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金融庁レポート「老後2000万円必要」のトリック

金融庁が金融審議会 市場ワーキング・グループによる「高齢社会における資産形成・管理」という報告書を6月3日付で発表し、老後には2000万円必要とするそのレポートの趣旨に野党が気勢を上げ、麻生大臣や菅官房長官が一部表現に不適切なものがある、と非を認めました。

私もその40数ページに及ぶレポートをさらっと拝見しました。第一印象としては多くの統計的資料を基に平均的所帯の在り方を平均数字の上から決めようとしたところにこのレポートの欠陥を見て取りました。

ハーバード大学、個性学研究所所長のトッドローズ氏の著書に「ハーバードの個性学入門、平均思想は捨てなさい」 という本があります。内容が堅い本で読みづらいと思いますが、研究者の視点から極めて重要な指摘がなされています。

それは世の中は平均値を全体の特性だと認識する傾向があるが、世の中、平均値に当てはまるケースはほとんどないというものです。ごく簡単な例を出すと学校の成績に於いて各科目ごとの平均点にすべての教科の成績が一致する人はいますか?まず、そのような生徒はいません。得意、不得意は必ずあり、平均に収まらないはずです。

平均値絶対主義はかつてテイラーシステムが全盛のころの話であり、いわゆる標準偏差の中に収まることこそが優良の証とされたわけです。ところが上述の通り、そんな平均的な人はいないわけで平均値をもって物事を判断するのはおかしいのではないか、というのが本書の趣旨であります。

ではこれが上述の老後の話とどうつながるか、であります。

レポートを読んでいて一番ダイレクトに響いたのが収入と支出の平均像であります。平均実収入が209198円に対して平均実支出が263718円かかるので月々54520円不足すると計算し、これをラウンドし月5万円x12カ月x退職後平均余命30年で約2000万円足りなくなるというのです。

この計算にはいくつもの仮定があります。まず、平均実所得はどこから出てきたのでしょう?サラリーマンと個人事業主は全く違います。またサラリーマンでも大手に長く勤めれば厚生年金に厚生年金基金の3段構えになりますし、小さな会社なら厚生年金まで。一方、個人事業主は国民年金のみです。

263718円という実支出の内訳も面白いもので、老夫婦二人で食費が64000円、飲食25000円、その他の消費54000円、中には家具家事用品が9400円というのもあります。こんな平均的生活をする人はまずいないでしょう。質素だけど旅行する人もいるし、外食が大好きな人もいます。要するに支出の263718円というのは平均であり、十分な収入がない人は当然ながら支出は絞り込む行動に出るはずです。

更に言えばここには経理でいう損益計算書だけの判断で貸借対照表の資産を十分考慮していません。この個人の資産の部分のうち、例えば株に投資し、未実現の利益があるケースや将来相続するかもしれない期待資産があるかもしれません。固定資産である住居は非流動性の資産と考えていると思いますが、リバースモーゲージを組めば景色は全然変わります。

もう一つ、30年という単純な掛け算です。これも人生100年設計という前提がそこにあるのでしょうけれど無職が30年続く人もいれば家賃収入のようにずっと収入がある人もいるでしょう。もちろん、30年生きない人もいます。

つまり、この老後2000万円という数字は確かにいろいろな統計をもとに平均値を積み上げていかにも理論的帰着点のように見えるのですが、ほぼ現実解ではないと断言してよいと思います。ところが2000万円という数字だけが独り歩きしたのが今回の顛末でしょう。

私ならばこんなレポートは作りません。まず、高齢者のセグメントを作ります。例えばサラリーマンがそれぞれ65歳、70歳退職でその後、年金以外無収入になるケース、自営業で75歳まで働くケース、国民年金が満額もらえる人、年金がない人など主だったパターンだけでも最低7-8通りぐらいあるはずですのでそれぞれのケースで実収入、実支出をはじき出す丁寧さが必要だったと思います。

なぜ、様々な人々のライフがある中でたった一つの平均値でレポートをまとめようとしたのか、レポートに関与する21名の立派な肩書のワーキンググループの方々がなぜ、そんな簡単なことに気がつかないのか、私にはさっぱり理解ができないのであります。

ひょっとすると日本人がほぼ単一民族だからケーススタディも一つでよいと考えた、なんてことはないですよね?

では今日はこのぐらいで。

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