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  • 石井志昂

「ひきこもったら危ない」では子どもを追い詰めるだけ 家庭や学校は不登校児の不安解消につとめて

 この数日間、ひきこもりがクローズアップされています。

 きっかけは川崎殺傷事件と練馬で起きた元官僚の父親(76歳)がひきこもりの息子(44歳)を殺害した事件(以下、練馬事件)です。

 川崎殺傷事件などの無差別殺傷事件は「自殺の裏返し」だと言われています。精神科医・高岡健さんは「人間的なつながりが、すべて断ち切られてしまったと感じたとき、自殺へ向かうか、それとも無差別殺人へ向かうかは偶然の理由に基づく」と言います。つまり自殺も無差別殺傷も根本の原因は「孤立にある」というのです。

 川崎殺傷事件は、当然ながら許されない犯行です。そして、この犯行が許されないからこそ、なぜ加害者が孤立したのかに着目し、事件が再発しないよう考えていく必要があります。

広がった 「ひきこもったら危ない」という意識

 しかし現在は背景に着目されるどころか、「ひきこもったら危ない」という意識だけが広がりました。そのことは練馬事件が起きるきっかけのひとつだったと言えます。

 ひきこもりへの恐怖感は、ひきこもっている人をますます孤立させ、苦しませ、追い詰めていく要因にもなります。いま私が一番、感じているのは、報道によってひきこもりの当事者を追い詰められ、むしろ無差別殺傷事件や自殺を助長しないかと危惧しています。

 一方、事件の影響は不登校の人たちにも不安感を与えているそうです。事件を受けて、なんとか不登校を予防しようと、本人の気持ちを無視した学校対応や家庭内の対応などが広がり、追い詰められる人が増えないか、心配でなりません。

 そこで親や先生の方に知っていただきたいことがあります。

 まず不登校になったら「生涯にわたってひきこもる」というのは誤解です。不登校を認めたらひきこもると思われがちですが、ちがうんです。

 不登校のうち、学校へほとんど通わない人(出席日数10日以下)は、全体の1割程度です。半数近くの人は出席日の2回に1回は学校へ通っているそうです。また不登校の4人に1人が年度内に学校復帰し、8割以上の人が高校へと進学します(文科省調査)。

子どもを追い詰める「ちゃんとしなさい」という空気

 それでも、ひきこもる人はいますが「ひきこもったら将来の道は絶たれる」というのも誤解です。もちろんひきこもってすごく苦しい人と、逆に気持ちが楽になって社会に出ていく人がいます。その差について、ひきこもり当事者だった原野有里さん(29歳)は、健全なひきこもりなのか、それとも不健全なひきこもりなのかが分岐だと言います。

 「健全なひきこもりは家のなかを居心地よく感じていて自由にすごせます。一方で『ちゃんとしなさい』とか『いつまで寝てるの』という空気が家のなかにあって、子どもが追いつめられちゃうのはひきこもりのほうが『不健全だな』と。事件で見聞きするようなひきこもりは『不健全さ』ゆえに追いつめられたからだと思っています」(2019/3/15『不登校新聞』)

 原野さんは、小学校4年生の夏休み明けから不登校。きっかけは勉強と同級生からのいじめだったそうです。夏休み明け、原野さんは学校へ行こうとしても起きられず、体が動かなくなりました。その日は学校を休むものの、しだいに「お風呂にすら入らず、昼間は寝ていました。食事も冷蔵庫のものを全部食べる日もあれば、一日中何も食べない日もありました」という日々をすごします。

 それでも「母がすべてを受けいれてくれたので、落ち着きましたね。だからひきこもっていた時間は、今の自分のことを精いっぱい考えられた時間でした。ひきこもって本当によかったと思っています」と語っています。 原野さんのひきこもりが終わったのは小6の春。理解のある家庭の雰囲気のなかで「自然に終わった」と言います。

「すべてを壊して死にたい」衝動から救ってくれた不登校期間

写真AC

 また、私も不登校でした。中学校2年生の冬のことです。ひきこもった期間は少ないのですが「すべてを壊して死にたい」と思っていたこともあります。

 私の不登校は中学受験を機に、いじめ、教員との関係、親からの期待などが相まって不登校になりました(複数の理由から不登校になる人のほうが多いです)。

 自分自身でも「危うい」と感じたのは不登校してからではありませんん。不登校になる前、一日も休まずに学校へ通っていたときです。私の学校の成績は中の上ぐらい。友だちも、多くはありませんがいましたし、生徒会の副会長もやっていました。つまり「問題がなさそうに見える子」でした。でも、心のなかは違いました。

 学校へ行くのが苦しかったからです。ただし、学校がなぜ苦しいのかは言葉になりませんでした。複層的な理由が絡み合っていて、整理をつけることができなかったです。理由がわからずに苦しんでいたとき、無意識に死に方を考えていた時期もあります。家で首をくくれる場所を見つけたり、踏切の前に立つと「線路のなかに入ったら全部が楽になる」と思ったりしたこともあります。

 一方で、なぜか一日中、怒りが収まらず、学校をすべて破壊したいと思っていたこともあります。先生も、同級生も、建物も全部壊したい、と。

 私をそういう怒りや破壊衝動、死にたいという気持ちから救ったのは不登校でした。学校と離れることでした。先の心配はもちろんありました。けれども、それ以上に危険な状態に陥っていました。不登校をしたとき、両親は葛藤をしながらも受け入れてくれ、たまたま出会ったフリースクールとも相性が良かったです。

 私は「苦しい原因からは距離をとり、本人が受けいれられる環境に身を置くことで落ち着く」という不登校やひきこもりに必要な対応をしていただき、助かったわけです。

 不登校したから危ないのでも、ひきこもったから危ないのでもありません。本人の苦しさが放置されていることこそ、危ないんです。それは私が自分の不登校と、たくさんの不登校、ひきこもり経験者から学んだことのひとつです。ひきこもりや不登校になったとき、そういう例があることも知っていただければ幸いです。

プロフィール

BLOGOS編集部
石井志昂(いしい・しこう)/1982年、東京都町田市出身。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員や校則、いじめなどを理由に中学2年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から編集長。これまで、不登校の子どもや若者、識者など400人以上に取材してきた。

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