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事故を機に、利用者目線で路線バスとツアーバスを比較する(その2)

 さて、この記事がアップされる時刻には、私は三宮で博多行の高速ツアーバスに乗り、岡山県にさしかかっている頃と思われます。
 安かろう悪かろうにダマされるアホ? そのご批判は甘受いたします。

 さて、前回に引き続き、高速路線バスと高速ツアーバスの比較。
 前回は「選択肢の多さ」「予約・決済システムの便利さ」について書きましたので、今回は3項目め、料金の安さから。

2.高速路線バスと高速ツアーバス、徹底比較!
(3)料金の安さ
 結論から言うと、報道から受ける印象と異なり、ツアーバスと路線バスの値段はあまり変わりません

 例えば、GWの翌週(5/7(月)~5/13(日))の東京-大阪便の価格は、5月3日時点ではこういう感じになっています。

【大阪発東京行(5/7~5/13)】

      路線1列4席  ツアー1列4席  路線1列3席  ツアー1列3席
 平日   3,500円   3,000~4,000円    6,000円   5,000~6,500円
 金曜   4,500円   5,000~5,300円    7,600円   7,800~9,000円
 土曜   4,000円   3,500~4,500円    6,700円   6,000~8,500円
 日曜   4,000円   4,000~4,800円    6,700円   6,500~8,500円

※ 路線バスはJRバス関東の「青春エコドリーム号(1列4席)」「ドリーム号(1列3席)」の早割5。
※ ツアーバスは高い方10%と安い方10%を除いた中間帯の価格(楽天トラベルでの検索)。


 平日と土曜はほぼ同じ、金曜と日曜はツアーの方が高い。
 ただこれは、東京-大阪という巨大需要に合わせて、JRバス関東が2階建ての巨大バスを投入しているという特殊事情があって、あまり一般化はできません。

[画像をブログで見る]

 次に地方路線の代表として、今回事故を起こした東京-金沢便を見てみます。

【金沢発東京行(5/7~5/13)】

     路線1列4席  ツアー1列4席  路線1列3席  ツアー1列3席
 平日   4,500円   4,000~4,800円   7,840円    5,500~6,100円
 金曜   5,000円   4,800~6,400円   7,840円    7,000~8,800円
 土曜   5,000円   4,000~5,500円   7,840円    6,500~7,800円
 日曜   5,000円   4,300~5,500円   7,840円    6,500~7,800円

※ 路線バスは「青春ドリーム金沢号(1列4席)」「ドリーム金沢号(1列3席)」の早割5。
※ ツアーバスは高い方10%と安い方10%を除いた中間帯の価格(楽天トラベルでの検索)。

 1列4席でほぼ同じ(金曜はツアーが高い)、1列3席はツアーの方が安い(金曜はほぼ同じ)。
 今回の事故で何度も報道されている「ツアーが3,500円、路線が7,840円」というのは、明らかに比較の仕方がおかしい

 1列4席の中でも例外的に安い価格と、1列3席を比べる意味がわかりません(なお、1列3席は座席の縦間隔も広く、座席数は1列4席の3/4よりさらに少ない)。
 「ツアーバスは値段が安い」→「安全を軽視しているから」という図式で簡単に報じたいのでしょうが、ツアーバスの問題はそんな単純なところにはないのです。

 なお、ツアーバスの名誉のため?に言っておくと、これらの区間で価格が互角なのは、路線バスが対抗して値下げしたから。
 ツアーバスが走っていない区間では、路線バスは殿様商売をしていて、もう少し値段は高めです。

(4)乗車のスムーズさ
 乗車のスムーズさは、明らかに路線バスの勝ち

 路線バスの乗り場は、バスターミナルの建物があるか、時刻表付きのバス停のポールが立っていて、発車時刻ギリギリにここに来ればいいという安心感があります。

 ツアーバスは、歩道とか広場に受付の係員がいるだけ。
 ぼやぼやしていると置いて行かれそうな不安感があります。

 私が乗ったことがあるのは京都駅八条口、東京駅丸の内口、新宿駅西口ですが、3か所とも、バスや係員が見つけられなくて走り回った経験があります。
 なお、専用の待合室を設けて不安感の解消に努めているツアー会社もありますが、待合室は駅からやや離れた不便な場所になってしまいがちです。

