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自治体が街中に"ブロンズ像"を増やすワケ

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ふるさと納税で高額の返礼品を出す自治体に、総務省はお怒りのようだ。しかし、私たちのふるさと納税が何に使われているかご存じの人は少ない……。

■バラマキ地方創生、なぜ街中にブロンズ像をつくるか

2019年は統一地方選挙の年であり、多くの地方自治体で地域の未来を決める活発な議論が行われている。有権者にとっては選挙カーの喧しい音を耳にする時期が来ただけかもしれないが、それでも地味だけれども私たちの生活にとっては非常に重要なイベントだ。

本稿では統一地方選挙に際して読者諸氏に地方自治のあり方自体を考えるきっかけを提示したい。そのため、一見して常識となっている地方活性化、特に地方創生を巡る前提をゼロから考え直してみるのはよいことだろう。

■日本創成会議の増田レポートは事実誤認

まず、14年に発表された日本創成会議のレポート「ストップ少子化・地方元気戦略」(座長・増田寛也氏、以下増田レポート)の中で議論されて、その後に様々な地方移住促進政策の根拠になった「人口過密の大都市では、住居や子育て環境等から出生率が低いのが一般的であり、少子化対策の視点からも地方から大都市への『人の流れ』を変える必要がある」「『東京一極集中』は、少子化対策の観点からも歯止めをかける必要がある」という主張を取り上げたい。

元総務大臣、元岩手県知事で現在は野村総合研究所顧問の増田寛也氏。日本創成会議座長も務めた。(時事通信フォト=写真)

実は、この主張を事実誤認であると断言する研究者がいる。八田達夫・アジア成長研究所理事長(政策研究大学院大学元学長)は、増田レポートを真っ向から「事実誤認」と否定している。

「たしかに、都市の中心部は出生率が下がります。しかし、それは結婚して子どもが生まれた場合に郊外に移り住むだけのことです。これは東京、福岡、仙台でも共通に観察されたモデルです。東京都の場合は都道府県を越えて周辺自治体に移り住む範囲が広がっただけです。首都圏全体で見た場合の出生率で考えるべきです」と八田氏は主張する。

つまり、東京都の出生率が低いこと自体は事実であるものの、それは子育て世帯が住環境を変えるために、千葉、埼玉、神奈川などに引っ越しをするだけのことでしかないのだ。したがって、出生率を上げるために、若者を単純に地方に移住させる政策には必ずしも妥当性はないということになる。

■こういう政策は、角栄時代からあった

八田氏は言葉を続ける。

「僕が事実確認をするべきだとある媒体に書いたとき、当時の石破(茂)地方創生相はショックだったと思います。向こうの担当者が来ていろいろな弁解をしたけれども、要するに全く反論はないということでした。それを基盤に政策をスタートしたものだから随分いい加減なものになりました」

では、なぜ誤った事実による地方創生政策が推進されたのであろうか。この点についても八田氏の見解は明瞭だ。

「要するに地方バラマキ政策は昔からあるわけです。田中角栄首相のときに、国土の均衡ある発展と言って頑張ったわけですね。また、農業の補助などで生産性が高い都市から税金を取り上げて地方にばらまく行為は1960年代から行われています。今回は目先を変えて、その名目として出生率を使っただけです。地方にばらまくことが目的なので、それが失われれば別な理由がまた出てくるでしょう。だから、僕は怒りまくっているわけです」

増田レポートを受けて全国の地方自治体では「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、人口目標などを設定してきた。その根幹のあるべき姿を見直す議論が必要なのかもしれない。

■74%の自治体で、市町村民税総額が人件費を下回る

地方自治体は、なぜこのような中央政府からのバラマキ政策を無批判に受け入れるのか。国政における地方偏重の議席構造などはあるものの、その手掛かりは地方財政の現状からもうかがい知ることができる。

アジア成長研究所理事長で、政策研究大学院大学元学長の八田達夫氏。「地方創生政策はバラマキ政策です」

地方財政の現状は中央政府からの財政移転がなければ、そもそも全く成り立たない設計となっている。16年度の地方自治体の決算カードによると、地方自治体は職員人件費すら自前の税収で支払うことが厳しい状況となっていることがわかる。

たとえば、全国1741市区町村のうち、地方税総額(市町村税)を上回る人件費を支払っている地方自治体は約29%、市町村民税総額(個人・法人合計)を上回る人件費を支払っている地方自治体は約74%となっている。最大で地方税の約8倍、市町村民税の約20倍の人件費が支払われている地方自治体も存在し、住民が毎年納めている地方税を職員給与のために支払っていることも、ザラだ。

これらの地方自治体は中央政府からの財政移転である地方交付税や国庫支出金によって、自治体運営の資金の多くを賄っている。日本の地方財政は地方自治体が中央政府に依存することを前提とした仕組みとなっている。

もちろん地方自治体が財政的に破綻することなく運営されているので、現状の日本のような地方財政の仕組みを採用することも1つの考え方と言えるだろう。しかし、地方自治体の中央政府への財政依存は、地方自治の精神を確実に蝕むとともに、地方自治のあり方そのものを根幹から事実上の骨抜きにしている。

日本の地方自治体が住民らに課している地方税には標準税率が設定されている。財政的に中央政府に依存する地方自治体は、地方税を標準税率以上に上げることはできるが、それを引き下げることは極めて困難である。

標準税率を下回る地方税率を設定しようとした場合、地方債に関する制度上のペナルティや地方交付税を受け取りながら減税をすることに対する世論の風当たりなどをクリアしなければ減税政策を実現することはできない。そのため、首長や議会の非常に強いリーダーシップが必要とされることは言うまでもない。

地方税の税率は地方自治の根幹となるものだ。地方分権が徹底している米国の場合、地方税率を引き下げることは、地域の競争戦略や行政改革を推進する手段として重視されている。

■「鉛筆舐め舐めできるようにしてある」

様々な行政需要が発生して行政コストがかかる都市部の税金が高いのに対し、地方は相対的に税金が安いため高税率を嫌った人々や企業が移ることもある。税率とは地域の戦略的意思そのものだと言えるだろう。

前述の八田氏によると、地方交付税の根拠となる地方団体の財政需要を合理的に測定するためにつくられた基準財政需要額にすら問題があるという。

「これはそもそも積み上げて計算できるようなものではなく、実際には鉛筆舐め舐めできるようにしています。全国で確保しなければならない警察や教育などはモデルを決めて国が全額を支払うべきです。そのうえで、地方交付税は人口や面積で明確に算出するとともに、それ以上の公園や公民館などのようなものは地方自治体が自分でやることが当然です」

八田氏の見識は問題の本質を突くものと言えるだろう。統一地方選挙は、国全体で地方自治とは何か、そして地方財政のあり方そのものを議論するよい機会だ。

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