し合う」という青梅慶友病院の人事評価システムは、一般的な組織から見れば、確かに異色です。しかし、実は極めて理にかなっている評価システムとも言えます。なぜなら、その人の「価値が生まれる瞬間」できちんと評価しているから。

「看護師として働いている人」の価値が生まれるのは、上司であるドクターの診療行為を補助しているとき、だけではありません。終末期医療の病院であれば、「患者さんのお世話をしているとき」が最大の価値創出の瞬間のはず。その瞬間を誰よりも目撃しているのは、一緒に働いている看護師ですね。

だとすれば、「価値の生まれる瞬間」のごく一部しか見ていない上司の目よりも、同僚たちの目のほうがずっと確かであり、より公正で正確な評価を下せるはずなんです。

こうして人事評価システムを改革した結果、青梅慶友病院は多くの看護師にとって働きやすい職場になり、看護師の定着率が大きく改善し、それが患者さんに対するサービスの充実につながり、人気の終末期病院へと生まれ変わりました。

成功例を丸ごとコピーするだけでは100%失敗する

みんなの介護 人事評価の仕組みを変えれば、スタッフの離職率を大幅に低減できるケースもある、ということですね。

山口 勘違いしないでいただきたいのは、今お話ししたのはあくまでも青梅慶友病院のケースだということ。ひとつの参考例、成功例に過ぎません。だから、このシステムをそのままコピーして別の組織に導入しても、ほぼ100%失敗するでしょう。ある組織をどうやって改善するかは、やはり当事者自身が考え、実行しなければなりません。

とはいえ、まるっきりヒントがないわけでもないんですよ。私自身、ひとつの真理だと考えているのは、「組織を良くするためには、関係性の質を良くするしかない」ということ。これは、人事や組織論の世界ではあまり言われていなんですが、「関係性の質」は重要なキーワードだと思います。

みんなの介護 そのキーワードは、先ほどの青梅慶友病院のケースにも当てはまるのでしょうか?

山口 当てはまります。通常の人事評価は、従業員一人ひとりの「能力」を評価しますね。それに対して、青梅慶友病院が職員相互に人事考課させたのは、一人の「能力」ではなく、人と人との「関係性」に着目したから。

「組織」は「コンピュータ」と同じです。一人ひとりがどんなに高い能力を持っていても、その一人ひとりの関係性が良くなければ、組織としてパフォーマンスを発揮できません。なぜなら、関係性が切れている組織は、プリント基板の回路が切れているコンピュータと同じで、組織として機能しないから。

青梅慶友病院の例をコンピュータ用語に言い換えると、一つひとつのノード(結節点)の能力評価はさておき、ネットワークそのものの質を良くしようという試み。能力は高くなくても良いから、同僚と円滑なコミュニケーションが取れて一致協力できる人、患者さんときちんと向き合える人たちばかりに残ってもらえば、病院全体のパフォーマンスが上がる、と考えたわけですね。

みんなの介護 その試みが、ずばりハマったんですね?

山口 そうですね。人事評価のシステムを改善した結果、病院で働く看護師や職員の満足度も上がり、病院での診療サービスも患者さんに評価されるようになって、病院経営も安定したと、理事長さんが話してくれました。

繰り返しになりますが、今お話ししたのは、あくまで参考例です。この病院では人事評価システムの見直しが有効でしたが、他の組織では、手をつけるところはそこではないかもしれない。単に形だけ真似てもダメです。スタッフの「関係性の質」を改善するにはどうすれば良いのか、それぞれの立場で考えてください。答えはあなたの外にあるのではなく、あなたの目の前にあります。なんだか、道元禅師みたいな物言いになってしまいましたが(笑)。

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