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名もない「人道主義者」たちが今も世界のあちこちで苦しんでいる人たちを救っている - 第91回いとうせいこう氏(中編)

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世界は国家だけでできているのではない

みんなの介護 2017年11月に出版された『「国境なき医師団」を見に行く』(講談社)には、ハイチの災害復興支援、ギリシャの難民支援、フィリピンの貧困支援、ウガンダの紛争難民支援を取材した様子が収められていますが、ネットでの連載はまだ続いていて、紛争地の南スーダンに取材した新しい記事がすでに公開されています。 本を出したら終わり、というものではないんですね?

いとう もちろんです。講談社の文芸誌『群像』には4月発売の号に「国境なき医師団」の日本支部の取り組みを紹介する記事を寄稿したし、「単行本とは別に新書を出したほうが多くの人に伝わる」という提案を講談社の社員時代の僕の同期の編集者がしてくれて、その制作も進んでいます。

みんなの介護 南スーダン編でいとうさんは、「世界は国家だけでできていない」と書かれています。「国境なき医師団」の取材を通じて見えてきたのは、どんな世界なのでしょう。

いとう 南スーダンは2011年にスーダンから独立した新しい国ですが、内戦は1955年から続いていて、国連のPKO軍が平和維持活動をしています。

そこで支援活動をしているのは「国境なき医師団」だけでなく、赤十字やセイブ・ザ・チルドレンなど、さまざまな団体がPKOのすぐ隣の建物に集まって活動しているんですが、その入り口には「ヒューマニタリアン・ベース(人道主義者の基地)」と書かれているんですよ。

彼らの国籍はバラバラなんだけど、「国家の威信を背負ってそこにいる」なんて人は1人もいないんです。個人個人の心の中にある「人道主義」という信条のためにそこにいるんですね。

みんなの介護 その信条とは、どんなものなのですか?

いとう 「人間は平等であり、苦しんでいる人がいれば救われなければならない」という、ごく当たり前の考えです。

その考えは、キリスト教がベースにあるのかもしれないけれど、仏教に「お布施」、イスラム教に「喜捨」という考えがあるようにすべての人がキリスト教徒というわけではありません。

国家でもなく、宗教でもない、「人道主義」による人のつながりを目の当たりにすると、今まで自分が、いかに世界を一面的にしか見ていなかったかを実感させられました。

みんなの介護 ただ、「人道主義」は今の日本人には理解しづらい考え方かもしれませんね。

いとう 残念ながら、そのことには同意せざるを得ないですね。 もちろん、「国境なき医師団」には多くの日本人がいることは間違いありません。ですが、取材を終えて成田空港に着くとき、「彼らの活動を知らない人が日本では多数派なんだ」という事実を思い出して、いつも暗澹たる気持ちになるんです。

彼らのやっていることを「偽善」ととらえる人が多いのも事実だと思います。 ただ、百歩譲ってそれが「偽善」だったとしても、国を追われた難民や飢餓に苦しむ貧困者、災害や伝染病にさらされている人たちを救っているのは彼らだという事実に変わりはありません。彼ら人道主義者たちがいなくなったら、世界は救いのない地獄になってしまう。

みんなの介護 もし、私たちが「国境なき医師団」のために何かできることがあるとすれば、どんなことがありますか?

いとう 「国境なき医師団」の活動資金のほとんどが、一般個人の支援者の寄付によるものだという話はすでにしましたね。 つまり、彼らに寄付することは、「偽善」か否かを評価するまでもなく、彼らの活動の実質的な糧になるんです。

「すべての日本人はヒューマニタリアンになるべきだ」なんて僕は思ってないし、そんなこと言いたくありません。でも、一人ひとりの小さな寄付が彼らの活動を支えていることは知ってほしいですね。

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