(5)所要時間の速さ
 全体をきちんと比較したことはありませんが、ツアーの方が速い気がします

 京都-東京で、ツアーバスが7時間、路線バスが7時間半ぐらい。
 それに、路線バスは早すぎると時間調整して時刻表どおりに着きますが、ツアーはそのまま早着する気がします。

 しかしこれは、私がたまたまそう感じているだけかも。
 私がツアーバスに乗るとき乗車時間の短い便を選択するからとか、京都-上田の路線バスでいつも時間調整の停車で待たされる印象が強いからとか。

 それでも、私の印象としてはツアーの勝ちということで。
 「速い=勝ち」なのか(安全を軽視している?)という疑問はありますが、ユーザーとしては速いに越したことはありません。

(6)混雑度
 私は基本的に金曜日にしか夜行バスに乗らないので、ツアーバスでも路線バスでもだいたい満席状態です。
 ただ、ツアーバスは満席に近くなるよう調整しているのに対し、路線バスは時刻表どおりに走らせるので、地方路線はたまにガラガラの「当たり」があります。


[画像をブログで見る] ←「ガラガラ」のイメージ画像

 ツアーバスに乗るときは「また満席だろうな…」と諦めていますが、路線バスのときは当たりが来ないかなぁと多少期待できます。
 ということで、混雑度は路線バスの判定勝ちで。

(7)安全・安心感
 運転手は、ツアーバスでも路線バスでもだいたい2人いました。
 1人だと不安という意識はあり、2人いるかどうかは気にしていたので覚えています。ただ、1人のときもあったような気もする。自信はありません。

 また、バスのグレードや座席の質にも、ほとんど差はありません。
 運転手もどちらも普通のバスの運転手という感じで、電車の運転士ほど訓練されて洗練された印象はないけど、トラック野郎ほど危なっかしい感じはしません。

 ということで、安全・安心感は引き分け

 ただ唯一、ツアーバスで「おいおい大丈夫か」と感じたのが、去年のGWに京都から東京まで乗ったとき。
 バスは何となく古く、運転手はかなりガサツで、道も走り慣れていない感じ。

 GWの多客期は、ふだんは使わない貸切バスの会社も使っているのでしょうね。
 今回事故を起こした「陸援隊」というバス会社も、ふだんは夜行高速バスは出していないとのこと。

 GWだけは、ツアーバスに乗るのは避けた方がいいのかもしれません
 って、まさに私はいま乗っちゃってるわけですが……。

(8)まとめ
                路線バス  ツアーバス
 選択肢の多さ         △      △
 予約システムの便利さ    ×      ◎
 料金の安さ           △      △
 乗車のスムーズさ       ◎      ×
 所要時間の速さ        ×      ○
 混雑度             ○      ×
 安全・安心感          △      △

 ユーザー目線では、路線バスとツアーバスはそれほど差はないということで。
 特に、料金にそれほど差がないという点は、強調したいと思います。

 ツアーバスが拡大しているのは、低料金で安さだけを求める客を集めているからではなく、ニーズに応じた路線の選択肢と予約システムの便利さで、利便性を向上させたからという面が大きいと思います。

3.高速バスの制度、どう改めるべきか
 いちおう、素人なりに制度論にも触れておきましょう。

(1)規制緩和それ自体は悪ではない
 報道や評論家の意見を見ていると、「規制緩和→参入増加→価格低下→安全性の低下」という図式でとらえ、規制緩和をやり玉にあげるケースも見られますね。

 私は、それはちょっと単純すぎるように思います。
 ここで言う「規制緩和」というのは、主に、国が需給状況を見て供給が足りている場合には新規参入を認めないという需給調整をやめること。

 需給調整の緩和自体は、もはや歴史的必然。国が社会のニーズの量を把握できるなんて考えは、時代遅れもはなはだしい。
 現に、規制緩和の結果、上で書いたようにユーザーから見て便利な(必ずしも安いわけではない)サービスが生まれ、新規需要が膨大に掘り起こされたわけです。

