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名もない「人道主義者」たちが今も世界のあちこちで苦しんでいる人たちを救っている - 第91回いとうせいこう氏(中編)

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ひょんなきっかけから「国境なき医師団」とかかわった、いとうせいこう氏は、彼らの活動を世に広める広報プロジェクトを推進している。災害地や紛争地帯、飢餓に苦しむ貧困地帯などで人道活動を続ける団の取り組みを見た彼の目に、どんな景色が見えたのだろう?

取材・文/ボブ内藤 撮影/公家勇人

「国境なき医師団」があまりに知られていないことに驚いた

みんなの介護 いとうさんが「国境なき医師団」とかかわることになったきっかけは、何だったのでしょう?

いとう きっかけは、「男日傘」です。 日傘と言えば、女性が持つものというのが今の常識になっているけど、落語を聞くと出てくるんです。夏に日傘を持って出かける旦那衆なんかが。ということは、明治・大正くらいの時期には男も当たり前のように日傘を持っていたことになる。

その習慣をなくしたのは、戦争ですよ。軍国主義に凝りかたまったお偉いさんが根拠のない根性論を振りかざして、国民にやせ我慢を強いたからです。

そんな思いをTwitterに投稿して、「男の日傘をつくるべきだ」と呼びかけたところ、賛同した傘屋さんがドクロのマークが入った日傘を商品化してくれて、そこそこ売れるようになったんです。

パテント料は、最初から貰うつもりもなかったから、売り上げの一部として貰ったお金は特に考えもなく「国境なき医師団」の寄付に回していました。

みんなの介護 そんないとうさんに興味をもった「国境なき医師団」の広報の方が取材を依頼してきたわけですね?

いとう そうです。そこではじめて僕は、この団体の活動の一部を知ることになるわけですけど、すべてがまったく知らないことばかりだったので驚いたんです。そこで、団の人たちが活動しているところを取材させてくださいと、逆取材をその場で申し込みました。

その活動のほとんどは、民間からの寄付でまかなわれている

みんなの介護 「国境なき医師団」というと、災害や紛争などの被害にあっている人たちのところにまっ先に駆けつけ、医療を提供する団体という認識を持っている人は少なくないと思います。いとうさんにとって、どんなことが意外だったのですか?

いとう まず、彼らが紛争国や災害の被災地だけでなく、貧困に苦しむ国や性暴力が頻発する地域なども対象にしていること。パプアニューギニアでは、性暴力被害者である女性に対する医療的、精神的ケアだけでなく、男性による性暴力をなくすための啓蒙活動も行っているとのことでした。

それから、「国境なき医師団」という名前からの連想で、ほとんどが医師や看護師などのメディカルスタッフで構成されていると思ってしまうけど、実はその半分はノンメディカル、すなわちスタッフや患者たちを安全に送り迎えする輸送班、薬剤などの物資を管理する人たち、建物を作ったり直したり、医療に欠かせない新鮮な水を確保する工事スタッフなどのロジスティック隊がメディカルスタッフの仕事を支えているんです。

このことは、現地に行ってより詳しく知ることになるんだけど、メディカルスタッフはノンメディカルスタッフの仕事を非常にリスペクトしていて、「彼らのおかげで医療ができるんだ」と、多くの人が口にしていました。

みんなの介護 そういうことが外部に伝わっていないことにもどかしさを感じて、いとうさんは逆取材を申し出たわけですね?

いとう そうです。問題は、どんなメディアから情報を発信すればいいのかということ。できるだけ多くの人に知ってもらいたいので、ネットがいいなと思って知り合いに話を持ちかけたところ、トントン拍子で話が進んでYahoo! JAPANニュースでの連載が決まりました。その後、ニューズ・ウィーク日本版のサイトにも掲載してもらえることになって、みるみるうちに形になっていった。とても多くの人が僕の企画に賛同し、協力してくれたんです。

みんなの介護 そういうことは、珍しいことですか?

いとう そうですね。何か表現したいことを思いついて、そこからメディアを選んでいくというのは僕にとって、そう珍しくないことだけど、これほど協力者が熱意をこめて頑張ってくれたのは滅多にないです。とても感謝しています。

だけど、何より感謝しなければならないのは、「国境なき医師団」の人たちです。彼らの活動資金のほとんどは民間からの寄付からなっていて、総収入のうち88.8%は一般個人の支援者の寄付によるもの。それに対して法人からの寄付は7.4%に過ぎません(編集部注:2017年度時点での数字)。

法人の寄付がそれだけ少ないのは、独立・中立・公平な立場で医療・人道援助活動を行うためなんだけど、製薬会社や酒造会社、たばこの会社、それから戦争に関係している会社からは寄付を受けないという規約があるほど、彼らの財務体制は潔癖なんです。

そういう貴重なお金の一部を使って取材をさせてもらうわけなので、責任の重さをつねに感じ続けていました。「そのお金を、医師や壊れた設備を修理する電気技師にあてたほうが良かった」などと言われないように、意味のある取材をして多くの人にそれを伝えなければと。

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