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AIJ問題を起点に企業年金について考える

もちろん既に速報性は失われていて、一方で厚生労働省も金融庁も、年金と運用について様々に再検討を重ねている最中だろうが、どこにリスクがあるのか、それを誰が負担しているのか、という例の観点から、この問題について今日は取り上げたい。何が起きたのかは、皆さん御存知のとおりだが、一行に要約するなら、本来第三者が評価するところの運用実績が、意図的に誤魔化された。さらに要約するなら詐欺だ。

デリバティブズについての報道も目についたが、投資対象が何であれ、多かれ少なかれ似たような問題は起き得たわけで、そこは放っておこう。存在する「はず」だった資産は、二千億円と大きかった。ハリボテに騙されて金を預ける年金基金が続出した点を責める向きも多いが、資産の管理と運用の指図を分離する契約の下で、こんな改ざんが技術的に可能だと考えなかった専門家は多いだろう。結果的に、年金加入者が受け取るはずだった金の一部は失われ、あるいは(察したか知らないが)架空の運用実績に基づいて解約した年金に移転*1が起きてしまった。その第三者が評価する仕組みについては、空いていた穴は概ね塞がれ、制度は平穏を取り戻すだろう。しかしながら、だからといって、このまま確定給付型の企業年金を続けることが全く素敵でないように思われるのは、今回の事件は、その歴史的経緯の影響*2を強く残す制度が抱える矛盾を明らかにしたのではないか。具体的にいこう。


詐欺のリスクは年金にかかわらず、いつでも、どこにでもある。この世から詐欺を絶滅させることができれば、それは素敵なことに違いないが、膨大なコストがかかってしまうだろう一方で、取り組むべき大きな問題は他にも存在する。年金詐欺事件とも言えるAIJ問題で、最も奇妙だった点をひとつだけ挙げろと言われれば、おそらく被害者は報道では、自分が被害者であることにすら気づかなかったのではないか。


年金は誰のものか。この最も本質的で重要な問いに対して、常に歯切れが悪いのが年金問題の特徴だと、僕は考えている。要するに、騙されたのは年金基金という仕組みの箱で働く理事だが、被害に遭ったのは将来に年金を受け取る加入者で、前者は後者の代理人だが、後者は前者を選んだ覚えはない。会社に入ったら、勝手に加入させられたのだ。事前には小さく見えたとしても、詐欺のリスクも含めて、年金基金は運用者を、つまりAIJ投資顧問を選んだ。えいとリスクをとったわけだ。しかしそれは、年金加入者のリスクだった。どう考えても、構造的な問題じゃないか。もちろん、正確に年金加入者だけのリスクなのかは明らかでない。企業が年金に補填するのなら株主のリスクでもあり、経営者の報酬が減らされるのなら経営者のリスクでもあり、あるいは将来の給料や年金が減るのなら内定者のリスクでもある。


誤解してもらっては困るのだが、リスクを負担することに対して見返りを期待するのは当然だし、また社会の全体から見れば大切な役割でもある。当面は使わない購買力としての年金資産を、さまざまなリスク資産で、時にアクティブに運用することは自然だと僕は思う。とにかく安全のために国債に突っ込んでおくべきだ*3とは、まったく考えない。ではそれが一体どんな構造で実現されれば心地よいのか。


馬鹿みたいに当たり前だが、リスクを負担する本人が、どんなリスクかを選ぶことだ。今回のケースで言えば、AIJ投資顧問のような運用業者を、年金加入者が直接選ぶ。それぞれの加入者毎に勘定を分けて管理し、皆が個別に判断する。全体は、個々の合計だ。もちろんその際には、誰もが詳細な情報を要求し、専門家の助言を仰ぐことのできる環境を整備する必要がある。新たな詐欺行為が出てこないことは事前に保証されていないし、ラッパ吹く「カリスマ」が暴れる悲しい状況を誰も制御できないかもしれない。それでも今回のように、自分でリスクを選んだ覚えもないのに、年金や給料が減らされるよりも多少マシだ。確定拠出型の年金は、そういう思想の下に生まれてきた。



*1:参考人招致や証人喚問の内容にかかわらず、本質的に自転車操業
*2:加入者が多いほど、手作業での煩雑な事務は高コストだ
*3:もちろんリスクは単に隠れている

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