 需給規制の撤廃が問題なのではなく、新たに生まれたサービスの実態に合わせた安全規制ができていなかったことが問題なのだと思います。

(2)どのような安全規制をすべきか
 安全面で考えられる規制の選択肢は、主に3つ。

 ・運転士を1人ではなく2人にする
 ・バス会社ではなくツアー会社に安全面での責任を負わせる
 ・バスのチャーター価格に下限を設け、安く買い叩かれないようにする

 1つ目は当然必要でしょう。670kmは1人でいいとか、無理があるでしょう。
 大阪から東京まで、1回15分の休憩しか取らず、1人で絶対に9時間で走り切れとか、体調が万全で車が乗用車であっても自信がありません。

 2つ目も重要。今は、ツアー会社には責任はありません。
 確かに、新幹線とか飛行機なら、事故の責任をツアー会社が負うのは変ですが、高速ツアーバスは同じツアーでも性格が全く違います。

 1台まるごとチャーターして、チャーター価格の決定権は実質的にツアー会社の側にあるわけですからね。
 法的な意味での契約形態は新幹線や飛行機と同じでも、高速ツアーバスの社会的な実態に応じた責任分担にしないといけないと思います。

 3つ目は微妙。
 バスのチャーター価格が安すぎるのが事故の原因の1つなのは間違いありませんが、それを防ぐために、価格を公定するのがいいことかどうか。

 民間企業同士の契約の妥当な価格を、役所が決定できるものでしょうか。
 仮にできたとしても、もともと安い日(閑散期、平日)の価格をそこまで上げ、高い日(繁忙期、金曜日)の価格をそこまで下げて、セットで契約してその下限価格を守った形にするとか、いくらでも脱法行為ができてしまいます。

 1つ目と2つ目の規制をきちんとすれば、副作用も大きいチャーター価格の下限設定は必要ない気がします。

 うん、完全に素人考えですね。

 人に読ませるレベルではないですが、いちおう書いておきました。

(3)国土交通省の動向
 国土交通省では、2010年の12月から「バス事業のあり方検討会 」というのを開催しており、今年4月3日、最終報告書 をとりまとめています。

 興味のある方には読んでいただくとして、重要な部分をいくつか抜粋します。

◇ 高速ツアーバスは、高速乗合バスと実質的に同様のサービスを提供しているが、もともと道路運送法では必ずしも想定されていなかったビジネスモデルであるため、高速乗合バスに対する規制が適用されていない。

 この結果、安全性、利便性等の面で様々な問題が生じていることが指摘されており、実際の運行の過程で法令に違反したり、利用者から苦情が寄せられるケースなども生じている。

 このような状況を是正するためには、その運行の実態に応じた規制を適用することが必要であり、利用者の契約の相手方が運送事業者として安全確保の責任を負うなど、基本的に、高速乗合バスと同様の規制の下で運行が行われるべきと考えられる。(5ページ)

[画像をブログで見る]
(23ページ)

◇ このため、高速ツアーバスと高速乗合バスのそれぞれのビジネスモデルが有する優れた点を取り込み、弱点を克服することにより、安全の確保を前提としつつ、公平な競争条件の下での健全な競争を促進し、利用者が求める高速バスサービスの提供を実現することが必要である。

 この観点から、「柔軟な供給量調整」や「柔軟な価格設定」等を可能とするための高速乗合バス規制の見直しを行う必要がある。(5ページ)

 本検討会においては、それ以下の額での契約を認めない厳格な下限運賃制度の導入が一部委員から提案されたが

・B to Bの取引が中心の貸切バスに、他の消費者取引以上に厳格な規制を導入することが妥当か
・多様な取引形態やシーズナリティが存在する中で、下限とする運賃・料金水準を適切に決定することは困難
・実際に契約される運賃額を下限に張り付ける圧力が発生するおそれがある

などの意見もあった。運賃・料金制度のあり方を検討するに当たっては、定性的な議論に止まらず、取引実態を踏まえつつ、さらに客観的・定量的な検証を積み重ねていく必要がある。(15ページ)

------------------------------------------------------------------

 今回のエントリーをまとめると、次のようになるでしょうか。

規制緩和は、安いだけで劣悪なサービスを生んだのではなく、利便性の高いサービスを生んでおり、基本的には善だと思う

・規制緩和の結果生まれた実態に応じた安全規制が不足していたのは問題。運転士を2人にすることと、ツアー会社に安全の責任を負わせることが必要かなぁ

 亡くなった方々が戻ってくることはありませんが、せめて、今回の事故を教訓として、安全で便利な高速バスのシステムが生まれることを願っています

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