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麻生財務相「ファンダメンタルズ」発言でみえた経済不健全化(浜矩子)

このところ、麻生太郎財務大臣が日本経済のファンダメンタルズにしばしば言及する。麻生氏によれば、「日本経済のファンダメンタルズはしっかりしている」のだそうだ。5月14日の参院財政金融委員会でそう言った。21日の閣議後記者会見でも、これを言った。

経済のファンダメンタルズとは、経済活動の基礎的な全般状況だ。経済の基礎体力と言い換えてもいい。やれ米中通商戦争だ、イギリスのEU離脱だ、欧州における右翼排外主義勢力の台頭だと、グローバルな世の中の雲行きは怪しげだ。だが、日本経済の健康診断結果は良好だから、大丈夫。こういうわけだ。

だが、実はあまり大丈夫ではなさそうだ。そう思われる理由が、まさにこのファンダメンタルズという言葉にある。政治家が「わが国の経済ファンダメンタルズには問題がない」とか、「わが国の経済ファンダメンタルズは健全」などという形でファンダメンタルズに言及する時こそ、実のところは最も危ない。

彼らは、とんでもない事態が発生する前夜に、驚くべきブレなさをもって必ずファンダメンタルズは大丈夫だと言う。

1929年10月24日にニューヨーク株が大暴落し、世界大恐慌の幕が開いた。世に言う「ブラック・サースディ(暗黒の木曜日)」である。この日に向けて経済的暗雲垂れ込める中、第30代アメリカ大統領のカルビン・クーリッジが「米国の経済ファンダメンタルズは健全そのものである」と言ってのけた。

1987年10月19日にも、ニューヨーク株が大崩落した。「ブラック・マンディ(暗黒の月曜日)」である。この時にも、当日にいたる過程でレーガン政権の中から「経済のファンダメンタルズはまったくもって健全」というコメントが出た。

日本のバブル崩壊時にも、それに先立って、宮澤喜一大蔵大臣(当時)が「日本経済のファンダメンタルズは揺るぎない」と宣言していた。リーマン・ショック発生前夜にも、ジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)が「ファンダメンタルズは健全」発言をしている。

こんな具合だ。つまり、歴史的・体験的にみて、「ファンダメンタルズは健全」が出たら、危ないと思え、ということである。もともと、経済ファンダメンタルズなるものに厳密な定義があるわけではない。だから他に確信をもって健全だと言えるものが何もない時に、政治家たちがファンダメンタルズを持ち出して逃げ切ろうとするのである。

「ファンダメンタルズは健全」という言い方は、暗に、ファンダメンタルズではない部分は健全ではない、ということを示唆している。

だが、その不健全部分はファンダメンタルズではないから心配しないでいい、というニュアンスもそこには漂っている。こういうのを、嘘をつかずに本当のことを言わない高等戦術と呼ぶべきだろう。この手の手法に引っ掛かってはいけない。

グローバル経済も日本経済も、実は最もファンダメンタルなところで不健全化していると思う。次はトランプ大統領がファンダメンタルズを持ち出すかもしれない。

(はま のりこ・エコノミスト。2019年5月31日号)

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