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“子育て罰”を受ける国、日本のひとり親と貧困 - 桜井啓太 / 貧困研究、社会福祉学

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◇子どもの貧困は、大人の貧困である。

たいていの場合、子どもだけがひとり貧困になるわけではない。一緒に暮らす大人が贅沢な生活をしているのに、子どもを困窮させているのであれば、それは貧困問題ではなくネグレクトである。子どもの貧困は、子どもの親たちが貧しいからこそ生じている経済的問題である。

第一線の貧困研究者たちは、ずっと「子どもの貧困」における「罪のない子どもが貧困におかれている」という台詞の裏側に見え隠れする「大人の貧困は自己責任(罪)である」という価値に対して危惧を表明し続けてきた(注1)

(注1)松本伊智朗編(2017)『「子どもの貧困」を問いなおす:家族ジェンダーの視点から』法律文化社。編者の松本は、「子どもの貧困」が貧困問題一般から切り離され、「家族責任」や「学習支援」に矮小化されることに明確な反対を示している。

どんな個人も、貧困のままに放置されるほどの罪などない。子どもであろうと大人であろうと、たとえ自業自得にみえたとしても、個人の責任と貧困を結びつけてはならない。

◇大人の貧困は、労働の貧困であり、社会保障の貧困である。

ひとりの成人が、フルタイムで働いて、自分ひとり食べることにカツカツで、家族を築き、子どもを育てていくことができないのであれば、それは労働と社会保障が役割を果たしていない。「働けばラクになる」をあっさり否定したのが「ワーキングプア(働く貧困層)」の存在であったが、残念ながらそのような“労働”はすでにありふれたものになっている。

貧困リスクを事前防止・事後救済するために近代国家が編み出したのが“社会保障”であったが、先進国にいまなお残る貧困の実態が示すように、充分に機能していない場面もある。それは結局、労働と社会保障が貧困(貧弱)であるということである。

◇労働と社会保障の貧困は、私たちの社会の貧困である。

人を貧困に縛りつける労働のかたちが是正されず、困窮を救えない貧弱な社会保障しか持てないということは、それは私たちの社会が貧困だからである(カネ(財源)がないというのとは少し違う)。労働や社会保障制度(家族政策含む)は、私たちの社会を映し出す鏡でもある。私たちはみなで共有する価値観以上の政治もシステムも持つことができない。

ここでは、子どもの貧困であり、大人の貧困であり、しかし結局は、労働と社会保障、家族政策――つまり私たちの社会の貧困である「ひとり親世帯(シングルマザー)の貧困」(注2)について考える。

(注2)「○○の貧困」として、ある特定の集団をカテゴライズして強調する手法は、本来とても危険なものである。特定の対象の貧困を強調することで、他の貧困が見えなくなってしまう(「子どもの貧困」が「親の貧困」を見えなくしたように)。「ひとり親(シングルマザー)の貧困」でも、母子家庭に限らず父子家庭や父母以外の養育者の家庭もある。また、日本において、確かにひとり親世帯は経済的にもっとも困難な状況に置かれているが、だからといって二人親世帯(の子ども)が安泰なわけではない。単純な母数で考えると、「子どもの貧困」に占める割合は、二人親世帯の子どもの方が大きい(阿部彩・鈴木大介(2018)『貧困を救えない国 日本』PHP新書:35-40)。

1.ひとり親世帯と貧困

しばしば紹介される子どもの貧困率(相対的貧困率)は、2015年時点で13.9%、7人に1人が貧困である。しかし、同じ調査のひとり親世帯の貧困率は50.8%(2人に1人)に及ぶ。先進諸国において、日本はひとり親世帯の貧困率が突出して高い(畠山2017:図3)(注3)。シングルマザーに猛烈に厳しい国といわれる所以である。

(注3)2017.04.10 Mon “ひとり親世帯”の貧困緩和策――OECD諸国との比較から特徴を捉える 畠山勝太 / 国際教育開発

人を貧困に陥らせる代表的リスクには、失業や老齢、疾病などがあるが、そのなかに「離死別」がある。離婚や死別、未婚の出産により、子育て(ケア)と就労(稼得)とを養育者1人で担うひとり親世帯は、二人親世帯よりも貧困に陥りやすい。その上、シングルマザーは、就労収入の男女差、性別役割分業という家族規範・ジェンダーの問題も含み、より貧困が深化しやすい。ただ、この貧困リスクは、労働環境・社会保障制度・家族政策によって、その程度を軽減することも悪化させることもできる。

