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「ガバナンス強化」は誰のため?

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日産が今日付で出したリリース*3では、「一部メディア」の報道に関し、

「本件、ルノーからそれに関する書簡が届いたことは事実です。」

とストレートに認めた上で*4、「ガバナンス改善特別委員会」での議論の経緯等を紹介し、その上で、

「その後、同委員会からの提言をもとに、指名委員会等設置会社に移行することを当社取締役会において全会一致で決議しています。」
「取締役会の中には、ルノー指名による代表者も加わり、議論を尽くし、取締役全員が賛同していただいていたにもかかわらず、ルノーからこのような意向が示されたことは大変な驚きであります。」
「今回のルノーの意向は、コーポレートガバナンス強化の動きに完全に逆行するものであり、誠に遺憾です。」
(強調筆者、以下同じ。)

と、これまたかなり強いトーンで驚愕と遺憾の意を示している。

確かに、4月の臨時株主総会で西川社長の話を聞いたときも、出席した多くの株主は、今回付議されている方向での「統治改革」が既定路線になっていると受け止めたはずだし*5、それを〝何で今更ちゃぶ台ひっくり返すんだ!”というのが、日産の現経営陣の素直な感情なのだろう。

そして、自分も同じ立場なら、当然、同じ感情を抱くことになると思うだけれど・・・


そもそも近年、あちこちで言われている「監督と執行の分離」について、「その目的は何か?」と問われれば、「企業経営の客観性と透明性の確保、ひいては、ステークホルダーの利益保護」と答えるのが模範解答だ、ということは、あえて説明するまでもないだろう。

そして、「(会社法の観点から)企業にとっての最大のステークホルダーは?」と問われれば、「株主」と答えるのが、これまた模範解答、ということになるはず*6

だが、そう考えていくと、今回の件で反旗を翻したルノーもまた「株主」、それも、43%を保有し、対象会社の経営如何によって大きな影響を受ける「大株主」である。

日産の前記プレスリリースは、

すべての株主利益のために、ガバナンス強化のための指名委員会等設置会社への移行の必要性について、理解が得られるよう最善の努力をしていく所存です。」

と、「ルノー以外」の株主の利益も配慮して「ガバナンス強化」を行うことを強調しているように読めるし、実際、日産経営陣が意識したのは、相対的に保有株式数は少なくても「声」は大きい機関投資家や、マーケットで株式を売買する一般株主だったのだろうと思う*7

ただ、ルノーにしてみれば、そうでなくても”アウェー”な異国の出資先で、「『独立役員』といえどもその国の業務執行者たちが選んだ人々(しかも7名中4名は「異国」の人々である)がボードや各委員会での主導権を握り、自分たちの送り込んだ取締役の権限は制約される」となれば、それに抗したいと考えるのは決して不思議なことではない。

ましてや、彼らが本拠とする欧州、特に大陸側では、閉鎖会社だろうが公開会社だろうが、出資者である株主が指名した取締役は非常に大きな権限を持っていることが多いし、そういう立場であっても経営の監督は果たせる(むしろ大株主だからこそ、取締役会を通じて適切なモニタリングをしなければならない、という考え方が定着している)、という文化が染みついているから、「なぜ大株主であるにもかかわらず、自分たちの指名した取締役が取締役会の中枢から外されるのだ?」という疑問は当然湧いてくるはず。

本来、「業務執行者」と「株主」という二者間の緊張関係を規律するために作られている制度を、「業務執行者」、「筆頭株主」、「(それ以外の)一般株主」という三角関係が生じている会社が導入しようとしたがために生じてしまったミスマッチ、といえばそれまでなのだが、「ガバナンス強化」が誰のために行われるものなのか? という本質的な議論にも遡る話だけに、今後の行く末と合わせて気になるところはどうしても出てきてしまうのである。

*1:この考え方に対しては自分は非常に懐疑的なのだが、それはまた改めて別の機会に論じてみることにしたい。

*2:コーポレート・ガバナンス体制強化について - 日産自動車ニュースルーム

*3:ルノーによる当社株主総会での一部議案決議棄権に関する報道について - 日産自動車ニュースルーム

*4:ここまでストレートに報道内容を認めるプレスリリース、というのもなかなか珍しいな、と個人的には思うところ。

*5:日産自動車臨時株主総会に出席して~「カルロス・ゴーン時代」の終焉とその先にあるもの。 - 企業法務戦士の雑感も参照。

*6:もちろん、より視野を広げれば、「お客さま」だったり「社員」だったり「地域社会」といった回答も当然出てきて然るべきだが、「会社法はそこまで見ていない」というのが、長年の定説だと自分は理解している。

*7:元々「指名委員会等設置会社」制度をはじめとする米国流のガバナンスシステム自体が、「マーケット」を意識して生まれてきたものだ、というのが自分の認識で、証券取引所自身が「コーポレートガバナンス・コード」を通じて「ガバナンス改革」の旗振り役となっていることからも、それは裏付けられると思っている。

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