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日本代表デビュー、久保建英にTBSは〝横ヤリ〟を入れてしまったのか - 新田日明 (スポーツライター)

若き超新星が日本中を大きく沸かせた。サッカー日本代表が9日、エルひとめぼれスタジアム宮城でサルバドル代表に2―0で勝利。この一戦にMF久保建英(FC東京)が後半22分から途中出場し、A代表デビューを飾った。18歳5日での日本代表デビューは市川大祐氏(当時・清水エスパルス=現引退)に次いで史上2番目の若さだ。それだけにこの日の夜、日本スポーツ界の話題は〝久保フィーバー〟にほぼ独占される形となった。

2―0で迎えた後半22分から途中出場。トップ下に近い位置へ入ると、18歳とは思えぬ落ち着いた動きで確かな存在感を見せた。まず投入直後からMF堂安律(FCフローニンゲン)に鮮やかな縦パスを送り、名刺代わりの巧みなプレーで満員に膨れ上がったスタンドをどよめかせる。

そして圧巻だったのは後半28分だ。FW大迫勇也(ヴェルダー・ブレーメン)のスルーパスに素早く反応して抜け出すと、2人に囲まれながら狭い局面にも臆することなく細かいタッチでドリブル突破。そのまま抜き去ると左足を振り抜き、代表初シュートで相手ゴールを脅かした。

相手GKのセーブに阻まれたとはいえ、そのインパクトは十分だった。隙あらばゴールマウスも狙う貧欲な姿勢を見せ、森保ジャパンに必要不可欠な逸材であることをあらためて証明。そして華麗なテクニックを生み出す天才レフティーとしての巧緻性も最後まで途絶えることがなく、サムライブルーを身にまといながら随所で綺羅星のごとく光り輝いていた。

試合後は百戦錬磨のサイドバック・DF長友佑都(ガラタサライ)や、2歳年上で身内のライバルともなる堂安ら先輩たちから称賛の言葉を向けられた。森保一監督も高い評価を与えており、まずは上々デビューを飾ったと言い切っていいだろう。

だが、この日は非常に違和感を覚えたことがあった。余りにもメディア全体が久保にフォーカスし過ぎていた点だ。もちろん、自分もその1人のため深く反省しなければいけない。しかしながら、その一方で明らかに「これはやり過ぎではないか」と感じざるを得ないようなテレビ局の中継体制が敷かれていたのも事実である。この国際親善試合を独占中継したTBSだ。

異例の撮影シフトを強行

同局は試合前から途中出場でのA代表デビューが確実視されていた久保の一挙一動を追うため、ベンチ付近に〝久保カメラ〟を設置。同局のスマホ専用アプリでは「マルチアングルライブ」としてテレビ中継とは別に、ユーザーがベンチにいる久保の様子だけを常にチェック出来るように異例の撮影シフトを強行した。

過去の日本代表でもカズや中田英寿、本田圭佑ら歴代のスーパースターたちが専用カメラでフォーカスされるケースはあったにせよ、本格デビュー前の18歳に照準が定められたことは過去をさかのぼっても例がない。

果たして同局はこの〝久保カメラ〟の試みを成功ととらえているのだろうか。ちなみに久保は試合後「ベンチにばかりカメラがあって気まずかったですけど」と口にしながらも、その後は「デビュー出来たので良かったです」と白い歯をのぞかせている。18歳とは思えない、落ち着き払った大人の対応に我々メディアも救われた気分になった。

確かにこれは一部報道にもあったような「苦言」とまではいかなかったにしても、久保本人の言葉の節々から察するに内心で困惑していたのは想像に難くない。炎上したネット上の反応を見てもTBSのカメラワークに関して、

「ピッチで試合が動いている状況にもかかわらず、久保を映し出すのはおかしい」 「まるで森保ジャパンが久保のチームみたいになっている」

などといった辛らつなコメントも含め批判ばかりが散見された。その〝被害者〟となった久保には大半が同情的な声を向け、今後のフィーバーの過熱ぶりを懸念していたことはTBSも肝に銘じておくべきであろう。

同局のテレビ中継を見ていたという複数のJFA(日本サッカー協会)関係者も「今回ばかりは、ちょっと『久保、久保』で推し過ぎだったと見られても仕方がない」と苦虫を噛み潰す表情を浮かべていた。

実際に中継を見ても番組中はアナウンサー、そして解説者までも、まだ本人がベンチにいる段階にもかかわらず「久保」の名前を連呼し、テロップを出しながら再三に渡って煽り続けていた。まるで「アイドルじゃないんだから」と突っ込みをいれたくなるほど中継内では久保に対して入れ込んでいた。番組スポンサーへの〝忖度〟なのか、それともサッカーに興味のない視聴者層も意識し過ぎるが余りに「久保」にこだわっていたからなのか――。

試合は久保と同じFC東京のFW永井謙佑が日本代表の記念すべき〝令和第1号ゴール〟となる先制点を前半19分に決め、同41分にも連続でゴールネットを揺らした。4年ぶりに日の丸を背負って代表初得点を記録し、しかも2ゴール。本来ならばもっとヒーロー扱いされていいはずが、どこかTBSの中継では久保の話題にかっさらわれてしまった感があり、何とも気の毒な進行状況になっていたのは残念ながら否定できない。

とにかく久保は日本サッカー界にとって紛れもなく〝金の卵〟だ。スペイン1部FCバルセロナの下部組織で鍛え上げられ、現在所属のFC東京では既に堂々の主力としてリーグ初優勝を目指すチームをけん引。18歳となったことで海外移籍も解禁となり、欧州の有力クラブから熱視線を送られている。6月14日に開幕する「コパ・アメリカ2019」でも招集メンバー入りしているだけに、ここで活躍を遂げれば今夏にも海外の強豪クラブへ移籍する可能性は十分にありそうだ。

まだ結果を出していない

ただ、そんな〝金の卵〟に注目するのは大いに結構だとは思うが、今回のTBSのようにメディアの度を越した密着ぶりは本人の成長を妨げてしまいそうな気がしてならない。一応念押ししておけば、久保はA代表で上々のデビューこそ果たしたものの、まだ結果を出していない。しかも、この日はホームで行われた格下のエルサルバドル戦。あえて厳しい言い方をするが、いわば〝花相撲〟のような試合だ。

次は強豪が集うコパ・アメリカという〝ガチンコ勝負〟の大舞台。日本中のファンからの期待を背負い、世界から注目も向けられる中、大きなステップを踏むための結果が求められる。だからこそ取材を行う我々メディア側も、いま一度冷静になって未完の大器・久保に接する必要性があると思う。日本の至宝をつまらぬ横やりで潰してしまってはいけない。

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