例をあげて考えてみよう。大人が1人で子育てしながら生活していたとして、無償あるいは低廉な価格で提供される保育サービスがあり、男女差・育児差のない生活賃金が支払われるディーセントな仕事に就き、経済的負担を補う公的な家族手当・住宅手当があり、教育費に対する経済的な心配のいらない――そういった社会であれば、1人で子どもを育てても貧困にならない。人が生活するなかで生じるリスクを社会で分かち合う(社会化する)ことが可能な社会においては、「ひとり親」は貧困リスクではなくなる。

先の例と逆に、高額で供給量の少ない保育サービス、男女差別・育児差別の激しい雇用慣行、低廉でとても暮らしていけない家族手当、高騰する教育費、子育て世帯を優遇しない税制度――このような社会であれば、「ひとり親」は間違いなくリスクであり、1人で子育てすることはまるで罰を受けるようなものであろう。

2.「子どもの貧困率」を軽減する社会政策(OECDの分析結果から)

(1)2つのシナリオ:“就労支援” vs “子育てペナルティの除去”

労働や社会保障、家族制度は、国・地域によってそれぞれ独自の展開を成しており、リスクの社会化に成功している国と失敗している国がある。初期条件が違うので、ある国において貧困軽減に有効な方策が、他の国でも同じように有効だとは言い切れない。ある国では就労支援(=仕事に就いてもらう)が貧困削減に効果的かもしれないし、他の国では社会保障の充実が有効であるかもしれない、雇用慣行における差別の解消が急務かもしれない。

OECDが2018年10月に発行したワーキングペーパー『Child poverty in the OECD』(注4)は、まさにどのような社会政策が「子どもの貧困」を軽減できるかについて、国ごとに分析しており、貧困を削減するためのヒントを与えてくれる。今回はワーキングペーパーのなかで、親の就業状況の改善が、子どもの貧困に与える影響を分析した箇所(注5)を取り上げよう。

(注4)Thévenon, O. et al. (2018), “Child poverty in the OECD:Trends, determinants and policies to tackle it”, OECD Social,Employment and Migration Working Papers, No. 218, OECD Publishing, Paris. URL:https://doi.org/10.1787/c69de229-en

(注5)Ibid., pp.66-72. 「4.2節 Raising parental employment: what effect on child poverty?」を参照している。

ワーキングペーパーでは、ひとり親家庭の貧困解消のための社会政策として、2つのシナリオを想定している。1つは、「失業を無くす」という“就業率の向上”(≒仕事に就かせる)に特化した政策、もう1つは、「子育てによる社会的不利(チャイルド・ペナルティ)を除去する」政策である。

「チャイルド・ペナルティ child penalty」について補足しておこう。社会学・労働経済学の用語で、子育てをするワーキングマザーと子どものいない女性の賃金格差を説明する「母親ペナルティ motherhood penalty」と同種の概念である。出産によるキャリアの中断(離職・転職)、再就職後の非正規雇用化、昇進面における不平等な取り扱いなどにより、子どもを持つ親と子どものいない成人には、賃金格差が存在し、それはそのまま貧困率の違いにあらわれる。このように子どもを育てることによって背負う社会的(特に賃金上の)不利を“チャイルド・ペナルティ”と呼ぶ。もちろんペナルティは労働市場における男女の賃金格差や、雇用慣行、育児支援制度によって国ごとにその度合いが異なる。

(2)“就業率向上”シナリオ

はじめに、“就業率の向上”に特化した場合として、「ひとり親世帯が全て就業した」という想定(シナリオ)における貧困率の推移が図1である。これは親の就業が「子どもの貧困率」に及ぼす影響を測定する目的で分析している。

図1 ひとり親世帯の貧困率に与える労働政策の影響(就業率向上シナリオ)

出所:Ibid.,p.71 Table5 を基に作成。

注:元データはOECD Income Distribution Databaseを基にシミュレーションしている(図2、表1も同様)。

青色の棒グラフは、ひとり親世帯の相対的貧困率の直近値であり、赤色の棒グラフは、非就業のひとり親世帯をなくした――つまり、ひとり親世帯がみな仕事をしたと仮定した場合の貧困率の予測値である。

ひとり親世帯の現在の貧困率(青色)が、50%を越えているのは日本だけという恥ずべき事実ももちろん目立つが、注目すべきはシミュレート後の赤色の棒グラフである。OECD加盟国のどの国においても、すべてのひとり親が仕事をしたシナリオでは、貧困率は大きく軽減(改善)している。ここからワーキングペーパーでは、「貧困家庭の親の就業状況の改善は、貧困の大幅な削減に効果的である」と結んでいる。

この結論が成り立たない国が一つだけある、日本である。日本の場合、ひとり親世帯の親がみな就業するというシナリオでは、貧困率が逆に悪化する(54.7%→56.0%)。重ねていうが、働くことが貧困改善につながらず、むしろ悪化する国は日本だけである。【次ページにつづく】

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